電気通信大学(電通大)は8月10日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策用としてECサイトで販売されている5000円以下の安価な二酸化炭素濃度測定器(CO2センサ)の精度検証を実施したところ、全体の25%のセンサは低精度ながらもCO2に反応したが、67%はCO2に反応せず、しかもそれらの無反応センサはすべて消毒用アルコールに強く反応することがわかり、CO2濃度を擬似的に表示する測定器が市場に多く出回っている可能性があると発表した。

同成果は、電通大 情報学専攻の石垣陽特任准教授、同・機械知能システム学専攻の榎木光治准教授、同・i-パワードエネルギー・システム研究センターの横川慎二教授らの研究チームによるもの。今回の結果についていは、広く公開し専門家の議論を促すことを目的として、米・イエール大学などが運営する医学分野のプレプリントサービス「medRxiv」に速報原稿(査読を受ける前の原稿)が公開された。

新型コロナの感染拡大を防ぐためには、「換気の悪い密閉空間」や「人の密集」を避けることが有効とされており、飲食店などでも換気が重要とされている。その換気の目安として期待されているのが、室内のCO2濃度の計測・可視化で、電通大でもこれまで、調布駅前商店街との共同実証実験による、飲食店・学習塾・スポーツジムなどのCO2濃度の可視化や、調布市のワクチン接種会場における三密回避を目的とした会場内でのCO2濃度のリアルタイム可視化などを行ってきた。

こうしたさまざまな組織や機関などの取り組みにより、CO2濃度測定の理解が広がりつつあるが、その一方で安価なCO2センサの取り扱いが急増していることが懸念されるという。CO2濃度を体感することは難しいため、センサが正しく動作しているか否かを一般ユーザーが確認するには正しい知識が必要なため、研究チームでは、市場で販売されているさまざまなセンサを購入し、精度検証を実施することにしたという。

今回は、大手ECサイトにて、いずれも感染症対策用と銘打たれて販売されていた価格が2900~4999円の12機種のCO2センサを実験対象としたほか、参照用として、T&D社製の研究用センサとCHCシステム社製の産業用センサも活用して測定が行われた(参照用センサAおよびB)。

  • CO2センサ

    調査に使用された実験装置(写真は一部が加工されている) (出所:電通大プレスリリースPDF)

その結果、12機種のうち8機種がCO2に反応しないため、それ以外の物質を測定していると考えられる結果が示されたほか、別の3機種が測定値に15%以上の誤差はあるものの、CO2には反応しているため、較正すれば感染症対策の目的で使用することも可能と考えられるとしている。残った1機種については、異常値を表示していることから故障していると考えられるとした。

  • CO2センサ

    CO2濃度に対する各センサの応答特性。センサ12機種のうち8機種はCO2に反応しない結果となった (出所:電通大プレスリリースPDF)

さらに、CO2に反応しなかった8機種を調べてみたところ、消毒用アルコールに反応することが判明。この8機種はCO2センサとして販売していながら、アルコールや総揮発性有機化合物(tVOC)など、雑ガスに反応する疑似センサである可能性が高いという結論を得たとしている。

  • CO2センサ

    消毒用アルコールに対する各センサの応答特性。CO2に反応しなかった8機種のセンサは、測定値が2~10倍に急上昇した (出所:電通大プレスリリースPDF)

研究チームでは、感染症対策において故障を含めて誤ったCO2濃度を表示するセンサを用いると、次のような危険性があると警戒している。

例えば1500ppm以上など、本当は換気をすべきCO2濃度であるにも関わらず、センサが過小な値を表示してしまうと、「リスクの過小評価」を招き、その結果として適切な換気や行動変容が起きない。また逆に1000ppm以下など、良好な換気状態であるにも関わらず、CO2濃度が過大な値を表示してしまうと、「リスクの過大評価」となってしまう。さらにそれが繰り返されると、利用者がセンサの表示を無視したり、関心を示さなくなったりする「オオカミ少年効果」へと至ってしまうとしている。

CO2センサとして販売されている以上、それがCO2センサとして正しく機能するものとして信じて利用するのが普通だ。しかし、このように詐欺的なまがい物も販売されていることから、そのリスクを低減するため、研究チームでは、購入したCO2センサがCO2濃度を正しく測定できているかをまず調べることが有効とする。CO2センサの機能を誰でも簡易的に確認できる方法として、以下の3点が提案されている。どれか1点を実行するだけでも確認できるが、3点とも試してみるのがより確実だろう。

  1. 屋外の新鮮な空気の中で、400ppm前後(目安として340~460ppmの範囲程度)を表示するかをまず確認。数値が大きくズレているセンサは、換気モニタには使用しないことが推奨されるという。ただしセンサによっては、屋外の新鮮な空気を使って値を調整(較正)する機能がついている場合もある。そのような場合は、取扱説明書の指示にしたがって調整するのが望ましい。
  2. センサに息を吹きかけたとき、濃度(ppm)が取扱説明書に示された測定限界値まで上がることを確認する。もし息を吹きかけてもすぐに反応しない場合は、透明なビニール袋にセンサを入れた後に、その袋を呼気で膨らませ、様子を見るといいという。それでも反応しないセンサは、CO2センサではないもしくは不良品の可能性があるとしている。
  3. 消毒用アルコールを吹きかけた手をセンサに近づけ、CO2濃度が上昇しないことを確認する。もし大幅に上昇すれば、CO2ではなくほかのガスに反応する疑似センサが使われている詐欺的CO2センサの可能性が高いという。このようなセンサもまた、感染症対策としての換気モニタリングには使用しないことが推奨されるとしている。

なお、参照用として今回利用されたT&D社およびCHCシステム社製のCO2センサは直販オンラインショップやECサイトなどで一般の個人でも購入が可能だ。価格は、標準タイプのものが5万円~5万5000円ほどとなっている。