新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、産業技術総合研究所(産総研)、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)、日本触媒の4者は6月18日、CO2とH2から合成できる「ギ酸」と「アルケン」(エチレン系炭化水素)から、高効率な触媒を用いることで、化学品の基幹原料「カルボン酸」を合成する技術を開発したと発表した。
今回の成果の詳細は、2021年6月28日・29日に新化学技術推進協会が開催する「第10回JACI/GSCシンポジウム」で発表される予定だという。
ギ酸(蟻酸)は、CO2とH2から高効率に合成される液体の有機化合物で、化学式「HCOOH」で表される分子量が最小のカルボン酸で、安価に合成でき取り扱いが容易なことに加え、CO2利用の拡大につながるほか、近年では、水素貯蔵材料としても期待されるようになっている。
ギ酸を出発点として合成される物質として、ギ酸を使用したアルケンの「ヒドロキシカルボニル化」によるカルボン酸合成がある。こうして合成されるカルボン酸は、副生成物がないため、環境やコスト面からギ酸の効率的な利用方法として注目されてきた。
この合成反応は、生成するカルボン酸がポリエステル、PMMA、高吸水性樹脂などの高分子材料、医薬品、農薬などの有用化学品の基幹原料となるため、工業的な応用も期待されているが、これまでの報告例では、高圧条件や有毒で爆発性の高い一酸化炭素(CO)の使用、触媒以外に毒性・刺激性が高い「ヨウ化メチル」など、環境負荷の高い複数の添加剤を大量に使用することが問題となっていた。
こうした背景を受け、NEDOは2016~21年度にかけて「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」を実施し、計算・プロセス・計測の三位一体による有機・高分子系機能性材料の高速開発に取り組んだ。その一環として、産総研、ADMAT、日本触媒との共同開発で、より安全で環境調和性の高いカルボン酸合成技術の開発が行われ、今回の成果発表となったという。
ギ酸を使用したアルケンのヒドロキシカルボニル化反応は従来、触媒としてロジウム錯体「Rh2Cl2(CO)4」、添加剤として環境負荷や毒性の高い「トリフェニルホスフィン」と「ヨウ化メチル」、ギ酸の分解を促進する「p-トルエンスルホン酸水和物」(p-TsOH・H2O)が使用されてきた。
そこで今回の研究においては、さまざまな触媒と添加剤の組み合わせの調査として、実験と計算科学を協働させ、反応経路のコンピュータによる自動探索計算技術(AFIR法)で、触媒や反応基質、複数の添加剤が関与する複雑な反応の機構の解析が行われた。その結果、触媒として、「ヨウ素配位子」と「トリフェニルホスフィン(PPh3)配位子」を持つロジウム錯体「RhI(CO)(PPh3)2」を用いると、添加剤として比較的安全な「テトラメチルアンモニウムヨージド」(Me4NI)と「p-TsOH・H2O」のみを用いても反応が高効率で進行することを見出すことに成功したという。
また、この反応の詳細検討により、ロジウム錯体触媒「RhI(CO)(PPh3)2」と「Me4NI」と「p-TsOH・H2O」の反応中にロジウム錯体「RhHI2(CO)(PPh3)2」が生成することが判明したほか、「RhHI2(CO)(PPh3)2」がヒドロキシカルボニル化反応の真の触媒であることが判明。さらにこの「RhHI2(CO)(PPh3)2」は、「RhI(CO)(PPh3)2」と「ヨウ化水素」(HI)の反応により、容易に高収率で合成できることが判明したという。
加えて、「RhHI2(CO)(PPh3)2」を触媒として用いた、ギ酸によるシクロヘキセンのヒドロキシカルボニル化反応を検討した結果、ギ酸の反応を加速することが知られている酢酸を溶媒として用いることで、添加剤を加えることなく、シクロヘキサンカルボン酸が高収率で得られることが判明したとする。
今後、研究チームは今回開発された触媒系の反応効率をさらに向上させるために、ロボティクスを活用したハイスループット実験による、触媒のさらなる改良を迅速かつ効率的に実施する計画で、最終的には、化学品の連続生産技術であるフロー合成に使用できる固定化触媒の高速開発を目指すとしている。