スペインのロケット・ベンチャー「PLDスペース」は2021年5月27日、開発中の小型・超小型衛星打ち上げ用ロケット「ミウラ5」の第1段機体(ブースター)を再使用する計画について、実現に向けさらなる研究や実証を行うと発表した。

欧州宇宙機関(ESA)との契約に基づき、ブースターを着陸させるのに必要な大気圏再突入や、超音速での降下に関する研究のほか、最適な着陸、回収方法などの検討を行う。打ち上げは2024年以降を予定している。

  • PLD Space

    ミウラ5のブースターを回収する案のひとつ。ロケットエンジンで減速し、パラシュートで着水する (C) PLD Space

PLDスペースの「ミウラ5」ロケット

PLDスペース(PLD Space)は、スペインにあるロケット・ベンチャーで、サブオービタルの観測ロケット「ミウラ1(Miura 1)」と、小型・超小型衛星打ち上げ用ロケット「ミウラ5(Miura 5)」を開発している。

ミウラ5は全長25m、直径1.8mで、高度500kmの太陽同期軌道に300~500kgの打ち上げ能力をもつ。近年、世界中に開発が活発に行われている超小型ロケット(Mirco launcher)のひとつである。

まずミウラ1の開発、運用を行い、その成果をミウラ5に適用する形で開発を進めるとしており、ミウラ1は2021年中に、ミウラ5の初打ち上げは2024年を予定している。

  • PLD Space

    ミウラ5の想像図 (C) PLD Space

同社はまた、並行して、ミウラ5の第1段機体(ブースター)を回収し、再使用する計画も進めている。

同計画は2017年に明らかにされ、欧州宇宙機関(ESA)による将来の宇宙輸送ソリューションのための研究開発プログラムであるFLPP (Future Launchers Preparatory Programme)に採択。機体を回収、再使用するための基礎的な研究を行い、2019年にはミウラ5のブースターを模した機体をヘリコプターから投下し、パラシュートを開いて降下、着水させる試験も行った。

こうした成果を踏まえ、今回PLDスペースとESAは、新たに「FLPP-LPSR2 (Liquid Propulsion Stage Recovery 2)」という契約を締結。契約額は100万ユーロで、ミウラ5の再使用に向けた技術実証機の開発に向け、ブースターを回収する技術について、さらなる研究を行うとしている。

現時点では、回収方法に関してはいくつかのシナリオが考えられており、パラシュートだけで海上に着水する案やエンジンを噴射して着水する案、さらに途中でエンジンを噴射して減速し、最終的にはパラシュートだけで着水する案などがある。また、着水だけでなく、発射台まで帰ってきて着陸させる案もオプションとしてありうるとし、こうしたさまざまなシナリオについて、実現可能性や効率などの面から検討を行うとしている。

具体的には、大気圏再突入時にロケットエンジンの噴射によってブレーキをかけ、ロケットが発射台から水平方向に移動する距離を縮める技術の研究や、エンジンによる制動と飛行経路の変更によって海上や発射台近くの地上に設けられた着陸場所に着陸させる技術の研究、そして第1段から分離した第2段の飛行を最適化するため、第1段の上昇時の飛行経路の最適化の研究などを行うという。

さらに、再突入時にエンジンの推力を制御するための技術とプロセスの研究、実機サイズの推進剤タンクの製造と再使用性、疲労サイクルの研究、そしてミウラ1の電子機器をミウラ5に適用できるか、とくに再使用打ち上げにも適用できるのかの研究などを行うとしている。また、さらに実機に近い状況で、大気圏内での降下試験も行うとしている。

同社によると、ロケットの回収は技術的・運用的に複雑であることから、初期型のミウラ5は使い捨てになる予定だという。今回の契約で行われる技術・研究開発が順調に進めば、LPSR2は「フェイズ2」へと移り、回収のための改良を行った「ミウラ5 ヴァージョン2.0 (ブロック2)」を開発し、運用に投入したいとしている。

  • PLD Space

    2019年に行われた、ミウラ5のブースターを模した模型をヘリコプターから投下し、回収する試験の様子 (C) PLD Space

PLDスペースの共同設立者でCEOを務めるラウル・トーレス(Raul Torres)氏は、「大気圏再突入は、隕石のようなもので、ロケットの構造やエンジンなどにダメージを与える過酷な環境です。このESAとの新たな契約により、極超音速と超音速での飛行における再突入とエンジンによる制動に関する研究が進展することを期待しています。さらに、これまでミウラ1のために開発した技術を、超音速環境での空力的な制動環境で検証することで、のちのミウラ5での応用に向けて多くの情報を得ることができます」と語る。

また、回収の難しさについては、「たとえばパラシュートによる減速では、170m/s程度の速度を10m/s程度までしか落とすことができません。より大きな問題は、極超音速や亜音速の状態から、パラシュートが開ける速度まで、どうやって速度を落とすか。そして構造体やロケットエンジンを壊すことなく、いかにして着水させるかということです」と語っている。

ロケットの回収、再使用をめぐっては、米国のスペースXが大型ロケット「ファルコン9」で実用化に成功。また、ミウラ5と同じ超小型ロケットの分野でも、米国のロケット・ラボ(Rocket lab)の「エレクトロン」ロケットが、実用化に向けて試験を行っている。

  • PLD Space

    ミウラ5のブースターを回収する案のひとつ。打ち上げた場所の近くまで帰ってきて、エンジン噴射やパラシュートで着陸する (C) PLD Space

参考文献

PLD Space receives 1M euro contract from ESA to study the reuse of the MIURA 5 booster
MIURA 5