米宇宙企業スペースXは2021年5月9日、大型再使用ロケット「ファルコン9」の打ち上げに成功した。

同機に使われた第1段機体(ブースター)は、昨年3月に初めて打ち上げに使われたもので、その後も飛行を重ね、今回が10回目の打ち上げ。ブースターの飛行回数が2桁の大台に乗ったのはこれが初で、同社が目指す再使用ロケットによる宇宙輸送の革命に向けた大きな一歩となった。

そして同社はまた、「打ち上げコスト100分の1」を目指した挑戦も続けている。

  • スペースX

    2021年5月9日に行われたファルコン9ロケットの打ち上げ。この第1段機体(ブースター)は、今回が10回目の飛行となった (C) SpaceX

再使用ロケット「ファルコン9」

ファルコン9(Falcon 9)は、スペースXが開発した大型ロケットである。初期型は2010年にデビューし、改良を重ねながらこれまでに118回打ち上げられ、116回が成功。また2018年にデビューした現行型の「ブロック5」は、62回の打ち上げすべてが成功している。

ファルコン9 ブロック5は、全長70m、直径3.7m。推進剤にケロシンと液体酸素を使う2段式ロケットで、国際宇宙ステーション(ISS)などが回る地球低軌道に最大約22t、静止トランスファー軌道(衛星を静止軌道に乗せる前に一時的に投入する軌道)に最大約8.3tの打ち上げ能力をもつ。これは米国の「アトラスV」や欧州の「アリアン5」、日本の「H-IIB」、ロシアの「プロトンM」など、世界の主力大型ロケットとほぼ同等の打ち上げ能力である。

さらに、有人宇宙船を搭載して打ち上げられる能力、信頼性ももち、スペースXが独自に開発した「クルー・ドラゴン」宇宙船の打ち上げにも使われている。

そして同機の最大の特徴は、第1段機体(ブースター)を打ち上げ後、着陸させて回収し、繰り返し再使用できるという点にある。同社はその目的を、打ち上げコストの低減と説明する。

ファルコン9は打ち上げ後、所定の高度と速度に達したところで、ブースターの燃焼をいったん止め、衛星を積んだ第2段機体を分離する。第2段はそのまま所定の軌道に向けて飛行する一方、ブースターはグリッド・フィン(格子状の小さな翼)を展開。そして窒素ガスを噴射するスラスターを使って機体の向きを変え、ロケットエンジンを下にして大気圏に再突入し、またエンジンに再点火して減速する。

そして最終的に、着陸用の無人のドローン船、もしくは陸地に設けられた着陸場の上空でエンジンをまた点火し、軟着陸する。機体はその後メンテナンスを受け、次の打ち上げに使われる。

スペースXはまず、ブースターを模した試験機を使って垂直離着陸の試験を実施。続いて、実際に打ち上げに使うファルコン9のブースターに、グリッド・フィンやスラスター、着陸脚などを装備し、はじめは海上に、やがてドローン船に着陸させる試験に移った。実際の打ち上げで試験をするとはいっても、着陸に必要な動作は2段目の分離後から行うこと、その時点でブースターは用済みとなっていることから、積んでいる衛星、またその顧客にほとんどリスクを与えることなく試験を進めることができた。

2015年12月22日には、地上の着陸場にブースターを着陸させることに初めて成功。2016年4月8日にはドローン船への着陸にも成功した。これ以降、たびたび失敗したり、またミッションの都合で回収が行われなかったりしつつも、大半の打ち上げで着陸が行われ、その成功率もきわめて高い数字を維持している。

そして2017年3月30日、初となるブースターの再使用による2回目の飛行が行われ、無事に成功。その後、徐々にブースターの再使用回数が増えていき、やがて3回目、4回目の飛行をこなすブースターも現れるなど、いまではファルコン9の打ち上げではブースターを再使用することが当たり前となった。

最初の再使用打ち上げが成功したとき、スペースXを率いるイーロン・マスク氏は次のように語っている。

「私たちは今日、人工衛星打ち上げロケットの第1段機体を初めて再使用することに成功しました。今日は宇宙開発にとって、そして宇宙産業にとって、驚くべき日になったと思います。大いなる進化であると言っても良いでしょう。ここにたどり着くまでに、15年もの歳月がかかりました。とても長く、険しい道のりでした。今日はスペースXにとってだけではなく、宇宙産業全体にとっても、そして何より、多くの人々が『不可能だ』と言ったこの再使用のアイディアを、可能だと証明できたという意味でも、本当に素晴らしい日です」。

  • スペースX

    ファルコン9のブースターは、2015年12月、初めて着陸に成功。翌年4月には画像のように、ドローン船への着陸にも成功した (C) SpaceX

ブースター「B1051」の10回目の飛行

今回飛行したブースター、シリアルナンバー「B1051」の機体は、2019年3月にクルー・ドラゴン宇宙船の無人飛行試験(Demo-1)の打ち上げで初めて使用されたもので、その後、以下のように民間企業の衛星や、スペースXが自社で構築を目指している宇宙インターネット計画「スターリンク」の衛星などの打ち上げにも使用。そして、今回が10回目の飛行となった。

  • 2019年3月2日……クルー・ドラゴンDemo-1の打ち上げ
  • 2019年6月12日……カナダの地球観測衛星「レーダーサット(RADARSAT)の打ち上げ
  • 2020年1月29日……スターリンク衛星の打ち上げ
  • 2020年4月22日……スターリンク衛星の打ち上げ
  • 2020年8月7日……スターリンク衛星の打ち上げ
  • 2020年10月18日……スターリンク衛星の打ち上げ
  • 2020年12月13日……米国の衛星放送会社シリウスXMの放送衛星「SXM-7」の打ち上げ
  • 2021年1月20日……スターリンク衛星の打ち上げ
  • 2021年3月14日……スターリンク衛星の打ち上げ
  • スペースX

    シリアルナンバーB1051のブースターは、2019年3月、クルー・ドラゴンDemo-1の打ち上げで初めて使われた (C) SpaceX

今回もスターリンク衛星を積んだファルコン9は、日本時間5月9日15時42分(米東部夏時間同日2時42分)、ケープ・カナベラル宇宙軍ステーションの第40発射施設から離昇した。

ロケットは順調に飛行し、離昇から約2分半後に第2段を分離。第2段はそのまま衛星を軌道へと運ぶ一方、ブースターのB1051はグリッド・フィンを展開し、機体を反転させたのち、大気圏に再突入。エンジンを再点火し、発射場から北東に約630kmの大西洋上に待機していたドローン船「指示をよく読め」号に着陸した。

第2段は衛星の軌道投入にも成功。「指示をよく読め」号はその後、フロリダの港に戻り、B1051は同社の施設でメンテナンスを受けている。

スペースXは、複数のファルコン9のブースターを運用しているが、10回という2桁の大台に乗ったのは、B1051が初めてとなった。

打ち上げの中継を担当していた同社のマイケル・アンドリューズ(Michael Andrews)氏は「このブースターはふたたび打ち上げられるでしょう」と述べ、11回目の飛行の可能性を匂わせている。

  • スペースX

    10回目の着陸に成功したB1051 (C) SpaceX