大阪大学(阪大)と科学技術振興機構(JST)は4月1日、木材由来のナノレベル繊維「セルロースナノファイバー(CNF)」を電子回路にコーティングすることで、水濡れ故障を長時間防ぐことが可能であることを発見したと発表した。

同成果は、阪大 産業科学研究所の春日貴章大学院生(日本学術振興会特別会員DC1)、同・能木雅也教授らの研究チームによるもの。詳細は、米国科学誌「ACS Applied Nanomaterials」に掲載された。

電子機器は水に弱いが、その実態は水が付着してから、さまざまな化学的、物理的な現象を経て、故障に至る。特に水が触れることで問題となるのが、電子回路の金属部分だ。金属に水が付着すると、「イオンマイグレーション」が発生し、析出された金属イオンが回路に短絡を起こさせ、電流が不適切に流れ、その結果、故障につながるだけでなく、最悪の場合は発火につながることもありえる。

こうした水に濡れたことで生じる故障を防ぐためには、電子回路に水が触れないようにする必要がある。逆に言えば、水没しても電子回路に水が触れなければ、イオンマイグレーションが発生せず、短絡も起きないため故障が起こることがないということになる。

つまり電子回路を何らかの水をはじける物質でコーティングしてしまえば問題を解決できるということになるが、研究チームは今回、一般的な疎水性のコーティングではなく、セルロースナノファイバー(CNF)を利用することを思いついたという。

実際にCNFを含むコーティング液を作成し、電子回路上に塗布し、イオンマイグレーションの発生過程の評価が実施された。

その結果、コーティングをしなかった従来の電子回路は水没後数分で短絡してものの、CNFコーティング回路では水没後24時間経っても短絡しないことが確認されたという。

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    電子回路にCNFコーティング液を塗布することで、水濡れ故障や発熱・発火といった事故を防ぐことが可能になる (出所:共同プレスリリースPDF)

短絡がなぜ発生しないのか詳細な解析を行った結果、乾燥状態で積層していたナノ繊維が吸水・再分散し、陽極の周囲に電気泳動することで「集まり」、陽極から溶け出した金属イオンを吸着して「固まるゲル化する」というメカニズムが判明したという。

また、このコーティングは、たとえ損傷してしまったとしても、CNFが損傷部を修復するように電気泳動して集まるため、コーティングが破損するような過酷な状況でも水濡れ故障を抑制することが可能であることも確認されたとする。

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    既存技術とはまったく異なるメカニズムで水濡れ故障を防ぐため、コーティングが損傷した状態からでも効果が発揮される (出所:共同プレスリリースPDF)

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    CNFによる短絡を抑制するメカニズム (出所:共同プレスリリースPDF)

今回開発されたCNFコーティングは、既存技術との組み合わせも容易であり、防水コーティングとCNFコーティングの積層により、さらなる安全性の向上が期待できると研究チームでは説明しているほか、今回判明したメカニズムを用いた新たなデバイス技術の実用化もありえるとしており、特に屋外で用いられるウェアラブルデバイスやヘルスケアデバイスにおける安全性と耐久性の確立にもつながることが期待できるとしている。