大阪市立大学は3月23日、ストレスホルモンの「コルチコトロピン放出ホルモン」が、ヒト鼻粘膜内のアレルギー発症に関わっている「肥満細胞」の増殖と「脱顆粒」を誘導することを明らかにしたと発表した。

同成果は、大阪市立大大学院医学研究科皮膚病態学の高市美佳大学院生、同・鶴田大輔教授らと、大阪市立大附属病院耳鼻咽喉科、米・マイアミ大学の国際共同研究チームによるもの。詳細は、国際学術雑誌「International Journal of Molecular Sciences」に掲載された。

アレルギー性鼻炎や気管支喘息といったアレルギー疾患は、精神的ストレスによって悪化することが知られているが、その詳細なメカニズムについてはまだ明らかになっていない。

研究チームのこれまでの研究によると、ヒトの皮膚において、アレルギーの発症に関わっている免疫細胞の一種である肥満細胞が、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH:corticotropin releasing hormone)の受容体である「CRH受容体タイプ1」(CRHR1)を持ち、それを介したシグナルで制御されることが確認されている。このCRHは、ストレス応答において重要な役割を担うホルモン(ストレスホルモン)として知られている。

肥満細胞はアレルゲンと反応すると脱顆粒を生じ、化学物質を放出してアレルギー症状を引き起こす。脱顆粒とは、細胞内に見られる顆粒の中に含まれる化学物質が放出されることをいう。

そこで今回の研究では、CRHが皮膚型の肥満細胞同様に、粘膜型の肥満細胞を活性化してアレルギー性疾患の病態に関与する可能性を考察。ヒト鼻ポリープ組織培養系を用いた研究が実施された。

その結果、以下のことが明らかになったという。

  1. ヒト鼻粘膜の粘膜型肥満細胞は、CRHR1を発現していた。
  2. 鼻ポリープ組織培養系へのCRH添加により、粘膜型肥満細胞の細胞分裂が促進され、肥満細胞の数が著明に増加することが判明。さらに、同細胞の脱顆粒の割合も増加しすることがわかった。
  3. CRH添加によって、肥満細胞の増殖因子であるStem cell factor(SCF)の鼻粘膜上皮内での発現が上昇。
  4. CRHによる粘膜型肥満細胞への影響は、CRHR1遺伝子ノックダウン、CRHR1阻害薬またはSCF中和抗体の添加によって有意に阻害されることが確認された。またSCFの粘膜上皮内の発現は、CRHR1遺伝子ノックダウンにより阻害された。
  5. 慢性拘束ストレスモデルマウスを用いた実験の結果、ストレス群のマウスでは、鼻腔粘膜内での粘膜型肥満細胞数が増加していたうえに、同細胞の脱顆粒の割合も増加していることが明らかとなった。また、これらの肥満細胞への影響は、CRHR1阻害薬「アンタラルミン」の鼻腔投与で阻害されることが確かめられた。
  • アレルギーとストレス

    (左)通常の状態の肥満細胞。(右)CRH添加により脱顆粒を生じた肥満細胞 (出所:大阪市立大プレスリリースPDF)

  • アレルギーとストレス

    (左)拘束ストレスモデルマウスにおける、鼻粘膜内の肥満細胞数と脱顆粒。(右)慢性拘束ストレスモデルマウスにおける、鼻粘膜内の肥満細胞数と脱顆粒に対するアンタラルミンの効果 (出所:大阪市立大プレスリリースPDF)

これらの結果から、CRHによる粘膜型肥満細胞の増殖と脱顆粒の促進は、CRHR1依存性であり、さらにSCFによっても制御されていることが確認されることとなった。またマウスを用いた実験では、実際の精神的ストレス(拘束ストレス)がCRH-CRHR1のシグナルを介して鼻腔粘膜内の肥満細胞を活性化している可能性も示唆されたという。

  • アレルギーとストレス

    今回の発見内容の模式図。ストレスによってCRHが放出され、肥満細胞増殖と脱顆粒を誘導につながる (出所:大阪市立大プレスリリースPDF)

今回の研究で、ストレスホルモンであるCRHが粘膜型肥満細胞を活性化することが示され、さらにモデルマウスを用いた実験では、実際にストレスによって粘膜型肥満細胞の活性化が誘導されることが確認されたとのことで、研究チームでは、これらの成果により、CRHR1を介したCRH-肥満細胞のシグナル制御は、アレルギー性鼻炎をはじめとする、ストレスに関連した難治性アレルギー疾患の新規治療薬開発につながる可能性が期待されるとしている。