広島大学は3月22日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のPCR検査などにおいて、手動のためにボトルネックとなっている検体の前処理を自動化した「COVID19検体前処理自動機」を開発したと発表した。

同成果は、広島大大学院 医系科学研究科・細胞分子生物学研究室の田原栄俊教授、同・疫学・疾病制御学の田中純子教授、同・ウイルス学の坂口剛正教授、同・移植免疫学・消化器外科学の大段秀樹教授、同・感染症学の大毛宏喜教授らの研究チームによるもの。

SARS-CoV-2の感染者のスクリーニング検査として、現在世界中で膨大なPCR検査などが実施されている。現状、感染性のある検体は安全キャビネットとよばれる設備で人が手作業で検査に必要な作業をする前処理が必要なため、検査がスピードアップできないことが課題となっている。

中でも、感染性の高い鼻咽頭スワブ、唾液、血液、糞尿などを扱う場合に、臨床検査技師の感染リスク、検体からの核酸精製やPCR検査を手作業で行うことによる検査精度管理が煩雑となる点が大きな課題とされている。PCR検査用機器を増やせばスピードアップできると思うかもしれないが、ことはそう単純ではない。手作業で行われている検体の前処理をスピードアップできないことが、検査の数を増やせないボトルネックとなっている理由なのだ。

そこで研究チームは今回、検査センターで受け入れた検体チューブをそのまま置くだけで、チューブをピックアップして、フタの開閉を行い、唾液などの検体を採取して検査チューブなどに移す作業を自動で行える機器の開発に挑むことにしたという。

今回の研究は、前処理の自動化を行うため、既存の機器を流用するのではなく、産業用オートメーションメーカーであるフェストの部品を用いた独自に機器の開発が行われた。医療現場で検体を回収する際や移送することなどに用いられている容器と、検査機器に適した容器では形状が異なる。そのため、検体をある容器から別の容器に移し替える「分注」は、検査を行う上では必須の作業となる。こうした細かい作業も自動化する必要があった。

今回の開発では、検体の分注のトラッキング(誰の検体をどこのチューブに入れたか)、自動での検体チューブの開栓と閉栓、自動での検体の分取と分注、検査プレートへの分注を自動化するシステムの検討がなされた。

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    今回開発されたCOVID19 検体前処理自動機の自動化プロセスの概要 (出所:広島大学プレスリリースPDF)

その結果、以下のような機能が導入された。

  • 検体のトラッキング用バーコードリーダー
  • チューブに入っている検体の量を測定するデバイス
  • チューブの開栓および閉栓ができるシステム
  • 検体の分注用自動ピペッター(検査に必要な検体の正確な採取が可能)

そして検体のピックアップと分注作業などが並列で作動するようシステムが構築され、1分未満で、1つの検体を分注できる検体前処理自動機が完成した。

また、クロスコンタミネーション(検体の汚染)が起こりにくい仕組みを実現するため、地元広島の株式会社アスカネットが開発した空中ディスプレイ(空中結像技術)を用いた検査制御システムを採用。検査スピードと同時に精度の向上を実現したという。

今回開発された「COVID19 検体前処理自動機」は、アジレントの分注機と組み合わせての利用が想定されている。検体前処理自動機で45検体に対して同時に前処理を行い、そののちに分注機でPCR反応溶液を45検体同時に分注する。PCR検査は約50分で完了となる。24時間連続稼働させた場合、1日に1080検体の処理を行うことが可能だ。

COVID19 検体前処理機器は、地方衛生研究所や民間衛生検査所での使用を想定して、安全キャビネット内にインストールして使用できるフォーマットで開発が進められている。今後、COVID19 検体前処理機器を安全キャビネット内に設置した形での実用化を予定しているという。さらに、部品提供会社がグローバルでの部品提供を行っていることから、COVID19 検体前処理機器の実用化の際にはグルーバルでの展開も視野に入れているとした。

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    安全キャビネット内にセットされたCOVID19 検体前処理自動機とその概要 (出所:広島大学プレスリリースPDF)