米宇宙企業スペースXは2021年3月4日(日本時間)、開発中の巨大宇宙船「スターシップ」の試作機「SN10」の高高度飛行試験に成功した。

試験後には爆発したものの、高高度飛行試験が成功したのは3度目にして初めて。スターシップは2023年に、実業家の前澤友作氏ら9人を乗せて月へ飛行する予定で、実現に向けて大きなはずみがついた。

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    着陸に向けて姿勢を変えるスターシップSN10 (C) SpaceX

スターシップSN10とは?

この試験は「高高度飛行試験(high-altitude flight test)」と呼ばれるもの、高度約10kmまで上昇したのち、機体を寝かせて降下し、着陸直前に機体を立て、垂直に着陸するといった一連の流れを確認することを目的としたもので、昨年12月には「SN8」が、また今年2月にも「SN9」が同様の試験に挑んだが、着陸に失敗し、爆発炎上という結果に終わっている。

スターシップSN10は、日本時間3月4日8時14分(米国中部標準時3日17時14分)、テキサス州ボカチカにあるスペースXの試験施設から離昇した。

SN10は途中、加速度を抑えるために3基あるエンジンを1基ずつ停止しながら上昇を続け、高度約10kmに到達。また同時に、エンジンに推進剤を送り込むタンクを、上昇時に使うメイン・タンクから、着陸時に使う前部タンクに切り替える動作を行った。

そして、水泳の腹打ち飛び込みのように機体を寝かせた、「ベリィ・フロップ(belly flop)」と呼ばれる姿勢にして降下を開始した。スターシップは機体の後部に大きな翼を、また前部にはやや小さな翼をもっている。これは「フラップ(Flap)」と呼ばれるが、一般的な航空機がもっている高揚力装置としてのフラップではなく、もともとの英単語がもつ「パタパタと開閉するもの」という意味のとおり、スカイダイバーが手足をばたつかせながら降下するように、折りたたんだり広げたりして動かすことで機体を制御するようになっている。

着陸の直前には、3基のラプター・エンジンを再点火し、機体の姿勢を垂直に立てる「フリップ・マニューヴァー(flip maneuver)」を実施。噴射するエンジンを2基、次いで1基と徐々に減らしつつ、そして離昇から約6分20秒後に着陸に成功した。

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    ラプター・エンジンを噴射しながら上昇するスターシップSN10 (C) SpaceX

これまでのSN8、9の高高度飛行試験では、着陸に失敗し、爆発する結果に終わっていた。着陸に成功したのは今回が初めてで、まさに「三度目の正直」となった。

SN8、9の試験では、まず2基のラプターに再点火し、最終的には1基を停止させ、1基のみで着陸していた。しかし、エンジンの1基が再点火に失敗したり、推力が弱かったりした結果、着陸に失敗する結果となっていた。そこで今回は、まず3基すべてのラプターを再点火し、正常ならすぐ1基を停止させることで、確実に2基のラプターを噴射できるようにする方法に改められた。

ただ、試験後、スペースXのイーロン・マスクCEOは、「エンジンの推力を上げるようコマンドが出ていたにもかかわらず、実際には推力が低く、やや速い速度でタッチダウンしてしまいました。その結果、着陸脚が折れてしまいました。現時点では理由はわかりません。こんなことはこれまで一度もなかったのですが……」と明らかにした。また、改善策として「これまでは最終的に1基のエンジンのみで着陸していましたが、次回は2基のエンジンを噴射させながら着陸するようにします。もし2基のうち1基に問題があれば、残りのもう1基を噴射させます」としている。

くわえて、着陸成功の数分後、機体は爆発し、喪失する結果に終わっている。原因は不明だが、着陸後に機体がやや傾いていたことや、燃料のメタンと思われるガスが漏れているように見えたことから、やや速い速度でタッチダウンしたためどこかが損傷し、燃料が漏れ、それに引火したものとみられる。

それでも、試験の本来の目的は達成されたことで、スターシップの開発は大きな進展を果たし、さらなる開発に向け、大きなはずみがついた。

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    水泳の腹打ち飛び込みのように機体を寝かせた、「ベリィ・フロップ(belly flop)」と呼ばれる姿勢で降下するスターシップSN10 (C) SpaceX

2023年には前澤友作氏らを乗せ月へ

スターシップはスペースXが開発している宇宙船で、同じく巨大なロケット「スーパー・ヘヴィ」で打ち上げる。打ち上げ時の全長は120mにもなり、最大100人の乗組員、もしくは100tの物資を積んで、地球低軌道や月、火星などへ飛行することができる能力をもつ。

スペースXは、月や火星に人類を移住させる構想を進めており、スターシップとスーパー・ヘヴィは、それを叶える主役と位置づけられている。

機体には特殊なステンレスを使い、高い耐久性や耐熱性をもたせている。またラプター・エンジンは、経済性や入手性に優れたメタンと液体酸素を推進剤とし、エンジン構造も高い効率やメンテナンス性を発揮できる仕組みを採用している。その結果、スターシップもスーパー・ヘヴィも、機体を何回も繰り返し再使用できるようになっており、打ち上げコストは現在の大型ロケットの約100分の1、およそ200万ドルになるという。

また、シミュレーションと、今回のような実機を使った飛行試験とをうまく組み合わせ、試験と改良を繰り返しながら迅速に開発を進めるという、宇宙開発にとっては新しい開発手法を採用しており、早期に完成させることを目指している。

スペースXは今後、スターシップと並行してスーパー・ヘヴィの開発や飛行試験も進め、早ければ2021年にも無人で地球周回軌道へ打ち上げることを計画している。

また2023年ごろには、実業家でZOZO創業者である前澤友作氏と、公募で選ばれた8人を乗せた、月への飛行ミッション「dearMoon」も計画されている。

米国航空宇宙局(NASA)もスターシップに期待を寄せており、NASAを中心とした国際共同による有人月探査計画「アルテミス」の、月着陸船の候補として挙げられている。

マスク氏はまた昨年12月、「2021年には無人のスターシップを火星に送り込みたい。そして2026年、早ければ2023年には人類初の有人火星着陸を行いたい」とも語っている。

さらに今月2日には、スターシップの建造や打ち上げを行う施設を拡充し、「スターベース(Starbase)」と名づけた都市を建造する計画も明らかにしている。

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    火星に着陸したスターシップの想像図 (C) SpaceX

参考文献

SpaceX - Starship
Starship | SN10 | High-Altitude Flight Test - YouTube
Elon Muskさん (@elonmusk) / Twitter
Starship SN10 successfully lands before RUD'ing on the pad - NASASpaceFlight.com