スペースXが開発中の巨大宇宙船「スターシップ」の試作機「SN4」が2020年5月30日(日本時間)、試験中に大爆発を起こした。同機はこの直前、基部に取り付けたロケット・エンジンの燃焼試験を行っていた。

事故の詳しい状況は不明だが、SN4で実施予定だった試験飛行は絶望的となった。

一方、同社は次々に新しい試作機の製造や試験を行うことで、開発をスピーディに進めるという手法をとっており、すでに新しい試作機の開発が進んでいることから、計画全体への影響はそれほど大きくはないかもしれない。

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    スターシップの試作機「SN4」。この機体が5月30日に爆発し、失われた (C) Elon Musk/SpaceX

スターシップSN4とは?

スターシップ(Starship)はスペースXが開発している宇宙船で、直径9m、全長50mの巨体をもつ。

打ち上げには、同じく開発中の巨大ロケット「スーパー・ヘヴィ」を使い、最大100人の人員、もしくは100t以上の物資を地球低軌道へ運ぶことができる。また、軌道上で推進剤を補給することで、同じ人員や物資を月、火星にも送り届けることができる能力がある。

機体は熱に強いステンレス鋼合金でできており、後部に取り付けた翼や推力可変式のロケットエンジンなどを駆使することで、着陸と再使用も可能としている。同社では有人月・火星探査に使うほか、いずれは同社の主力ロケット「ファルコン9」や「ファルコン・ヘヴィ」を代替することも計画している。

また先月には、米国航空宇宙局(NASA)が、有人月探査計画「アルテミス」において、宇宙飛行士を着陸させるために使う月着陸船の候補のひとつに、スターシップの改良型を選定。スペースXと1億3500万ドルの契約を結んでいる。

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    スターシップ/スーパー・ヘヴィの想像図 (C) SpaceX

スターシップは現在、テキサス州の南端、メキシコとの国境近くのボカチカと呼ばれる場所に建設した施設において、試作機の開発や試験が行われており、製造技術の実証や高度数十kmへの試験飛行などを経て、実機の製造に移る計画になっている。

スターシップの試作機はこれまで数種類が製造されたが、そのいくつかは、タンクに液体窒素を充填し、極低温環境と圧力にタンクが耐えられるかどうかを確かめる「極低温耐圧試験」で破裂し失われている。2019年11月に初期の試作機が破裂したのを皮切りに、とくに「SN(Serial Number)1」と「SN3」と呼ばれる機体は、木っ端微塵になるほどの爆発事故を起こすなど、半年強の間に3機が失われている。

そして、現時点で最新の試作機となるのが、「SN4」と名付けられた機体であった。スペースXのイーロン・マスクCEOによると、SN4は従来から製造技術や溶接技術、材料などを改良したとし、2020年4月28日には極低温耐圧試験に成功した。

同社は次に、このSN4にロケットエンジン「ラプター」を装着し、地上での燃焼試験を実施。5月5日に初の燃焼試験を行ったのち、5月中を通して短い燃焼試験を何度も繰り返し行った。

そして30日(日本時間)にも、数秒間ながらエンジンの燃焼試験を実施した。ところが、燃焼終了から約1分後の3時49分(米中部夏時間29日13時49分)、激しい爆発を起こした。

SN4が爆発した理由は?

米国の宇宙メディア『NASASpaceflight.com』が撮影した、SN4が爆発する瞬間 (C) NASASpaceflight.com

火災は機体の底部から起きたように見え、おそらくタンク内に充填されていた推進剤の液化メタンと液体酸素に引火し、激しい爆発を起こしたものとみられる。

スペースXは事故の詳細を明らかにしていないが、火はすぐに消火され、負傷者などは報告されていない。ただ、機体は完全に失われており、地上設備にも損傷が見られる。

同社はもともと、SN4の地上燃焼試験に成功すれば、次は飛行試験に移ることを計画していた。この試験は、ラプター・エンジンを1基のみ搭載し、高度150mまで上昇したのち、着陸するという、ごく短時間のものとされた。

米連邦航空局(FAA)は、6月1日に同社の試験場の周辺を飛ばないようにとのNOTAM(航空機向けの警戒情報)を出しており、早ければこの日に試験飛行が行われる可能性があったが、今回の事故により不可能となった。

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    2020年5月、 極低温耐圧試験を行うスターシップSN4 (C) Elon Musk/SpaceX

失敗は織り込み済み、すでに「SN7」まで開発が進む

SN4は失われたものの、スペースXはすでに、次のスターシップの試作機「SN5」の製造も進めている。SN5は3基のラプター・エンジンを搭載し、SN4が予定していたよりも、より高い高度への試験飛行を行うことを計画しているという。

さらに、より実機に近い試作機であるSN6やSN7の製造も進んでいることも確認されている。

スペースXはスターシップの開発において、「Rapid Iteration」と呼ばれる、短い間隔で反復しながら行う開発サイクルを採用している。これはソフトウェアにおけるアジャイル開発でもおなじみの手法であり、最初から完璧な完成品は目指さず、可能なところから造っていき、不完全な状態でも実際に運用し、その中で設計変更や改良を繰り返していくというものである。

すなわち、その過程で、試験に失敗したり、その結果壊れたりすることは織り込み済みであり、そのうえで次々に改良を重ねて、完成度を高めていくことで、短期間かつ低コストで、高性能なシステムを造り上げることを狙っている。同社はこれまでも、ファルコン9ロケットやドラゴン宇宙船の開発においてこの手法を採用し、大きな成果をあげている。

したがって今回の事故も、見た目には派手ではあるものの、起こりうることは想定内のことであり、計画全体からすると、多少のスケジュールの遅れはあっても、影響はそれほど大きくはないかもしれない。

また、今回の事故の前には、SN4が爆発した試験施設の近くに、別の新しい試験施設の建設が始まったこともわかっており、遅れるどころか、今後は開発や試験がさらに加速する可能性もある。

なお、スペースXはスターシップと並行して、有人宇宙船「クルー・ドラゴン」の開発や試験も進めているが、スターシップとは計画上、また技術的にもまったく別物であるため、この事故による影響は及ばないものとみられる。事実、クルー・ドラゴン初の有人飛行試験ミッション「Demo-2」は予定どおり、この事故の翌日の5月31日に打ち上げられ、成功している。

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    NASAの有人月探査計画「アルテミス」において、 月に着陸するスターシップの改良型の想像図 (C) SpaceX

参考文献

Full Replay: Starship SN4 suffers major anomaly after static fire in Boca Chica - YouTube
SpaceX Starship : Texas Prototype(s) Thread 2 : Photos and Updates
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