北里大学とネオファーマジャパンは、「5-アミノレブリン酸」にネココロナウイルスの増殖を抑制する効果があることを明らかにしたと共同で発表した。

同成果は、北里大医学部の高野友美教授らの研究チームによるもの。ネオファーマジャパンとの受託研究による成果で、詳細は獣医学系の国際オンラインジャーナル「Frontiers in veterinary science」に掲載された。

ヒトに感染する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは別の種類のコロナウイルスによって発症する「猫伝染性腹膜炎(Feline Infectious Peritonitis:FIP)」は、一般的に“ネココロナウイルス感染症”と呼ばれている。

ネココロナウイルスは、感染したネコのほとんどが無症状あるいは軽度の消化器疾患を示すのみで、感染したら即重症化、そして死につながるということはない。ただし、発症後に一部のネコでは治癒が困難なFIPを引き起こすことがある。FIPは全年齢のネコで発症が見られるが、多くは1歳未満の子ネコで発症するという。しかも、発症した場合の死亡率はなんと90%以上とされるため、ネコ、とりわけ子ネコにとっては非常に脅威となっている。

症状には発熱、沈うつ、食欲不振、体重減少、黄疸、腹水でお腹がふくれるなどがあり、完治は難しく治療を行っても回復することは極めて稀だという。進行が速いと診断後1か月以内で亡くなることも珍しいことではないようだ。

FIPは以上のような症状を伴うため、治療に際してはウイルスの増殖を抑えるのと同時に、炎症作用も鎮めないとならない。つまりFIP治療薬としては、ネコにとって安全であることはもちろんだが、抗ウイルス作用に加えて抗炎症作用を有することが求められているのである。

こうした背景を受け、今回、高野教授らが着目したのが、もともとヒトを含めた動植物の体内でも産生されるアミノ酸の5-アミノレブリン酸(5-ALA)だ。ヒトを含めたほぼすべての生物は、細胞内小器官であるミトコンドリアがエネルギーを産生することで生命活動を維持しているが、そのミトコンドリアが機能する際に重要な役割を果たしているのが5-ALAである。

5-ALAは大量生産する方法がすでに確立されており、10年以上前から健康食品、化粧品、ペット用サプリメント、試料、肥料など、幅広く利用されている。さらに、脳腫瘍や膀胱がんを可視化する目的とした医薬品としても承認されているなど、医療分野でも活躍中だ。またミトコンドリアの機能を向上させることも知られており、ミトコンドリア病の治療を目的とした研究も進行中で、治験の段階まで来ているという。

今回、そのような多彩な活躍を見せる5-ALAが、ネココロナウイルスに対してどのような作用を持つのか、培養細胞を用いた確認が行われた。すると、ネココロナウイルスを抑制するのが明らかになったという。

またネココロナウイルスの特徴として、特定の抗体を介して、白血球の一種であるマクロファージに感染することが知られている(抗体依存性感染増強)。5-ALAは、マクロファージにおいても、ネココロナウイルスの増殖を抑制する傾向が認められたとした。

高野教授らのこれまでの研究から、FIPを発症したネコでは、マクロファージにおけるウイルス増殖とともに、炎症を誘発する物質(TNF-α、IL-1β、IL-6など)が放出されることを確認済みだ。そのため、マクロファージにおいてネココロナウイルスの増殖を抑制し得る5-ALAは、FIPで特徴的な強い炎症も抑制できる可能性があるという。今後は、FIPの治療薬として、5-ALAの使用可否を詳しく検討していく必要があるとしている。