米国航空宇宙局(NASA)の火星探査車「パーサヴィアランス」が、2021年2月18日(日本時間19日)、火星の「イェゼロ・クレーター」への着陸に成功した。

イェゼロ・クレーターはかつて水をたくわえた湖だったと考えられており、生命の痕跡が眠っているとみられている。

パーサヴィアランスはこれから約2年以上にわたって火星を走り回り、過去にいたかもしれない生命の痕跡を探すほか、ヘリコプターの飛行や、将来のミッションで火星の岩石を地球に持ち帰るための準備など、火星の過去と未来を股にかけた、数々の史上初のミッションに挑む。

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    火星に着陸したパーサヴィアランスが撮影した火星の様子。探査車の一部や、火星の大地に転がる大小さまざまな石などが写っている (C) NASA/JPL-Caltech

パーサヴィアランスが火星への着陸に成功!

パーサヴィアランス(Perseverance)はNASAジェット推進研究所(JPL)が開発した火星探査車で、NASAの火星探査車としては5台目となる。パーサヴィアランスとは「忍耐力」や「不屈の精神」といった意味がある。

パーサヴィアランスは日本時間2020年7月30日に打ち上げに成功。途中軌道修正を行いつつ、約7か月かけて徐々に火星へ接近していった。

そして2月18日(日本時間19日)、火星の大気圏に突入。パーサヴィアランスが入ったシェルは、まずパラシュートで減速したのち、耐熱シールドやシェルを分離。そして重い探査機を正確に着陸させるための、「スカイ・クレーン」と呼ばれる逆噴射ロケットを装備した着陸装置を使い、地表に軟着陸した。

米東部標準時18日15時55分(日本時間19日5時55分)には、地上の管制センターに着陸に成功したことを示す信号が届き、運用チームは歓喜に湧いた。

パーサヴィアランスは今後、1~2か月かけて、すべての機器やサブシステムの試験を実施。準備が整い次第、本格的な探査活動が始まることになっている。

NASA長官代理を務めるスティーヴ・ジュルチック(Steve Jurczyk)氏は「この着陸は、NASAのみならず、世界の宇宙探査にとってきわめて重要な瞬間のひとつとなりました。私たちは発見の最前線に立ち、教科書を書き換えるために、鉛筆を研ぎ澄ませているのです」と語る。

「『パーサヴィアランス』と名付けられたこのミッションは、その名のとおり、とても困難な状況の中でも耐え忍び、刺激を生み、そして科学と探検を続けるのだという、私たちの精神を体現しています。さらに、未来に向かって耐え忍ぶという私たち人類のあり方をも体現しており、そしてそれは将来の有人火星探査にも役立つものとなるでしょう」。

着陸に使われたスカイ・クレーンは、2012年に火星に送り込まれた探査車「キュリオシティ」の着陸でも使われた技術だが、さらに正確かつ安全な着陸を実現するため、新たに突入時に火星の大気に関するデータを収集する装置や、降下時に自律的に探査車を誘導する航法システムなども搭載していた。この両方のデータは、将来の有人火星探査ミッションの安全性の向上に、そしてより大きな探査機を火星などに着陸させるのにも役立つと期待されている。

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    パーサヴィアランスが火星に着陸する様子を描いた想像図。「スカイ・クレーン」と呼ばれる逆噴射ロケットを装備した着陸装置を使い、地表に軟着陸した (C) NASA/JPL-Caltech

火星の生命の痕跡を探せ!

パーサヴィアランスは打ち上げ時の質量が約1025kg、全長は3.0m、全幅2.7m、高さ2.2mと、軽自動車ほどもある探査車である。電力は放射性同位体熱電気転換器(RTG)で生成し、6輪の車輪で火星を走行する。

基本的な設計はキュリオシティをベースにしているものの、搭載している観測装置は大きく変わっている。また、前述のように着陸装置が改良されているほか、火星までの航行に使う装置も改良。さらにキュリオシティの運用でつちかったノウハウを活かし、探査車の車輪などにも改良が加えられている。

ミッション期間は最低1火星年、約687地球日が予定されている。

パーサヴィアランスが着陸したのは、火星の赤道のやや北にある、直径約45kmのイェゼロ・クレータ(Jezero crater)という場所である。このクレーターは、イシディス平原の西、火星の特徴的な黒い模様のなかで最も大きくてわかりやすい「大シルチス」の中にある。

イェゼロ・クレーターは、いまからおよそ35億年前には湖だったと考えられており、またとくにパーサヴィアランスが着陸した場所の付近は、この湖に流れ込む川が作り出したデルタ地帯でもあったと考えられていることから、そこに溜まった堆積物に、生命の痕跡が眠っているのではと期待されている。

パーサヴィアランスの最大の目的は、まさにそうした、過去の火星にいたかもしれない生命の痕跡や証拠を見つけ出すことにある。そのため探査車には、大きく7つの科学機器、そして史上最多となる19台のカメラが搭載されている。

中でも大きな期待を背負っているのは、「シャーロック(SHERLOC)」と「ワトスン(WATSON)」と呼ばれる機器で、分光計、レーザー、カメラを使用して、まさに名探偵シャーロック・ホームズとその相棒ワトスンがわずかな手がかりから犯人を捕まえるかのように、過去の生命の痕跡を見つけ出すことを目指している。

NASAはこれまでも、火星探査機を使って火星における生命の有無について調べてきたが、水の痕跡や、水によって生まれた鉱物、あるいは生命体を構成しうる物質を調査するなど、生命体そのものを探し出そうというものではなかった。しかしパーサヴィアランスは、いよいよこの生命にまつわる謎に、直接的かつ真正面から取り組もうとしているのである。

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    パーサヴィアランスの想像図 (C) NASA/JPL-Caltech

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    火星を周回する探査機が撮影したイェゼロ・クレーターの画像。色で高低差が表されている。パーサヴィアランスが着陸したのは丸で囲われた部分 (C) NASA/JPL-Caltech/MSSS/JHU-APL/ESA