熊本大学と京石産業は10月27日、熊本大独自の液中パルスプラズマ法を用いて極小のナノ粒子を合成する技術を開発し、平均粒径1nm以下の金、平均粒径2nm以下のパラジウムや白金ナノ粒子の合成に成功したと共同で発表した。

同成果は、熊本大 産業ナノマテリアル研究所の真下茂 特任教授、同・依田真一 客員教授、京石産業の研究者らの共同研究チームによるもの。2者は2020年7月17日に共同で今回の発明の特許出願を行った。

熊本大では、液中で大電流火花放電を用いた「液中パルスプラズマ法」を開発し、これまでさまざまなナノ粒子を合成する研究を実施してきた。同手法の特徴は、瞬間的な高温と液体による急冷効果によって粒子径の小さなナノ粒子を量産できることだ。現在、10nm以下のナノ粒子がさまざまな分野で用いられているが、還元法やレーザーアブレーション法といった既存の方法では、5nm以下の極小ナノ粒子の合成は難しく、まだあまり世の中に出ていないという。

金ナノ粒子は古くからステンドガラスなどの染色材料として利用されており、最近では透過型電子顕微鏡などを使用する際の生体染色剤として用いられている。医療関係においてもDNAセンサー、細胞内プローブ、DNA解析など、さまざまな用途に用いられている。このような医療用のナノ粒子は細胞間や細胞内部を通過することが求められたり、またDNAと反応させたりするために、よりサイズの小さい極小のナノ粒子が求められているという。

また、白金やロジウム、パラジウムなどのナノ粒子を使用した半導体製造、排ガス触媒、燃料電池触媒など、高性能触媒の開発は喫緊の課題だ。さらに、触媒のほかにも、白金やパラジウム、銀、銅のナノコロイド(金属ナノ粒子を分散させた溶液)は、抗菌材料、活性酸素除去材料、抗がん剤として医療、健康食品、化粧品に広く使われている。これらの高性能化にも、粒径の小さなナノ粒子が不可欠だ。

熊本大ではこれまで、液中パルスプラズマ法を用いた独自のナノ粒子の合成法を開発してきたが、平均粒径が3nm以下の金属ナノ粒子を合成することは極めて難しかったという。そこで今回は、京石産業と共同開発を行い、液中パルスプラズマ法の装置の瞬間的な電流量(ピーク電流)を2倍以上に上げることを目指した。そして、金、パラジウム、白金で平均粒径が2nm以下の極小ナノ粒子を合成する技術の開発に成功したとした。

金属ナノ粒子の大きさの測定は、動的光散乱法で数値的に、透過電子顕微鏡で視覚的に実施される。このふたつの方法で測定が行われたところ、金ナノ粒子は、測定限界以下となる平均粒径1nm以下に到達。パラジウムナノ粒子および白金ナノ粒子は測定限界ギリギリの2nm以下であることが確認された。

今後は、液中パルスプラズマ法を用いた独自のナノ粒子の合成法を、ロジウム、ルテニウム、銀などの単体貴金属ナノ粒子、さらに、合金ナノ粒子、化合物ナノ粒子に広げていく予定としている。これらのナノ粒子は、触媒、医療材料、抗菌材料として応用が期待されるという。また、すでに貴金属ナノ粒子の半導体製造への応用研究などを進めているとした。

  • 金ナノ粒子

    (a)合成された金ナノ粒子の透過電子顕微鏡像。(b)動的光散乱法による平均粒径測定結果。平均粒径は1nm以下 (出所:熊本大Webサイト)