米国航空宇宙局(NASA)は2020年8月10日、準惑星「ケレス」を探査した探査機「ドーン」の観測データから、ケレスの地下に塩水の海が存在する可能性が判明したと発表した。

ケレスには明るく輝く謎の領域があり、塩からできていることはわかっていたが、その塩がどこから来たのかはわかっていなかった。今回の研究では、地下の塩水が、ケレスでいまなお続く地質活動によって地表まで運ばれた結果できたものである可能性が高いと結論付けられている。

この研究を含めた複数の論文は、論文誌「Nature Astronomy」、「Nature Geoscience」、「Nature Communications」の8月10日発行号に掲載された。

  • ケレス

    探査機ドーンが撮影した準惑星ケレス。中央に見える明るく輝いている領域「ケレアリア・ファキュラ(Cerealia Facula)」は塩でできており、その塩は地下にある塩水の海からやって来ている可能性が高いことが判明した (C) NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA

ケレスの謎の光点

「ドーン(Dawn)」はNASAが開発した探査機で、2007年9月に打ち上げられ、2011年に火星と木星の間の小惑星帯にある小惑星「ヴェスタ」を約1年かけて探査した。

その後、第2の探査地として、同じく小惑星帯にある準惑星ケレスへ向かい、2015年3月から2018年10月まで、ケレスを周回しながら探査し、数々の発見をなしとげた。

そのなかでもとくに注目を集めたのは、明るく輝く謎の領域である。明るい領域が存在することは、ドーンが訪れる前から、望遠鏡による観測でわかっていたが、その性質はわかっていなかった。そしてドーンによる探査により、この領域が直径約92kmのクレーターのなかにあり、また複数の光点からなることがわかった。

のちにこのクレーターには「オッカトル(Occator)」、そして複数の光点のうち最も明るい点には「ケレアリア・ファキュラ(Cerealia Facula)」という名前が与えられている。

ドーンはさらに、このオッカトル・クレーターを、高度約35kmもの近さで接近して観測。その結果、この光点が炭酸ナトリウム(ナトリウムと炭素、酸素の化合物)、いわゆる塩でできた堆積物であることを突き止めた。塩は反射率が高いため、周囲の岩石より明るく輝いていたのである。

しかし、この塩が、なぜどのようにしてここに存在するのかはわかっていなかった。多くの研究者は、地中から塩を含んだ液体が表面へと浸透し、そのうち液体のみが蒸発。そして塩が残った結果なのではと考えていたが、ケレスのような天体に液体が存在するのか、そしてその液体がどのようにしてやってきたのかはわからなかった。

  • ケレス

    ドーンが撮影した、オッカトル・クレーターと、そのなかにある複数の光点 (C) NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA

明らかになった光点の正体とメカニズム

そこでドーンの運用チームは、そのミッションの終了間際にあたる2017年から2018年にかけて、これらの明るい領域の発生源を理解し、どのような物質であるかを理解することに焦点を当てた探査を実施。そして集められたデータを詳しく分析した。

その結果、ケレスの地下に塩分を豊富に含んだ塩水の海が存在し、そこからやってきたものであると結論づけた。

研究チームによると、その海の深さは約40km、幅は数百kmにも及ぶと推定されるという。

木星の衛星エウロパのように、太陽系の惑星を回る衛星のなかにも、水や氷をもち、それが吹き出しているような天体は珍しくない。エウロパなどは大きな惑星との重力の相互作用によって、内部が加熱されたり、地面が割れたりして、水が吹き出していると考えられている。しかし、ケレスは準惑星であり、その周囲に重力的に大きな影響をもたらすような天体は存在しない。

ではなぜ、ケレスでも地下から液体が地表へ流れているのか。これについて、ドーンの主任研究員を務めるキャロル・レイモンド氏は、大きく2つのシナリオがあったとする。

「セレリア・ファキュラの大規模な堆積物のうち、塩類の大部分は、約2000万年前に何かが衝突してオッカトル・クレーターが形成された際に発生した衝撃で、熱が発生し、それによって溶けた地下のぬかるんだ部分から供給されたものとみられる」。

「また、この衝突の熱は数百万年後に収まったものの、衝突によって、地下の海にまで達する大きな亀裂ができ、地表への液体の浸透が続いたのだろう」。

研究チームは、このシナリオは他の天体にも応用できるとし、他の惑星のまわりを回っていない氷の多い天体も、ケレスのような地質活動をしている可能性があるとしている。

また、ケレスの表面には小さな隕石が頻繁に叩きつけており、それによって削られたり、破片によって覆われることで、時間が経つにつれて、明るい部分は暗くなっていくはずと考えられる。しかし、いまなお明るく輝いているということは、比較的最近にできたものである可能性が高いことを示している。

研究チームはこの問いに対して、明るい領域は200万年未満のうち(地質学的には最近)にできたものであることを突き止めた。

また、明るい領域を作り出すような地質活動が、いまなお継続中である可能性があることも判明した。ケレスのような天体の表面では、水を含んだ塩は、数百年以内にすぐに脱水してしまうと考えられている。しかし、ドーンの観測では、この明るい領域にまだ水が残っていることが示されており、研究チームでは「これは液体がごく最近に地表に到達した証拠だ」としている。

さらにこのことは、オッカトル・クレーターの下に水が存在することと、内部から地表への物質の移動が継続的に行われていることの両方の証拠でもあるとしている。

研究チームはまた、ケレスに最近まで液体があった、あるいはいまなお存在することを示す根拠として、明るい堆積物のほか、ドーム状の丘のような地形がいくつも存在することも挙げられるという。こうした地形は、地中の水分が凍結と融解を繰り返すことで形成され、地球の永久凍土域でもよく見られ「ピンゴ」と呼ばれる。このような地形は火星でも発見されているが、準惑星で観測されたのは今回のケレスが初めてとなる。

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    ドーンが撮影したオッカトル・クレーター内の画像を合成処理したもの。最近露出した塩分を赤く表示させている (C) NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA

  • ケレス

    ドーンが撮影したオッカトル・クレーター内の画像。明るい領域のほか、画像の手前に見える丘の存在も、ごく最近に液体があった、あるいはいまなお存在することを示す根拠とされる (C) NASA/JPL-Caltech/UCLA/MPS/DLR/IDA/USRA/LPI

さらに研究チームは、ケレスの地殻構造の密度と、深さとの関係についてマッピングすることにも成功。重力測定の結果、ケレスの地殻の密度は深さとともに大きく増加し、単純な圧力の影響をはるかに超えていることがわかったという。これについて研究チームは、ケレスの地下の海が凍結すると同時に、塩分や泥が地殻の下部に取り込まれているためと推測している。

これらの成果をまとめた論文集は、8月10日に発行された論文誌「Nature Astronomy」、「Nature Geoscience」、「Nature Communications」にそれぞれ掲載された。

参考文献

Mystery Solved: Bright Areas on Ceres Come From Salty Water Below | NASA
Zwergplanet Ceres: Hinweise auf aktiven Kryovulkan | Max-Planck-Gesellschaft
Overview | Dawn - NASA Solar System Exploration