オーストリアamsは8月27日、オンラインによる記者説明会を開催し、同社のスペクトルセンサを利用した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高速検査を可能とするデバイス技術についての説明を行った。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染の有無を確認する手法として、PCR検査が広く利用されている。同検査技術は原理的に高感度にウイルスを検出できる一方、検査に時間が掛かるほか、医療現場で活用してすぐに確認できない、といった課題があることが知られている。これに対し、ラテラルフロー、いわゆるイムノクロマト法は、感染初期段階では判定が難しいものの、より迅速かつ手軽、安価な診断が可能であることが知られている(Photo01)。

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    Photo01:PCR検査では、非常に少量のウィルスをPCRサイクルによって増幅することで検出するので、この増幅に時間が掛かるうえ、サイクルで消費される試薬も多いためにコストも高くつく。LFTでは使い捨ての試薬だけで確認ができる

今回、同社が説明を行ったソシューションはそうしたラテラルフローテスト(LFT)をデジタル化することを目指したものとなる(Photo02)。

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    Photo02:感染初期段階では利用できないが、ある程度感染して時間が経過した(=体内でのウィルス量が増えた)段階での検出、あるいは抗体の検出に焦点を当てた形となる

LFT検査は検査プローブのメンブレンに患者の血液などを垂らし、数分から数十分ほど待つことで陰性か陽性かを判別するというものだが、この判定は医師が目視で行うため、反応が薄い場合などでは誤った判断をすることもあった。ここにamsのスペクトルセンサを用いることで、目視よりも高精度な判断を可能とするとともに、目視では視認が難しいわずかな反応であっても、確実にそれを捉えることを可能になるという。

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    Photo03:右下のグラフは、市場にすでに存在する、既存のスペクトルベースのLFT診断装置と、同社の診断装置の性能比較。ほぼ同等の精度を実現できているとする

LFTの絶対的な感度などは医療機器メーカーが開発、提供するテストプローブに依存する訳だが、読み取りをamsのソリューションで行うことで、トータルで見て低価格化できるというのがメリットであり、実際スマートフォン(スマホ)と一緒にプローブリーダーを携行、現場で即座に読み取ってこれをスマホ経由で感染症監視システムに送り出すといったソリューションが容易に構築できるとする(Photo04)。

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    Photo04:右上のスマートフォンの手前にあるのがLFTリーダーのサンプル。CR2032が1個で動作するそうだ

このソリューションで利用されるのが、同社のスペクトルセンサ「AS7341L」である(Photo05)。

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    Photo05:実際には赤外線(NIR)と輝度全体(Clear)を含めて10chがあるが、色の認識は8ch分とされる

AS7341Lは可視スペクトル内で8つのチャネルを分解して測定することが可能であり、実際にPhoto04では2つのLED光源でLFTのストリップに光を当て、この反射光を測定することで診断を行っている。説明を行ったFilip Frederix氏(Marketing Director, Segment Health)が手に持つ基板(Photo06)の中央に、このAS7341Lがインストールされているそうだ。

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    Photo06:正確な測定のためには位置関係も重要だそうで、光源とセンサをまとめて1つのパッケージに収める事で精度を保ちながらコストダウンが可能になるとの事

ちなみにここまでは反射式(光源から光を当て、その反射光をスペクトルセンサでとらえて分析する)での実装であり、この方式でも十分高い精度が実現できる(Photo07)が、蛍光マーカーとUV LEDを組み合わせた蛍光測定ではさらに高い感度が実現できる、としている(Photo08)。

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    Photo07:左は目視と反射式、および(次に説明する)蛍光式の3種類の方式での結果の変動を見たもので、特に血清の希釈度があがると目視では間違いが起きやすいが、反射式ではずっと間違いが少ない。ただ蛍光式はさらに少ない。右は市場に出ているLFTリーダーとの性能を比較したもので、同等とされる(そしてamsはずっと小型でコストも安い、とFrederix氏は付け加えた)

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    Photo08:希釈度が0.001(10pg/ml)以下だと反射式では測定が不可能でも、蛍光式では測定が可能とされる。もっともこれはLFTのストリップ側も現在のままでは使えないので、あくまでも今後の展開向けである

話を戻すと、反射式に関しては、今回のソリューションを利用して、データ収集までの一連のシステムが容易に構築可能としている(Photo09)。

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    Photo09:この中でamsが携わるのはLFT用のセンサだけで、他はエコシステムパートナーが提供する形となる

今回は新型コロナウイルス感染症が対象であるが、日本ではピークを越えたなどと言われつつも、まだ沈静化には至っていないし、海外ではまだ患者数が増えている所も多い。そしてピークが超えたとは言っても、完全に抑え込むまでにはまだ時間が掛かるし、その際に低コストで迅速な検査方法の確立は必須である。また今回の方式は新型コロナウイルス感染症以外にも応用が可能であり、広い範囲の検査システムに同社のスペクトルセンサが貢献できるとしており、こうしたデジタルLFT検査の市場をさらに広げていきたい、というのが同社の狙いである(Photo10)。

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    Photo10:あくまでamsは光学読み出し技術に特化する形で、あとはエコシステムパートナーとの協業となる

なお、2020年6月には独Senova Immunoassay Systems、およびJabil Healthcareと共同で今回紹介したプラットフォームを発表、2020年9月に最初の業務用検査キットの出荷を目指しているが、それとは別に他のエコシステムパートナーも引き続き探しているという話であり、今回の発表もこうした意向を含めてのものと思われる。