英Moortec Semiconductorは6月10日、TSMCの5nmプロセス(N5)を活用するチップ内埋め込みセンサIPを発表した。この発表に際し、同社は説明会を実施。その資料を基に、どのようなものであるかを紹介する。

Moortec自身は英プリマス(イングランド南西、デヴォン州の南部)に所在を置くIPベンダである。創業は2005年であるが、創業後5年ほどはStealthモードで動いていたようで、名前が出てくるのは2010年頃からになる。ちなみに当初はAnalog IPやMixed-Signal IP、およびカスタムチップを手掛けるメーカーであったが、途中からDSP IPを提供したりしている。

ただ2012年に65~28nmプロセス向けの温度センサIPの提供を開始し、この後、同社の製品群は従来のAnalog/Mixed-Signal IPからOn-Die Sensor IPに舵を切り始める。

2013年には40/28nmプロセス向けのPVT(Process/Voltage/Temperature)Sensor IPの提供を始めており、2019年にはArmのNeoverse N1向けMonitoring Solutionや、[TSMCのN5P向けモニタリングソリューション(https://www.moortec.com/moortec-drives-optimised-performance-increased-device-reliability-on-tsmcs-n5-and-n5p-process-technologies-with-its-complete-in-chip-monitoring-subsystem/)などを提供しており、今ではもうすっかりOn-Die Sensor IP専門ベンダといった状況になっている。

さてそんなOn-Die Sensor IP専門ベンダとなったMoortecの新製品が、N5プロセス向けのDTS(Distributed Thermal Sensor)である。1つのダイあたり、最大16個の温度センサを配してそのデータをリアルタイムで取得することで、より効果的にPVTモニタリングが可能というものだ(Photo01)。

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    Photo01:チップ内部にDTS Central Hubを設け、ここから最大16個の温度センサが接続される。チップ外部のPVT-ControllerはHubと接続される形になる

もともと同社の温度センサはリアルタイムに温度確認が可能というのがウリであるが、「どの程度にリアルタイムか」が昨今では問われる様になっている。それこそIntelやAMDの新CPUがその良い例で、ぎりぎりまで性能を絞り上げるために、msどころかμsオーダーでの電圧/周波数制御を行っており、当然温度センサの側もこれに追従する速度が必要になる(ジャンクション温度が一番クリティカルになるため、ここの温度が限界を超えないようにする必要がある)。

今回のDTSでは、具体的にどの位という数字は出てこなかったが、こちら(Photo02)の応用例にある様に、例えば温度ベースの負荷分散とか消費電力制御、熱ストレス制御といった用途に十分な速度があるとされる。同社によれば、今回の温度センサは、従来同社が提供してきたSensor IPおよびMonitering Subsystemと組み合わせる事が可能という話で、N5プロセスを利用するSoC向けに、DTSだけでなくトータルソリューションとして提供可能という話であった。

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    Photo02:この分野は特にx86のマーケットでIntelとAMDが激しく先端技術を突っ込みまくって競ってくれたおかげで、全部「どこかで聞いた話だ」となるが、x86以外ではまだこれからの技術でもある

実のところ5nm世代ともなると、プロセス側のバラつきが大変に大きい(いや65nmの頃からそうした話は出てきていたのだが)ので、特にマルチコアのSoCともなるとコアごとに動作環境が変わるというか、PVTのバランスを取る場所が変わってくる。これを逆手にとって、一番高速動作するコアを選び出して動作周波数を盛るのがIntelのTurbo Boost Max Technology 3.0であるが、要するにダイ全体で調整というよりも、細かくブロック単位に分けてそれぞれ調整するという形にしないと、性能を上げるのが難しい。ただIntelやAMDはオンダイで動作する高精度のデジタルセンサを自社で開発しているが、そうした技術を普通のベンダは持ち合わせていないし、ArmをはじめとするProcessor IPベンダも、そうしたものを提供するところはほとんど無い。そこでMoortecのIPが活躍するわけであるが、今回5nmをターゲットにしたのはまさしく今から5nmのDesign Inを始めるメーカーが相当数あるため、という事ではないかと思う。普段あまり表に出てくるIPではないが、ちょっと面白い裏方の新製品であった。

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    Photo03:Process MonitoringもDistributeするのか?という質問に関しては、現時点では公開できる話は無いとの事