日本企業において着実に浸透しつつあるSlack。今回、米Slack Technologies 共同創業者兼CTO(最高技術責任者)のCal Henderson(カル・ヘンダーソン)氏にSlackの誕生から現在までの変遷、日本市場の捉え方、Microsoft Teamsと比べた優位性などを聞いた。

Cal Henderson(カル・ヘンダーソン)

Slack Technologies 共同創業者兼CTO(最高技術責任者)


Slackの共同創業者兼CTOとしてエンジニアリングチームを監督。同社の技術面でのビジョンを設定する役割を担う。昨年にはFortune誌の「40 Under 40」に選出され、世界経済フォーラムのヤング/グローバル・リーダーにも任命。Yahooに買収されたFlickrでエンジニアリングチームを創設・指導した実績がある。


経験豊富なテクノロジーリーダーであり、エンジニアリングのスケーラビリティの講演者としても活躍。「Building Scalable Websites」(O’Reilly Media 出版)を執筆するなど、ウェブAPI活用のパイオニア的存在である。YouTubeやTwitterなど多数のウェブで使われているOAuthとoEmbedの基礎を築いた。


デジタルクリエイティブのコミュニティとブロゴスフィアを通じ、ロンドンのオンラインネットワーク立ち上げに関与。バーミンガムシティ大学でコンピューターサイエンス分野の学士号を取得し、同大から名誉博士号を授与。現在、サンフランシスコ在住。

人々が気に入り、使いやすいツールに

--Slackの誕生から現在までについて教えてください。

ヘンダーソン氏:Slackの前身はビデオゲームの開発会社としてスタートしました。4年間程、事業を継続しましたが、あいにくうまくいきませんでした。

そして、ビデオゲームの次はなにをしようかと検討していたところ、それまで自分たちで構築し、利用していた社内ツールが快適に感じており、慣れていたため違う働き方をしたくないという意見になりました。と言うことは、そのほかの企業でも便利に使ってもらえものなのではないか、と気づいたのです。もし、ゲームで大成功していたらSlackは誕生せず、社内にとどまっていたかもしれませんね。

当初は、われわれも大きな組織ではなかったため中小企業で好まれるツールになるのではないかと期待し、リリースしたものの、リリース直後に大きな組織やさまざまな業種においても適していると悟りました。そして、現在では従業員2人の組織から、グローバルで40万人のユーザーを抱えるIBMなどの大企業に採用されているのです。

--日本市場をどのように捉えていますか?

ヘンダーソン氏:われわれは日本市場を重要な市場と位置付けています。ユーザー数は米国に次ぐ第2位の規模となっており、1月に日本国内のDAU(日間アクティブユーザー)は100万人を超えました。最近では日本企業におけるSlackの導入が急速に拡大し、日本企業の需要を踏まえて今後の機能拡張について検討を進めています。

また、近日中には新機能として「データレジデンシー」の提供を予定しています。これにより、Slack上でやり取りするメッセージやファイルなどを国内に保存することが可能になり、規制が厳しい産業にも有効です。

さらに、昨年に提供を開始した共有チャンネルは異なる企業間でSlackが利用できるようになっています。同機能の開発に際しては、ユーザーの声が重要でした。と言うのも社内でSlackの用途が非常に価値が高く、企業を超えてSlackを使いたいというニーズがありました。

日本企業における共有チャンネルの活用は増加しており、日本企業が数多くの取引先があるということが関係しているからです。多くの日本企業が共有チャンネルを使うことで、業務を効率的に進めることが可能になったと実感していると思います。

日本では初期の段階でSlackを導入した企業はテクノロジーやゲーム開発などの企業でしたが、最近では業態を問わず製造業、金融、教育関係など多岐にわたり、導入が拡大しています。現在では伝統的な産業にも導入が増加し、全体のユーザーの3分の2が技術職ではない人です。

自動車部品メーカーである武蔵精密工業さん、農業機器メーカーのカクイチさん、近畿大学さんなどが挙げられます。今後も業種業態、規模を問わず、さまざまな状況でSlackを使ってもらえると感じています。

創業当初はエンタープライズ向けのソフトウェアを開発するという意気込みではなく、ユーザーを念頭に置いたソフトウェアでなければいけないと考えていました。つまり、エンドユーザーの“体験”を十分に考慮・検討する必要があり、人々が気に入って使うソフトウェアでなければ活用は進まないだろうと感じていました。

当然のことながら今後も機能追加・強化していきますが、常に使いやすいツールであるか否かに意識を置いています。より多くの企業に導入してもらうには導入が容易かつ、わかりやすいツールであることが非常に重要です。使われるツールになるような投資をわれわれが継続して行うことが、人々の仕事を簡単にしたり、快適にしたり、生産性の向上などを実現していくと思います。

Slackがユーザーに提供する2つのコアとなる価値

--ここまで導入が拡大した要因をどのように考えていますか?

ヘンダーソン氏:成長できた要因としては使いやすさに加え、ユーザーに気に入ってもらうことが挙げられますが、それ以上の大きな要因としては仕事の性質自体が近年急速に変化していることにあります。

現在のビジネス環境はテクノロジーの進化や労働人口の変容、市場の変化に伴い、これまでにないスピードで変化しています。今後、成功する企業か否かは急速な変化に順応・対応できる組織なのかということが問われてくるものだと感じます。

企業が方向性を切り替えるにあたり、組織内で足並みを揃えることが重要ですが、順調に進んでおらず、多くの企業で課題になっているようです。

しかし、コミュニケーションに透明性を持たせることで、チームとしての方向性を合わせていくことができます。テクノロジーの進化や自動化に伴い、人間に残される仕事が変わり、これからは人間にしかできない、人間だからこそ適している業務に専念していくことが求められ、創造性の高い作業、協調性が求められる作業、チームワークが大きく問われるでしょう。

このように、多くの企業においてコミュニケーション、コラボレーション、チームワークが課題とされ、変革が求められている時代にSlackが登場したわけです。Slackには2つのコアとなる価値があり、まずは「チャンネル」です。チャンネルは個人が利用していたEメールの受信Boxに対して、チームのチャンネルという位置づけです。

そして、次に「プラットフォーム」です。過去20年を振り返ってみると、仕事で使うソフトウェアの種類は多岐にわたり、各ソフトウェアは特化した機能を持ち、特定の業務に適するように進化してきました。しかし、数多くのソフトウェアやツールを使うことで、それぞれの業務が分散化されています。われわれはコミュニケーションレイヤにツールを提供することにより、分散化している情報を集約することを可能としています。

また、サードパーティーのアドイン機能である「Appディレクトリ」と「カスタムアプリ」は重要です。大企業では社内にカスタムアプリの開発担当者を抱えていることもあるようです。

グローバルでは、このような開発担当者が70万人おり、今後も増えて欲しいと思います。さらに、昨年には技術職ではない人でもSlackの環境をカスタマイズできる「ワークフロービルダー」をリリースしています。最終的には開発の知識なしで自分でSlackを使う人がカスタマイズやSlack上における自動化の設定をできるようになってもらいたいですね。

--なにかと最近では比較されるMicrosoft Teamsに対する優位性は、どのようなものでしょうか?

ヘンダーソン氏:Teamsと比べると5つの優位性があると思います。まず1つ目がスケールです。先ほども話したようにSlackは大きな組織でも採用されており、ユーザー数が数十万人、チャンネルやメッセージが数百万件もあるような環境でも拡張して利用できます。

2つ目はプラットフォームです。こちらも先ほど説明しましたが、仕事の場面で利用されている多様なソフトウェアとの連携を可能とし、現時点においてAppディレクトリで連携しているアプリ数は2000超です。OutlookやWord、Excel、Powerpointだけでなく、GoogleやSalesforce、Workdayなど、ビジネスで使用するすべてのツールと連携しています。

3つ目はユーザーが気に入って利用してくれるツールであるか、ということに重点を置いていることです。そのためには、UXが良いものであることが重要になります。初めてSlackに触れた人が気に入って、組織の上司に利用を進言できるツールであるかどうか、実際われわれの成長は口コミで拡大してきた経緯もあります。

4つ目は顧客のエンゲージメントが高いということです。統計でみると、平均で1日9時間ログインし、Slack上での作業時間は同90分という結果となっています。メッセージの送信やファイルのアップロード、絵文字のアクションをはじめ、月間50億のアクティビティがやり取りされています。ソフトウェアが成功するか否かは、毎日ユーザーに使われるかどうか、つまりユーザーとのエンゲージメントが高いか否かで測れるのではないかと思います。

そして、最後は共有チャンネルです。これはSlackしか提供していない機能であり、複数の組織・企業間における連携を可能とし、業務環境の複雑化が進む一方で、企業間の連携も求められます。そのような場面で共有チャンネルは真の力を発揮できるのではないかと思います。また、これまで共有チャンネルは1対1が基本でしたが、近日中には複数の組織間において情報共有できる機能をリリースします。

--最後に日本のユーザーに向けてメッセージをお願いします。

ヘンダーソン氏:われわれとしては、日本企業は重要な位置づけであり、近年では働き方改革に伴い多くの企業が業務効率の向上や労働時間の抑制などに頭を悩ませていると思います。そのため、Slackが働き方を見直す一翼を担い、支援できればと考えています。

わたしたちは一日の大半を仕事場で過ごしており、全従業員が自分の業務に専念し成果を出すために、より良い業務環境の体験が重要です。そのようなことから、われわれでは簡単な操作や快適な環境、高い生産性を生み出せるように支援していきます。