イーロン・マスク氏率いる米宇宙企業スペースXは2019年11月11日、自社の宇宙インターネット「スターリンク」を構成する衛星60機を搭載した、ファルコン9ロケットの打ち上げに成功した。

スターリンクは地球を覆うように衛星を配備し、全世界にインターネットをつなげる計画で、衛星群の打ち上げは今年5月に続いて2回目。今後も打ち上げを重ね、2020年中に北米とカナダで、2021年には限定的ながら全世界でのインターネット接続サービスの開始を目指している。

  • スターリンク衛星

    スターリンク衛星60機を載せた、ファルコン9ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

ファルコン9ロケットは日本時間11月11日23時56分(米東部標準時9時56分)、フロリダ州にあるケープ・カナベラル空軍ステーションの第40発射台(SLC-40)から離昇した。ロケットは順調に飛行し、約1時間後に搭載していた60機のスターリンク衛星を分離。打ち上げは成功した。衛星はこのあと、1機ずつに分かれ、それぞれが装備しているスラスターを使って、運用を行う軌道に入る。

今回のファルコン9ロケットの1段目機体は、2018年7月と10月、今年2月にも打ち上げられた機体で、今回が3回目の再使用による4回目の飛行だった。また、ロケット先端のフェアリングは、今年4月に「ファルコン・ヘヴィ」の打ち上げで使用され、回収されたもので、再使用による2回目の飛行となった。

スターリンク

スターリンク(Starlink)はスペースXが構築を進めている宇宙インターネット計画で、地球を覆うように大量の衛星を地球低軌道に打ち上げ、全世界にインターネットをつなげることを目指している。

衛星は1機あたり約260kgで、まるで板のような平べったい構造をしており、重箱のように60機を積み重ねてロケットに搭載。ロケットからは60機がつながった状態で分離し、その後それぞれの衛星を切り離し、各々が自身に装備しているスラスターを使って、運用を行う軌道へと乗り移る。

このスラスターには、電気推進エンジンの一種であるホール・スラスターを採用している。推進剤にはクリプトンを使う。電気推進エンジンの推進剤というと、一般的にはキセノンがおなじみだが、クリプトンはキセノンよりやや性能は劣るものの、コストが安いため、大量生産するスターリンク衛星にとっては大幅なコスト削減が見込めるという。

スターリンクの衛星は、2018年に2機の試験機が打ち上げられたのち、今年5月に最初の60機が打ち上げられた。この60機も試験機という位置づけで、衛星同士の間で通信をやり取りする機能をもっていなかった。また、打ち上げ直後に少なくとも3機の衛星が故障し、さらに現時点までに、11機の衛星が、なんらかの不具合、もしくは事情により、運用を行う軌道に乗り移れていないことがわかっている。

一方で、インターネット接続に向けた試験は順調に進んだとみられ、今年10月22日には、マスク氏がスターリンクを使ってインターネットに接続し、ツイッターに投稿するパフォーマンスを披露している。

今回打ち上げられた60機は、最初の実運用機と位置づけられており、通信に使うKuバンドの機器の最適化が行われたほか、新たにKaバンドの通信機器の搭載、さらに運用終了後に大気圏に再突入した際、機体が確実に燃え尽きるよう、素材を燃えやすいものに変更するなどの改良が施されている。

  • スターリンク衛星

    スターリンク衛星の想像図 (C) SpaceX

スペースXでは今後も打ち上げを重ね、まず2020年に、最初の打ち上げから数えて6回目の打ち上げ後に、米国やカナダなどを対象にしたインターネット接続サービスを開始。そして2021年には、24回目の打ち上げ後に、限定的ながら全世界でサービスを開始する予定だという。

本格的なサービス開始時には、衛星の数は1万2000機にもなる予定。また、今年10月には、そこにさらに3万機を追加し、計4万2000機で運用する構想があることも明らかになっている。

今回も含め、初期の衛星は高度約550km、軌道傾斜角53度の軌道で運用されるが、いずれは今後は高度約1200kmの軌道にも衛星が配備されることになっている。さらに、より低い高度約340kmの軌道には、Ku、Kaバンドよりもさらに周波数が高い、Vバンドという周波数を使う衛星を配備する。Vバンドの衛星通信技術はまだ開発途上だが、より大容量の通信や、妨害を受けにくいことを活かした機密通信などへの展開が期待されている。

マスク氏は、このスターリンクで得た利益を、自身とスペースXが進める火星移民計画の資金に充てると表明。また、火星でスターリンクと同じ仕組みの宇宙インターネットを構築する可能性もあるとしている。

これら膨大な数の衛星の打ち上げには、当面、今回のようにファルコン9を使うが、将来的にはスペースXが開発中の巨大ロケット「スターシップ/スーパー・ヘヴィ」を使い、一度に数百機を打ち上げることが計画されている。

一方で、世界各国の天文学者などからは、これら大量の衛星が太陽光を反射したり、地上に向けて電波を出したりすることで、天文観測に影響を及ぼす可能性が危惧されている。実際いまでも、条件によっては、スターリンク衛星が数珠つなぎになって夜空を横切る様子が肉眼でも確認でき、今後1万機や4万機の衛星が配備されれば、常時夜空に数百機の衛星が見え続けることになるという予測もある。

ただ、スペースXでは、そうした問題を認識しているとし、今後の衛星では反射率の低い材料を使ったり、太陽電池の向きを調整して地上に反射光が届きにくくしたり、電波望遠鏡などがある地域では電波を出さないようにしたりなどといった対策を行うとしている。

また、スペース・デブリとの衝突や、発生源となることも危惧されているが、同社では前述のように、再突入時に燃えやすい素材を採用したり、また衛星の運用終了時には、積極的に軌道から離脱させ、大気圏に落として処分したりなど、極力デブリの発生や、デブリ化したあとの周囲への影響を抑えるよう配慮するとしている。

  • スターリンク衛星

    ロケットに搭載されたスターリンク衛星たち。衛星は板のような平べったい構造をしており、それを重箱のように60機を積み重ねてロケットに搭載する (C) SpaceX

出典

STARLINK MISSION | SpaceX
starlinkpresskit_nov2019.pdf
Starlink
通信衛星群による天文観測への悪影響についての懸念表明 | 国立天文台(NAOJ)

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュース記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)があるほか、月刊『軍事研究』誌などでも記事を執筆。

Webサイトhttp://kosmograd.info/
Twitter: @Kosmograd_Info