宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月18日、小惑星探査機「はやぶさ2」に関する記者説明会を開催し、衝突装置(SCI)の運用計画について報告した。SCIは、小惑星表面に人工クレーターを生成するための装置である。はやぶさ2で新規開発したもので、最も"はやぶさ2らしい"と言えるミッションだが、タッチダウンに続く成功となるか注目だ。

  • 佐伯孝尚

    SCI運用について説明するJAXAの佐伯孝尚プロジェクトエンジニア(左)

40分以内に安全地帯へ退避せよ!

SCIは、直径30cm、質量14kgの円筒形の装置。内部には5kgの爆薬が詰まっており、これで約2kgの衝突体(銅板)を秒速2kmに加速し、小惑星に撃ち込む。クレーター生成の様子を観測することで小惑星の内部構造を調べるほか、衝撃により露出した小惑星の内部物質を次のタッチダウンでサンプル採取することを狙う。

  • SCIの構造

    SCIの構造。銅板は当初、凹面鏡のような形だが、爆発によりヘルメットのような形になる (C)JAXA

銅板は当初、平べったい形で爆薬の蓋になっているが、爆発の力でソフトボール大の砲弾に変形しながら、前方に飛び出す。SCIは、わずか1msという瞬時で加速できるのが大きな特徴。ロケットで加速するペネトレータだと誘導制御が必要で、装置が重く複雑になってしまう。はやぶさ2には重量的な余裕は無く、小型軽量にできるこの方法を採用した。

運用シーケンスはやや複雑だ。高度500mに降下するまではタッチダウンと同様だが、ここでSCIを分離。SCIは作動すると、本体ごと爆発し、破片が飛び散って危険なため、爆発までの40分間に退避する必要がある。安全に隠れられる場所は小惑星の影しかないので、まず1kmほど水平に移動してから、次に4kmほど垂直に降りて裏側に回り込む。

  • 運用シーケンスの概要

    運用シーケンスの概要。SCIはタイマーで作動する。通信系もないので、分離後はもう止めることはできない (C)JAXA

ここにいれば、SCI爆発時の破片や、クレーター生成時の噴出物(イジェクタ)などに対して安全。その後、比較的低速なイジェクタが小惑星を回り込んでくることが考えられるが、これは探査機を小惑星から離れさせることで回避する。ホームポジションに戻るのは、約2週間後になる予定だ。

  • はやぶさ2の回避運動

    高速な破片やイジェクタをリュウグウの影でやり過ごしてから、さらに離れることで回り込んでくる低速なイジェクタも避ける二段構え (C)JAXA

これまで、探査機は常にリュウグウの昼側に滞在しており、今回、初めて反対側に移動することになる。今までとは違う向きから観測するチャンスではあるものの、はやぶさ2の観測機器は基本的に底面側に搭載されており、横方向を見られるのはONC-W2くらいしかない。まだ観測するかどうかは未定だが、検討はしているとのことだ。

なお、探査機には何らかの異常事態が発生したとき、セーフホールドモードに移行して、死なないようにする機能がある。通常だとスラスタを噴射して上に退避するのだが、今回の運用においては、それは逆に危険となる場合がある。セーフホールドモードになった場所によっては、横や下に逃げるよう、設定を変えるそうだ。

SCIに続いて分離するカメラとは?

SCI作動時、安全確保のため探査機本体は小惑星の裏側に退避しなければならないが、するとクレーター生成時の様子を見ることができない。そこで、はやぶさ2に新たに搭載されたのが、「DCAM3」という名前の分離カメラだ。これは名前の通り、ソーラー電力セイル「IKAROS」に搭載された「DCAM1」「DCAM2」の後継機となる。

  • DCAM3

    分離カメラ「DCAM3」の概要と外観。母船側の分離機構に搭載する小型モニターカメラ「MCAM」で分離の様子も撮影する (C)JAXA

DCAM3は、直径80mm、長さ78mmという円筒形の非常に小型のカメラながら、アナログとデジタルの2系統のカメラ・通信機を搭載。探査機が1km水平移動したところで分離され、探査機の代わりに、危険な場所から観測を行う。

アナログ系の画像は、720×526ピクセルと低分解能だが、リアルタイムで探査機に映像を送る。地上に映像データを送るのはSCI運用後となるが、もしDCAM3が途中で交信を途絶しても、直前までの映像が探査機に保存されているので、何があったのか解析に役立てることができる。

もう一方のデジタル系は、2,000×2,000ピクセルと高分解能になっており、科学観測を目的とする。撮影間隔は最高で1秒に1枚のため、高速なイジェクタを捉えることは難しいものの、低速なイジェクタが王冠状に飛び出す様子は観測できる可能性が高いと考えられている。

  • SCI、DCAM3、リュウグウの位置関係

    SCI、DCAM3、リュウグウの位置関係。DCAM3は真横のベストポジションから、クレーター生成ミッションを撮影する (C)JAXA

難しいのは、ちゃんと小惑星の方を向き続けて、視野に入れられるかどうかだ。小型化のため、DCAM3には姿勢制御機能は搭載されていない。スピン安定で回転軸を維持するものの、分離してからSCIの作動までは数10分あり、その間、正しい姿勢と位置を維持できるかは、いかに正確に分離できるかにかかっている。

DCAM3担当の小川和律氏(神戸大学大学院 理学研究科 惑星学専攻 技術専門職員)によれば、分離後のDCAM3の方向の誤差は、±10°には収まる見込みだという。デジタル系の視野角は縦横ともに74°あるので、このくらいの誤差であれば問題無く撮影できるはずだ。

  • 小川和律

    DCAM3について説明する小川和律氏(神戸大学大学院 理学研究科 惑星学専攻 技術専門職員)

S01領域の高分解能画像が初公開

はやぶさ2は、4月5日11:36にSCIを作動させ、リュウグウ表面にクレーターを生成する計画。イジェクタが落ち着いてから、次のタッチダウンを行うことになるが、どこに着陸するかは、SCI運用後に表面を観測してから決定する。表面の状況が探査機にとって危険であると判断すれば、タッチダウンを実施しない可能性もある。

今のところ、着陸候補地点として考えられているのは、「S01」と呼ばれる20m四方の領域だ。3月6日~8日に実施した降下観測運用(DO-S01)では、高度22mまで接近、この領域を上空から観測した。安全に着陸できる場所があるかどうかは現在解析中で、1回目タッチダウンの検討時と同様に、地図を作成しているところだという。

  • S01領域の観測画像

    S01領域の観測画像。上の方には、大きな岩があるのも確認できる (C)JAXA、東京大、高知大、立教大、名古屋大、千葉工大、明治大、会津大、産総研

SCIが狙うのはS01のすぐそばだが、SCIの精度はそれほど高くは無く、予測領域は3σ(約99.7%)で半径200mにもなるという。衝突体がもしS01の近くに命中すれば、S01に小惑星の内部物質が堆積するので理想的だが、離れすぎた場合には、よりクレーターの近くに変更することも検討する。

  • クレーター生成の予測領域

    クレーター生成の予測領域は黄色の円内。かなり広いには広いが、ほぼ確実にこの中には当たる見込み (C)JAXA

予測領域がこれほど広がってしまうのは、DCAM3と同じく、SCIにも姿勢制御機能が搭載されていないからだ。探査機の下方にバネで押し出される際、同時にスピンも加えられて姿勢を安定にするが、探査機が少しでも水平方向の速度成分を持っていれば、作動まで40分もあるので、移動した分、命中場所もズレてしまう。

垂直方向の速度については、分離時に探査機を上昇させることで、小さくしておく。ただ40分の間に重力で落下するので、SCIの作動時の高度は200~300m程度になるのではということだ。

SCIの衝突実験で何が分かるのか

SCIのサイエンスを担当する和田浩二氏(千葉工業大学惑星探査研究センター 主席研究員)は、「天体は何度も衝突を繰り返して現在の姿になった。衝突現象を理解するのは、惑星科学にとって非常に重要」と指摘。「本物の小惑星で衝突実験ができるのは、科学者からすると垂涎の的。ワクワクしている」と期待を述べた。

  • 和田浩二

    SCIサイエンス担当の和田浩二氏(千葉工業大学惑星探査研究センター 主席研究員)

衝突体はいわば人工の隕石。質量と速度が分かっている物体が衝突するので、どのくらいのクレーターができるのかを調べれば、現在あるクレーターに対して、どのくらいの隕石が衝突したのか推測できるようになる。彗星に対しては米国の探査機「Deep Impact」の例があるが、小惑星に対して衝突実験を行うのは世界で初めてだ。

気になるのはリュウグウ表面の岩塊の多さだ。和田氏は「岩塊に当たる可能性も高いと考えている」とのことで、もしそうなれば、岩塊が砕けるだけで、クレーターができない可能性もある。ただ、「小惑星物質の強度が分かるので、それはそれで価値がある科学観測になる」ということだ。

  • SCIによるサイエンス

    SCIによるサイエンス。この衝突実験により、様々なことが理解できるようになる (C)JAXA

どのくらいの大きさのクレーターができるのか、そしてどのくらいのイジェクタが堆積するのかは、命中した場所の状況によって大きく異なる。最も理想的なのは砂場だったときで、直径10m以上の大きなクレーターができる可能性がある。一方、粒径15cm~1.5mのガレ場だと、1m以下になると予測されている。

  • 予想されるクレーターのサイズ

    予想されるクレーターのサイズ。地表の状況によって、かなり大きな差がある (C)JAXA

  • 衝突実験の結果

    衝突実験の結果。地表の物質により、イジェクタ放出の様子も様々だ (C)神戸大学 荒川研究室

SCI運用の前後に予測領域の撮影を行い、ビフォーアフターの差から、生成されたクレーターを探索する。着弾位置の推定には、SCI分離時の画像や、DCAM3からの画像なども活用する予定だ。どのようなクレーターが見つかるのか、結果に注目したい。