ATICがGFを売却するとの噂が浮上

台TSMCに次いで世界第2位のファウンドリである米GLOBALFOUNDRIES(GF)のオーナーであるアラブ首長国連邦アブダビ首長国政府所有の国策投資会社「Advanced Technology Investment(ATIC)」が、GF株式のすべてを売却し、半導体ビジネスから撤退する方向で売却先を探しているといううわさを米国・ドイツ・台湾など各国の複数メディアが先週末から報じている。

GF売却に関するこの種の噂は2015年にも出たことがあり、当時は売却先としてSamsung Electronicsや中国勢の名前が挙がっていたが結局は立ち消えになった。本稿執筆時点の2月18日現在、当事者であるGFおよびATICは正式なコメントを公表してはないので売却に関して真偽のほどはいまのところ不明であるが、例えば2月18日付けのBusinessKoria電子版は、GFの売却先として、現在の米中情勢から中国勢は不可能なので、韓国政府の要請もあり非メモリ事業を強化しようとしているSamsungやSK Hynixの可能性が高いとの業界関係者の見方を伝えている

GFの中国成都工場に稼働中止の噂が浮上

また、売却の噂とはまったく別に、中国の複数のメディアが、四川省成都にあるGFの300mmファウンドリ工場の稼働が中止した模様であることを伝えている。GFは2017年にトランプ大統領の意向に反して、中国進出を決めており、成都で300mmファブを建設し、生産開始へ向けて準備をしていた

しかし、すでに成都工場は閉鎖され、従業員に退職勧告が出され、製造装置が運び出されているとの情報も中国国内で流れている。GF成都工場の地元従業員からの情報に基づいているようで、当事者のGFおよび成都市地方政府当局のコメントは出ていないことから、現時点では直接の事実確認ができておらず、噂レベルの情報が拡散する事態となっている。なお、GFは米国本社のプロセス微細化に関する方針変更にともない、2018年10月末に、当初計画していた180/130nmロジックプロセスの採用をとりやめ、22FDX(22nm 完全空乏型SOI)プロセスに絞る方針変更で成都市当局と合意していた

このように世界各地で同時にGFに関するさまざまな噂が流れていることからGF内部に何らかの異変が起きているのではないかと見る向きもある。

GF、シンガポールの200mmラインを売却

なおGFは、2019年1月31日付けで、シンガポールのTampines地区にある同社のFab 3E(200mmライン)を 台湾Vanguard International Semiconductor Corporation(VIS)に売却することで正式に合意している

こちらはGFおよびVISが公式発表しているので確定情報である。GFのファブ3Eは、もともとは日立製作所のほか、新日本製鐵などの合弁半導体工場として1996年に設立され、64MビットDRAMの量産などを担当していたが、その後、DRAMから撤退するに伴って、Hitachi Semiconductor Singaporeに移管されたのち、ルネサス テクノロジー(現ルネサス エレクトロニクス)向けにLCDドライバやマイコンの製造を担当していた。

2008年に日立半導体事業部門は同工場を地元のChartered Semiconductor Manufacturing(現GF)に売却し、シンガポールから撤退。その後、2009年にはGFのオーナーであるATICがCharteredを買収し、GFと合併させたことから、現在までGFの一工場として操業されてきた。

Fab 3EのVISへの譲渡額は約2億3600万ドルで、譲渡対象は、土地、建物、装置などの設備、従業員のほか、同工場で製造しているGFのMEMS関連IPも含まれる。

また、同工場に製造委託している顧客への周知と移管手続きのため、2019年末まではGFが同工場の運営を継続するとしている。

Fab 3Eの生産能力は月産約3万5000枚(200mmウェハ)。VISは、2018年以降の生産工場のフル稼働が続いており、今回買収した工場についても増強を進め、月産4万枚以上へ生産能力拡大を図るという。なお、GFは世界に散在するファブをスリム化し、稼働コストを削減することで経営効率を高めるために売却を行ったとしているが、「ATICの指示でGFは資産整理を始めたのではないか」と見る向きもある。ちなみにGFは現在、シンガポールWoodlands地区に300mmおよび200mmファブを所有している(旧Charteredの工場)。Fab 3Eだけは、日立から購入したため、主力工場とは別の場所に位置している。

微細プロセス指向の先進顧客離れが進むGF

GFは2018年夏、7nm以降の微細プロセス開発や製造受託を無期延期(事実上中止)したが、実は、その前から従業員のリストラを始めていたと言われている。TSMCやSamsungとの微細化開発競争から撤退し、IBMの半導体研究開発センター(米国ニューヨーク州アルバニー)と開発協業してきた先端プロセス分野の技術者らも多数レイオフされた。その結果か、またその逆かの関係性は不明だが、GFの元親会社であるAMDや元先端プロセス開発パートナーであるIBMはじめ有力顧客のGF離れ(7nmおよびそれ以降の超微細プロセスを採用したチップはライバルであるTSMCやSamsungへの委託先が変更されている)が起きており、今後、GFがビジネスを継続していくうえで、そうした先進プロセスの製造委託をしていた企業が抜けた穴の影響が懸念される。