高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所の小野寛太 准教授および日立製作所は2月7日、人工知能(AI)や機械学習にも用いられる統計手法「カーネル密度推定法」を用いて、新材料の研究開発に有用な量子ビームを用いた材料評価の計測実験(量子ビーム実験)を効率化する手法を開発したことを発表した。

同研究は、トヨタ自動車の協力のもと、進められたもので、成果については、小角散乱実験の研究者が一堂に集う国際会議「Small Angle Scattering 2018」にて発表されたほか、2019年2月6日付けで英国学術誌「Scientific Reports」に掲載された

機能性材料の探索には、中性子や放射光などの量子ビームを用いた実験が活用されているが、加速器などを有する施設や機器の稼働時間が限られる一方、計測データの精度や計測時間を最適化する方法が確立されておらず、実験方法や解析結果が人に依存するという課題があり、実験の効率化が求められていた。

今回、研究グループは、量子ビーム実験の1つである、小角散乱実験(Small Angle Scattering:SAS)で得られた、ナノスケールの構造情報を示す二次元強度分布データのばらつきを、カーネル密度推定法を適用して抑制する手法を開発したという。

同手法を活用することで、短時間の測定で得られた低品質なデータを数倍~10倍のレベルに高精度化することが可能となり、長時間を要していた計測を、従来の10分の1の時間に短縮することが可能になるという。

  • カーネル密度推定

    カーネル密度推定による分散抑制効果。左が生のSASパターンと分散抑制後のSASパターン。右が分散抑制後の効果

なお、研究グループでは、試料や測定条件に合わせて統計手法を最適化することで、さらなる測定効率の向上が見込まれるとするほか、トヨタでは、今回の研究成果を電気自動車(EV)など電動車のモーター向け新材料研究へ応用していく予定だとしている。