ハーバード大学の研究チームは、音波を使って印刷する新技術を開発したと発表した。これまでにない広い範囲の組成と粘性のインクを、音波を用いて液滴状にできるという。バイオ医薬、化粧品、食品、光学材料、導電性材料など幅広い分野に応用できる可能性があるとしている。研究論文は「Science Advances」に掲載された

  • 音波を利用した印刷技術でハチミツの液滴をガラス表面に並べた

    音波を利用した印刷技術でハチミツの液滴をガラス表面に並べた (出所:ハーバード大学)

液滴化の技術は、インジェット印刷、ドラッグデリバリー(薬物送達)に使われるマイクロカプセルの作製など、さまざまな分野で利用されている。インクジェット印刷の場合、液滴を安定して使用できるのは水の10倍程度の粘性をもつ液体であるとされる。

一方、生体高分子や細胞含有溶液など、バイオ医薬品やバイオプリンティング分野で重要視される液体の場合、少なくとも水の100倍程度の粘性がある。糖をベースとする生体高分子には、水の2万5000倍の粘性(ハチミツと同等)をもつものもある。

こうした液体の粘性は温度条件および組成によって大幅に変化するため、液滴のサイズを制御するための印刷パラメータの最適化は難しい。研究チームの目標は、液体の材料特性に影響されない印刷システムを開発することによって、印刷に対する粘性の影響をなくすことであるという。

蛇口からポタポタ垂れる水のしずくのように液体は重力の作用だけでも液滴化するが、その場合、液滴のサイズは大きいままであり、液滴化するスピードを制御することも難しい。「ピッチドロップ」と呼ばれる超高粘性液体(水の約2000億倍の粘性)の場合、一見すると固体のように見え、1粒の液滴が作られるのに10年以上かかることもある。

  • 液体金属を液滴化して印刷することもできる

    液体金属を液滴化して印刷することもできる (出所:ハーバード大学)

今回の研究では、音波を使って液滴化を促進させることを試みた。音波は、重力の作用を打ち消して物体を空中浮遊させるために使われることもあるが、ここでは重力をアシストする方向で音波が利用されている。

研究チームは、音の波長より小さいサブ波長サイズの音響共振器を作製した。この共振器は非常に小さな範囲に閉じられた音響場を生成することができ、通常プリンタノズルにかかる1Gの重力と比較して100倍超の力をかけることができるようになる。

この力を制御することによって、液滴のサイズが望みの大きさになったところで液滴をノズルから引き離し、印刷面に向けて射出できるようにした。液体の粘性には依存せず、音波の振幅が大きいほど液滴のサイズが小さくなる。

研究チームは、今回の技術について、ハチミツ、幹細胞インク、生体高分子、光学用樹脂、液体金属など、さまざまな材料を適用した実験を行っている。重要な点として、音波が液滴自体を伝播することがないため、生体細胞やタンパク質などのセンシティブな材料に対しても同技術が安全に適用できることが強調されている。