英Armは米Treasure Dataを買収し、これを組み込んだ「Arm Pelion IoT Platform」を提供することを8月2日に明らかにしたが、8月22日、このPelion IoT Platformを国内でも提供開始することを発表。これに合わせて都内で記者説明会が開催され、本社のDipesh Petal氏(Photo01)に加えてTreasure Data創業者である芳川裕誠氏(Photo02)による説明が行われた。

  • President, IoT Services GroupのDipesh Patel氏

    Photo01:President, IoT Services GroupのDipesh Patel氏

  • Treasure Data創業者兼社長の芳川裕誠氏

    Photo02:Treasure Data創業者兼社長の芳川裕誠氏。現在はPatel氏の下でVP&GM, Data Business, IoT Service Groupという役職となっている

Armが提供するIoTプラットフォーム「Pelion」

まずPelion IoT Platformとは何か? というと、同社が6月に買収したStream Technologies、ならびにArmが従来から提供しているMbed Cloud(とMbed OS)、それと今回のTreasure Dataの提供しているCDP(Customer Data Platform)/DDP(Device Data Platform)の3つを組み合わせたものとなる(Photo03)。

  • Treasure DataのソリューションがArmのソリューションを補完

    Photo03:同社のMbed CloudはDevice ManagementとConnectivityに関しては提供されてきていたが、その上のデータ管理や分析は手付かずであり、これをTreasure Dataのソリューションで補った形となる

具体的に何を目指すか? というと、さまざまなデバイスを、オンプレミスやプライベート/パブリッククラウド、あるいはそのハイブリッドとつなげる部分はMbed Cloud+Mbed OS、それとStream Technologiesのソリューションで補うことができるが、その先のデータの利用の方法が無いままでは、IoTがスケールしない(Photo04)。そこで、Treasure Dataの提供するData Management Servicesを組み合わせることで、それこそCDPやDDP、さらにその先のアプリケーションを構築できるような準備を整えた形だ(Photo05)。

  • Arm Pelionの概要

    Photo04:ちなみにStream Technologiesは北米やヨーロッパを中心に、2G/3G/4Gを利用した企業向けの広範なConnectivityとNetwork Managementを提供する企業である。これを傘下に置くことで、これまでMbed OSでは手薄だったWAN環境でのConnectivityを補った訳だ

  • 複数のサービスが組み合わさったPelion

    Photo05:その意味ではPelion IoT Platformはあんまり緊密につながっているものではなく、複数のサービスの総称としても良いのだろう

Treasure Dataが提供する価値

ではそのTreasure Dataはどのようなサービスを提供するものか? ということで、まずは同社がどのような企業であるのかについて説明しておこう(Photo06)。

  • Treasure Data設立者の日本人3人

    Photo06:会社の所在地はアメリカであるが、設立したのはこの3人の日本人である

昨今はFANG(Facebook/Amazon/Netflix/Google)といった存在がDigital Distuptorとして急速に発展していることは周知の事実である。その結果としてDigital化に遅れた既存の大企業たちが急速にその勢いを失いつつある(Photo07)という状況に陥っている。この2つの存在の違いが何かと言えば、いわゆるDigital Disruptorは、端的に言えば顧客一人一人に最適なソリューションを提供することを可能とした存在であり、既存の大企業は従来型のマスマーケットを対象としたビジネスであり、そうした従来型のビジネスは、新たな潮流にあらがえず、今後通用しなくなっていくことが予測される(Photo08)。

  • デジタル化で変わる社会

    Photo07:いわゆる大企業が、その売り上げを維持できなくなり、急速に没落してゆくという話は別にアメリカだけではないのはご存知の通り

  • ここに画像の説明が入ります

    Photo08:言うのは楽だが、これに追従するのはもちろん大変である

問題は、FANGはいずれもこの顧客一人一人に最適なソリューションを提供するためのインフラを構築するために、年間数十億ドル規模の開発投資と、トップエンジニアへの求心力を兼ね備えている点にある。これを後から追いかけるためには、これを上回る投資が必要になり、そうおいそれとは実現できない。

ここでTreasure Dataが提供するCDPがポイントになってくる。CDPは、要するにFANGが自社で開発しているインフラに相当する顧客対応のプラットフォームを共通化し、さまざまな企業がそれを自社の製品やサービス向けに利用できるようにするというものだ(Photo09)。具体的なイメージはこちら(Photo10)で、それぞれの企業から得られる一次データと、さまざまな外部情報をベースにした二次/三次データを組み合わせ、これをそれぞれの企業が利用しやすい形で提供するというものである。

  • カスタマデータの活用イメージ

    Photo09:考えてみれば、最終的な分析をどう自社のサービスや製品につなげてゆくかはもちろん企業ごとに異なるが、その手前の仕組みはそんなに大きくは変わらない訳であるので(データの持ち方に工夫は必要にしても)汎用的なプラットフォームを複数の企業で使いまわす事は理にかなっている

  • CDPを活用したデジタルマーケティングのイメージ

    Photo10:このスライドでは出力がプロモーションに偏っている様に見えるが、実際にはこのあたりは企業のニーズにあわせて細かく変更できる模様

ちなみに同じ仕組みをデバイスに利用したのがDDP(Device Data Platform)である。国内で言えば、例えばTreasure Dataは三菱重工業と共同で、風力発電機のデータ収集や分析などを行っているが、昨今ではこうしたデータが重なり合う機会が増えてきたとする。

芳川氏は一例として自動車保険を挙げたが、これまでは年齢とか事故歴をベースに、膨大な料率表から保険の金額を決めるという、いわば静的な価格付けが行われてきた。ところが実際には運転の様子などをテレマティックで収集することで、これを保険金額に反映させるという新しいビジネスの提案が可能になる、としている(Photo11)。

  • DDPとCDPのオーバーラップ部分が増加

    Photo11:この数年でCDPとDDPがオーバーラップするような分野が増大してきており、ヒトとモノのデータを掛け合わせることの重要度が高まってきている

IoTを実現するために必要なものを取りそろえたArm

ちなみに、Pelion IoT Platformは非常に緩いソリューションである。なので顧客はもし望むのであれば、Mbed Cloudを使いつつもTreasure Data Platformを使わないことも出来るし、またArmはStream TechnologiesのConnectivityとMbed Cloud、Treasure DataのPlatformをそれぞれ独立して提供することもできるので、ConnectivityやDevice Management、もっと言えばCloud Serviceそのものも非Armのソリューションを使いながら、Treasure DataのPlatformだけを利用することも可能とされる。

そうした意味ではPelion Platformは統合の第一ステップの段階であって、統合のメリットを出すには至っていない。ただこれによりEnd to Endのソリューションに必要なパーツがほぼ揃ったのも事実であり、今後は「独立して利用することも可能だが、一緒に使うとよりメリットがある」ソリューションが次第に揃ってくる事が期待できるだろう。