スペースXとULAの漁夫の利を狙う

オービタルATKがこうしたロケットを開発する背景には、もちろんそれなりの考え、そして勝算がある。

現在、米国の軍事衛星やNASAなどの科学衛星、いわゆる"官需衛星"の打ち上げは、ボーイングとロッキード・マーティンが設立したユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)と、新進気鋭のスペースXがほぼ独占している。オービタルATKは大型ロケットをもっていないこともあり、小型衛星などの打ち上げに終止している。

しかし、ULAが現在運用している「アトラスV」ロケットは、第1段にロシア製エンジンを使っていることがネックとなっており、また「デルタIV」はコストがべらぼうに高いという欠点がある。そこで、新規に開発した米国製エンジンを搭載し、コストも抑えた、「ヴァルカン」ロケットの開発を行っている。

ヴァルカンは2020年ごろの打ち上げが予定されているが、予定どおり完成し、なおかつコスト目標などが計画どおり達成できるかどうかはまだわからない。とくにロシア製エンジンを代替する米国製エンジンの開発は、若干遅れていることが報告されている。

一方のスペースXは、現在低コストな大型ロケット「ファルコン9」が着実に打ち上げ成功を続けているが、2020年ごろをめどにまったく新しい、そしてさらなる低コスト化を目指したロケット「BFR」を投入することを予定している。しかし、BFRは技術的にきわめて野心的なロケットであり、完成するかどうかさえまだわからない。

また無事に完成したとしても、スペースXは宇宙インターネットを構築するために1万機を超える衛星の打ち上げを計画しており、また月や火星への移住計画も目論むなど、自社の打ち上げだけで手一杯になる可能性もある。

さらにブルー・オリジンも、独自に大型ロケット「ニュー・グレン」を開発しているが、他のロケットと同様、完成するか、予定どおり打ち上げが始められるかまだわからない。

つまり、2020年代の初頭、米国の大型ロケット界隈は大きな節目を迎える。そしてこの"がらがらぽん"によって、市場の勢力図が大きく塗り替わるかもしれない。

  • スペースXが開発を進めている新型ロケット「BFR」の活用イメージ

    スペースXは完全再使用型の巨大ロケット「BFR」によって、すべてのロケットを時代遅れにし、さらに月や火星に移住するというさらに未来を実現しようとしている。しかし、実現するかどうかはまだわからない (C) SpaceX

NGLの強みと弱み

そこへきてNGLは、まず打ち上げ能力に関しては申し分ない。そして、シャトルのブースターも他のエンジンも米国製であり、ロシア製という弱点もない。

さらに、それらの固体モーターやエンジンはすでに開発済みで、また一部は飛行実績もあることから、ヴァルカンやBFRより開発の確実性は高く、開発コストも抑えられる。打ち上げ直後から一定の信頼性もある。もし、ULAやスペースXなどのうち、1社でもロケットの開発に失敗するなどし、官需衛星の打ち上げを担えなくなれば、NGLが市場に食い込める可能性はある。

また、静止軌道に衛星を直接投入できる能力も大きな武器になる。

一方、再使用性のなさは弱点になる。BFRやニュー・グレンは機体を再使用、ヴァルカンも第1段エンジンのみの再使用をすることでコストダウンを図ろうとしているが、NGLは使い捨てしか考えていない。部品の共有、大量生産によってコストダウンできる余地はあるが、そのためには打ち上げ数を多く稼ぐことが必要になる。逆にいえば、打ち上げのシェアをある程度取らない限り、大幅なコストダウンは見込めない。

ロケットの再使用とそれによるコストダウンというコンセプトは、まだどこも手探りの段階であり、2020年代の初頭においてはまだ、NGLのような大量生産ロケットが競争力を持ち続けられる可能性は十分にある。しかし、ひとたび再使用が主流になり、そして実際にコストダウンの成果が目に見えて出てくるようになれば、とたんに時代遅れになる可能性もある。

それが2020年代のいつごろから起こり始めるかによって、NGLの運命も変わるだろう。

  • NGLの想像図

    NGLの想像図 (C) Orbital ATK

オービタルATKにとってNGLが重要なもう1つの理由

オービタルATKにとってはもう1つ、NGLを開発すること、そしてそれにより一定の打ち上げを確保することが必要不可欠な理由がある。

NASAの次世代ロケットSLSのブースターは、かつてのシャトルのブースターを流用することになっている。ただし、これは初期型の話で、2020年代後期ごろをめどに、より性能の高い新型ブースターに置き換える計画がある。

オービタルATKはこの新型ブースターとして、シャトルのブースターに炭素繊維複合材料を使ったもの、すなわちNGLの第1段や第2段と似たものを提案している。つまりNGLは、この新型ブースターへの採用に向けての実績作りという側面もあり、もし選ばれれば、NGLとSLSで共有することで、相乗効果によるコストダウンも図れる。

ただ、この新型ブースター開発には、他の企業も提案を出しており、オービタルATKが敗れる可能性もある。さらに、そもそもSLSの開発は遅れており、ほぼ同等の打ち上げ能力をもつスペースXの超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」が登場したこともあって、開発中止になる可能性も出てきている。

つまりNGLの開発には、シャトルのブースターという資産を活かすこと、SLSの新型ブースターへの採用に向けたアピールといった面があると共に、SLSという大口契約を失った場合の損失を補い、さらに技術や雇用が流出することを防ぐという狙い、必要性もある。

  • SLSの想像図

    SLSの想像図。両脇にはシャトルのブースターを流用する (C) NASA

開発にゴー・サインは出るか

このNGLが実際に開発されるか否かの鍵は、実のところ米空軍が握っている。

米空軍は軍事衛星の打ち上げにおいて主導権をもっており、軍事衛星の打ち上げに必要な認証を審査、付与したり、各企業のロケット開発に資金と口を出す権限をもったりしている。すでに今年1月には、NGLに軍事衛星を打ち上げるだけの性能や信頼性があるかどうかを審査する計画が始まっている。

だが、まだNGLが実際に飛ぶかどうかは未知数である。米空軍は2016年に、NGLに対して資金を与えているが、これは実際に必要となる開発費のごく一部にすぎない。そのため、オービタルATKは検討やロケットの設計、一部の部品の開発を行っているだけで、まだ本格的な開発は始まっていない。

オービタルATKによると、NGLの総開発費のうち、3分の2を米空軍が出資し、残り3分の1を自社から出すことを考えているという。また、もし米空軍が資金を出さないとなると、開発を中止する可能性が高いという。

米空軍がNGLに資金を出すか否かの決断は、今年の初頭、すなわちもう間もなく下される予定になっている。

参考

Next Generation Launch System
Next Generation Launch System - A Low Risk, Low Cost Launch System
News Room - Orbital ATK Completes Major Development Milestones in Next Generation Launch Vehicle Program
News Room - Orbital ATK Signs Cooperative Agreement with U.S. Air Force Space and Missile Systems Center
Orbital ATK expects decision on new rocket by early 2018 - SpaceNews.com

著者プロフィール

鳥嶋真也(とりしま・しんや)
宇宙開発評論家。宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関する取材、ニュースや論考の執筆、新聞やテレビ、ラジオでの解説などを行なっている。

著書に『イーロン・マスク』(共著、洋泉社)など。

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