東京大学医科学研究所は、マウスの乳腺を妊娠・出産・授乳・離乳期から成る生殖サイクルを通して観察することで、哺育に欠かすことのできない授乳期の乳腺組織に免疫および微生物環境が発達する仕組みを明らかにしたと発表した。

非授乳期の乳腺と授乳期の乳腺における、免疫環境と微生物環境

非授乳期の乳腺と授乳期の乳腺における、免疫環境と微生物環境

同研究は、東北大学大学院農学研究科の新實香奈枝氏(博士課程後期大学院生)、宇佐美克紀氏(博士課程前期大学院生)、野地智法准教授、麻生久教授と、東京大学医科学研究所の清野宏教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、12月20日に国際科学雑誌「Mucosal Immunology」の電子版に掲載された。

外分泌器官のひとつである乳腺は、その機能・形態形成機序が非常に特殊であり、性成熟後に導管が形成され、妊娠・出産を経ることで乳腺房構造が発達して初めて機能するようになっている。この授乳期の乳頭から病原微生物が侵入することによって生じる乳牛の乳房炎や、ヒトの乳腺で生じる炎症反応(乳腺炎)は、高い頻度で発生し、哺育や牛乳生産の大きな妨げとなっている。そのため、家畜生産現場では、一般的な治療法である抗生物質に代わる、予防に焦点を当てた乳房炎ワクチン開発が期待されているというが、乳腺の免疫発達機序の多くは謎に包まれており、開発は難航しているのが現状となっている。

粘膜組織では、IgAを主とした免疫グロブリンが、病原微生物に対する感染を阻止する上で重要な役割を発揮している。同研究では、乳腺の組織構造変化とIgA産生の関連性を明らかにすべく、妊娠・出産・授乳・離乳の生殖サイクルを通した、マウスの乳腺での形態学的および免疫学的解析を実施した。その結果、乳腺の組織構造が最も発達する授乳期中~後期に、IgA産生形質細胞数も大幅に増加することを見出した。また、これまで知られていた乳腺の組織構造の発達に加え、乳腺の免疫機能の発達にも、子が乳を飲む際の刺激が必要不可欠であることがわかったという。さらに、バクテロイデス属やクロストリジウム属を主とした約800の菌種から成る微生物叢が授乳期の乳腺に発達していることも突き止められた一方で、微生物叢は、IgA産生細胞の乳腺への細胞遊走には全く関与していないことも明らかになった。

このことは、良好な哺育ならびに乳腺での疾病制御を可能にするためには、乳腺の免疫および微生物環境の質の向上を目的としたアプローチが重要であることを示唆するものだという。また、今後は、乳腺炎や乳房炎のためのワクチンやプロバイオティクス開発など、乳腺の免疫・微生物環境を向上するための新技術開発へと発展していくことが期待されるということだ。