3つ目がScalabilityである。すでに同社はmbed Cloudを昨年発表している。ちょっとこれまで発表/提供されてきた製品をまとめると

  • mbed OS:要するにClient側のOS
  • mbed Device Server:mbed OSが動くClientを管理するためのもの。現在はmbed Device Connectorに統合
  • mbed Client:mbed OS以外の環境で動くアプリケーションにmbed Device Connectorとの接続性を提供するためのライブラリ。公式にはLinuxの対応がリリースされているが、他にもAndroidとかMicrium's μC/OS-III上に移植した例なども存在する
  • mbed Device Connector:mbed OSあるいはmbed Clientが動くデバイスとCloud Serviceを接続するための仲立を行う、文字通りの"Connector"。2015年にこれが発表されたときは、IBMのBluemixとの接続がこのConnector経由で行えるとされたが、現在はmbed CloudとのConnectorが主要な目的になっているようである
  • mbed Cloud:文字通りの、mbed OSの対となるCloud Service。2016年のARM TechConで発表された

といった具合になる。ちなみにmbed OSはmbed OS 2(mbed OS Classicと呼ばれる、フィンランドのSensinode Oyの提供していたNanoServiceと呼ばれるもの由来)と、新規に開発されたmbed OS 3(yottaと呼ばれていたもの)をマージさせたmbed OS 5が正式リリースされているが、今回はその話は措いておく。

さて、mbed Cloudはいくつかのパートナー企業がすでに契約を結んでいる。Photo08に出てきているのがそれで、会場ではこのあとパートナー企業によるビデオメッセージも流された(Photo14)。

Photo14:左にあるのが、現在のmbed Cloudで提供される一覧。もちろんデータの送受信もここには含まれる

実際にいくつかの事例をベースに、mbed Cloudを利用することのメリットが示された(Photo15)。

Photo15:これはAdvantechによる駐車場管理システムの例。500か所の駐車場の管理システムをわずか3か月で構築した。機器一式とそのインストールが100万ドル、年間費用が8万ドルで、トータルで(mbed Cloudを使わない場合に比べて)5割節約できたとしている

このmbed Cloud+mbed OSはPSAにフル対応しており、PSAと組み合わせることでSimple、Secure and Scalableという3つのテーマを完全に満足させるソリューションになる、というのがPatel氏のメインメッセージである(Photo16)。

Photo16:もちろんPSAなしでもシステム構築は出来るが、PSAを組み合わせることで完璧なソリューションになる、という訳だ

なぜここまでPatel氏が熱く語るのか。1つは、このmbed Cloudというビジネスがかなり大きな規模になると予測しているからだ。再び第2四半期のRoadshow Slideからのスライド(Photo17)だが、これは毎年6億ドル規模のビジネスになる、と予測している。これは2016年のライセンス収入に比肩しうる巨大な収入である。いくらソフトバンク傘下だからといって、これだけの収入を無視する訳もない。

Photo17:これは将来ここまで成長する、という話であって現状はもっと少ない(恐らく2桁程度小さいと思われる)であろう

ただ、それよりももっと同社にとって切実、というよりも恐怖に近いものを感じているであろうことは、このマーケットが他に奪われてしまうことだ。mbed OS+mbed Cloudの図式があるからこそPSAが意味を持つのであり、ひいてはARMによるセキュリティの標準化が実現することになる。ところがIoT Cloudに関してはAmazonのAWS IoTとMicrosoftのAzure IoTが先行しており、これをGoogle Cloud IoTが追従している状況で、正直mbed Cloudはかなり出遅れている感がある。それもあって、敢えて長々とZebraや東芝といったパートナー企業のビデオメッセージを流すことで、出遅れていない感を演出したようにしか、筆者には感じられなかった。

AWS IoTにせよAzure IoTにせよ、セキュリティ周りに関してはそれぞれ独自の規格でがっちり固めているから、このまま両社のクラウドサービスが独走してしまうと、セキュリティの標準化は非常に難しくなる。正確には、勝手に標準化は出来ても、誰もつかってくれないものが出来上がるだけになってしまう。armとしては当然これは避けたい訳だ。

これもあって、今回AWS IoTやAzule IoTにあって、mbed Cloudに無い機能を急遽追加してきた。それがmbed Edgeである(Photo18)。

Photo18:「エンタープライズクラスの(運用)柔軟性を提供」

機能としては

  • プロトコル変換:さまざまレガシープロトコルをサポート
  • Edge Computing:Cloudまで持ち上げずに、エッジレベルでのコンピューティング能力を提供
  • Gateway management:通知やさまざまな診断機能、インタフェース管理機能などを提供

といったものがmbed Edgeで提供される(Photo19)。

Photo19:意味合いとしては、例えばMicrosoftならAzure IoT Hubに相当するものがこのmbed Edgeとなる

mbed Cloudは10月から商用出荷を開始したが、mbed Edgeは今年第4四半期中にプレビューの提供を開始するとして、Petal氏は講演を締めくくった(Photo20)。

Photo20:armの中では、mbed Cloudの機能(Connect/Update/Provision/Edge)の1つ、という扱いのようだ

最後に余談を1つ。mbed OSの担当者に色々確認できる機会があったのだが、現在のmbed OS 5では今のところBluetooth Meshはサポートされないという。ThreadをサポートしているからMesh Networkへの対応は可能だし、Bluetooth 5はすでにサポートされているから、行けるかもと思ったのだが、Bluetooth Mesh用のStackを新規に開発する必要があり、将来的にはサポートする予定だが、今のところはまだ無理という話であった。この点については、ちょっと残念であった。