体験型展示の完成度を追求

そうしてつかんだミラノという舞台で、最も気を遣ったのが展示方法です。イタリア国立ブレラ美術アカデミーという歴史ある会場で行ったモノを中心とした体験型の展示は、昨今のブランドメッセージをインスタレーションで表現する展示とは一線を画す新しい見せ方ができたのではないかと思っています。

会場となったのは、17世紀に建てられた歴史的建造物の「イタリア国立ブレラ美術アカデミー」

展示を2部構成とし、地上空間では音や映像により感覚を研ぎ澄まし、地下回廊ではモノを主体とした丁寧なプレゼンテーションを行うことにより、実際に手で触れて体験し、対話を通して私たちの想いを大きなストーリーとして伝えることを試みました。

ここに至るまで苦労したことは数えるとキリがないくらいあるのですが、やはり世界中のデザイナーや企業が注目するミラノサローネという場で、パナソニックデザインとして家電の未来を発信するということで、「いかにメッセージやモノを高いクオリティで仕上げるか」というところがもっとも苦労した点です。

今回の発信の狙いは、これからの100年を豊かにする家電とは何か、を日本の家電ブランドとして考え、世界に向けて発信する、という壮大なものです。そのメッセージを言葉や文化、歴史の異なるミラノの地で、空間や体験、対話を通して明確に伝えるということは予想以上に時間のかかる作業でした。

また作品に関しては、モックアップをただ展示するのではなく、大人から子供まで様々な人が実際に触れて体験できるというコンセプトのため、商品のような完成度の高いプロトタイプに仕上げることに注力しました。プロトタイプ自体は基本的に京都の展示と同じものですが、より印象的な体験のために、演出を追加しています。真っ暗な会場に入ると最初に音が鳴り、プロトタイプを置いたカウンターには光が走ります。

職人の手作業と機械で作るパーツの組合せは、質、精度、バランスなど一筋縄ではいかないことも多く、試行錯誤の繰り返しでした。手で持った時の重さ、蓋を開けて音が鳴るタイミング、空間の中での香りの広がりかた、湯気の見え方、最も奇麗に見える光の明るさなど、感覚的なチューニングは現地に来てからも調整を続け、徹底的に仕上がりに拘りました。

また、ブレラ美術アカデミーの地下回廊の最初の光と音の演出も、一旦感覚をリセットし、いかに展示に引き込み、私たちのメッセージを伝えやすくするかを念頭に置き、開始ギリギリまで全員で調整を繰り返し仕上げていきました。

現地での反応は

昨年の秋の京都での展示である程度の手ごたえは掴んでいましたが、全く異国の地での展示ということもあって、期待と不安が入り交ざる心境で会期を迎えました。

始まってみると、歴史あるブレラアカデミーという場所の魅力も合わさって、凄い熱量と想定以上の反響でした。やはりミラノはデザインに対する理解や興味が高く、文化として根付いていることを実感しました。大人はもちろんですが、子供が本当に楽しそうにプロトタイプを触って遊んでいたのが印象に残っています。

また、多くのデザイン関係者やメディアにも高い評価をいただきました。SNSのアップ数が多かったのも今回の特徴で、パナソニックのタグをつけてどんどん拡散し、情報を聞いた駐イタリア大使がローマから駆けつけてこられたほどです。

また最終的には、2000以上ある出展の中から「Best Storytelling賞」をいただくことができました。私たちの想い描いている家電の未来のひとつの方向性をきっちり伝えることができ、世界の多くの方に受け入れられたことは本当に嬉しく自信につながりました。

今回展示した家電はあくまでもプロトタイプであり、現在のところ商品化の予定はありません。ただ、ここで終わることなく、この活動を続けデザインの思想を未来へ繋いでいくこと、またこのデザイン思想を商品に取り入れていくような活動を続けていくことが大事だと考えています。