「ファルコン・ヘヴィ」ロケットの初打ち上げ

ロケットと補給船の再使用の話題も一息つくであろう今年の夏ごろには、スペースXは超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の初打ち上げを計画している。

ファルコン・ヘヴィは、ファルコン9を中心に、その両側にファルコン9の第1段を装着したような形をしたロケットで、国際宇宙ステーション(ISS)が飛んでいるような地球低軌道へは最大約54トン、通信衛星などが打ち上げられる静止トランスファー軌道へは最大約22トンという打ち上げ能力をもつ。これは現在運用中のあらゆるロケットと比べて2倍以上という強大なものである。

また、ファルコン9を流用していることからもわかるように、中央の第1段機体と、ブースターにあたる両側の機体はすべて着陸、再使用ができるようになっている(ただしその場合の打ち上げ能力は、前述した数字よりいくらか下がることになろう)。

スペースXでは、国家偵察局(NRO)などが運用する大型の偵察衛星の打ち上げをはじめ、スペースXが2018年に計画している月への有人飛行にも使われる予定となっている。

また、2020年から定期的に火星へ無人のドラゴン2宇宙船や観測装置などを送り込むことが計画されており、その打ち上げロケットとしてもファルコン・ヘヴィが活用される。この火星探査による成果は、昨年9月に発表されたスペースXによる火星への移住計画の礎となる。

スペースXは現時点で、ファルコン・ヘヴィの価格を9000万ドル(約100億円)としている。現行の他のロケットとほぼ同じ価格ながら、それらよりも2倍以上という強大な打ち上げ能力をもつロケットが完成し、信頼性も確保されれば、宇宙ホテルの建造や大型の惑星探査機の打ち上げなど、宇宙の利用は大きく広がることになろう。

ファルコン・ヘヴィの想像図 (C) SpaceX

ファルコン・ヘヴィもファルコン9と同じように、機体を回収し再使用することができる (C) SpaceX

「ドラゴン2」宇宙船の無人での初飛行

2017年においてもうひとつの大きな目玉となるのが、今年の11月ごろに予定されている、有人宇宙船「ドラゴン2」の無人での初飛行である。

前述のように、現在スペースXは無人のドラゴン補給船を運用しており、その技術を基にして有人宇宙船を開発している。最大の特長は、着陸にパラシュートを使わず、側面に装着したスラスター「スーパードレイコー」を逆噴射しながら着陸するところにある。

イーロン・マスク氏によると、これにより陸地の狙った場所に、ヘリコプター並の精度で正確に降りることができ、さらに地球以外の天体への着陸にも使えるとしている。ただし、初期のミッションでは信頼性のあるパラシュートによる海上への着水が使われ、その後も緊急用としてパラシュートは装備されるという。

さらにスーパードレイコーは、打ち上げ時の脱出ロケットとしての機能も兼ねている。

ドラゴン2は2014年に、イーロン・マスク氏が直々にお披露目し、2015年には緊急時を模して発射台から脱出する試験を、2016年にはスラスターを噴射しながら、ヘリコプターのように空中で静止する試験にも成功している。

この初の無人打ち上げでは、ドラゴン2をISSのハーモニー・モジュールにドッキングさせ、さらに帰還させるところまでを試験する。この試験が成功すれば、続いて飛行中のロケットから脱出する試験が行われ、すべて順調に進めば2018年にも有人での打ち上げが始まり、ロシアの「ソユーズ」やボーイングが開発中の「スターライナー」らと並んで、ISSへの宇宙飛行士の輸送に使われる予定となっている。

また2018年中に予定されている有人月飛行や、2020年から始まる無人での火星飛行にもドラゴン2は使われる予定で、まさにスペースXの今後の活動のカギを握る、重要な使命を帯びている。

ドラゴン2宇宙船の想像図 (C) SpaceX

2015年に行われた緊急時を模して発射台から脱出する試験の様子 (C) SpaceX

「ファルコン9 ブロック5」ロケットの初打ち上げ

スペースXの2017年の話題を締めくくる(予定)のは、年末に打ち上げが予定されている改良型のファルコン9ロケット、「ファルコン9 ブロック5」である。

ファルコン9はこれまで、初期型の「v1.0」、機体やエンジンを改良した「v1.1」、そして機体をさらに改良し、また通常より冷やして密度を高めた推進剤を使う「フル・スラスト」と、大きく3段階の改良が行われてきた。ブロック5は、その最新の改良型にして最終形態となる、究極のファルコン9になるという。

ブロック5ではエンジンがさらに改良され、打ち上げ能力が現行のフル・スラストに対して最大約30%向上。低軌道への打ち上げ能力は約17トンから23トンへ、静止トランスファー軌道へは約6.4トンから約8.3トンへと向上するという。

また、着陸のための余力もその分増え、重い衛星の打ち上げでも機体が回収ができるようになるという。たとえば先日の、通信衛星「エコースターXXIII」の打ち上げでは、質量が約5.5トンもあったため、そもそも回収できなかったばかりか、着陸に必要な着陸脚や安定翼、スラスターなどを取り外して軽量化した上でようやく打ち上げられたが、もしこれがブロック5での打ち上げあったなら、回収は可能だったという。

さらに、あくまで試験的な再使用しかできない現行型に対して、機体の耐久性やメンテナンス性、着陸脚などが改良され、再使用することを大前提とした造りになっているという。また基本的に同じ機体を使用するファルコン・ヘヴィも、打ち上げ能力の向上や再使用の確実性が高まるものと考えられる。

なお、これまで3種類しか確認されていないにもかかわらず、いきなり数字が5に飛ぶ理由は、一説には、v1.0とv1.1の間にブロック2が計画されたものの中止されたため欠番になった、あるいはv1.1を使い捨て仕様と着陸仕様とで分け、前者と2、後者を3としているため、などと言われているが、正確にはわかっていない。

ファルコン9 ブロック5の運用が始まれば、スペースXのロケット打ち上げは再使用することが標準となるだろう。もし再使用により、同社が謳うような低コスト化が達成できれば、2018年からのロケット業界は、これまで以上に大きく変化することになるかもしれない。

3月16日の打ち上げでは、衛星が重いため機体回収は行われず、また着陸脚や安定翼、スラスターなどを取り払って軽量化し、ロケットの打ち上げ能力をフルに発揮できるようにされた (C) SpaceX

ファルコン9 ブロック5が実用化されれば、このような機体回収は日常茶飯事になるかもしれない (C) SpaceX


この他にも、火星移住のためのロケットに使われるロケット・エンジンやカーボン製タンクの試験、そして4000機の衛星によるインターネット構想など、スペースXはいくつもの挑戦を抱えている。さらに、ブルー・オリジンなど、後を追うライバルたちにも張り合っていかねばならない。

はたしてスペースXは今年、どこまでやり遂げることができるのか。それとも、さらに新しい何かが発表されるのか。スペースXの動きも、そしてそこに集まる注目も、とどまることはなさそうである。

参考

Falcon Heavy | SpaceX
Dragon | SpaceX
SpaceX to Send Privately Crewed Dragon Spacecraft Beyond the Moon Next Year | SpaceX
SpaceX delays commercial crew demonstration flights - SpaceNews.com
SpaceX is about to launch one of its final expendable rockets | Ars Technica