--車載だと、新製品となるZynq Ultrascale+ MPSoCは非常にマッチしたものになると思うのですが、逆に言えば、そこにVirtexが入ってくるということはないですよね?

ないですね。そういった意味で不思議なのはテレビですね。この市場に実は少しだけVirtexが入ってくる。

--8Kですか?

良くお分かりで(笑)。最近、アメリカに行った際、量販店にLGエレクトロニクスの55型の4Kテレビが599ドルで売っているのを見ました。Xilinxでもよく「これからはこうしたハイエンドのテレビに入りますよ」といった事を言ってるのですが、コストを計算すると入る訳がない。ここに入っていけるとしたら、Spartan位しかないでしょう。

ここで市場を心配する話に戻ります。通信は市況が軟化しているとは言え、まだまだ一定以上の規模があります。問題はそこに、NokiaやEricsson、Huawaiといった安い製品を持つ海外勢が入ってくるようになったことです。なぜこうした話をするかというと、我々はさまざまな業界と同時並行的に話をしているわけですが、通信に関してはメーカーが、キャリアの話も聞くけど、今後はそれ以外の顧客の話も聞いて、より広いマーケットに向かって必要とされるものを作るといった、いわゆる「モデルを変える」という話をされている。この問題としては、彼らの手元に日本以外の顧客が実際にどの程度いるのか、という点になりますが、そこは我々には知りえないところです。ただ、本当にグローバルな製品を展開されるのであれば、広い範囲で顧客の知識を持つ必要が出てきます。

この話を踏まえて先ほどの車載向け半導体の話に戻ると、現在、日本の自動車メーカーはグローバルで強さを発揮していますが、そこに部品などを提供するティア1やティア2といったメーカーは、というとグローバルで強さを発揮できているかについて疑問符が付きます。実際に、Xilinxの社内で日本以外の地域における車載ビジネスの状況を聞くと、ContinentalやBoshe、Delphi、Hamman Beckerといったメジャーなティア1に採用されているという話がでている。話はそこで終わりではなく、そうしたティア1に採用された案件の中身を聞くと、例えば"XXX for Toyota"とか"XXX for Nissan"といった話が出てくる。こうした話を聞くたびに、私は悔しくて仕方がないんです。あれは本来、日本のメーカーの仕事だ、と。

--日本市場の取り分を取るな、と(笑)

多分、日本の通信キャリアがメーカーに「こういったものを作れ」と言うのと同じように、日本の自動車メーカーはティア1やティア2に「こういったものを作れ」と言っているのだと思うのです。ただ問題は、そういったティア1やティア2が例えばヨーロッパに製品を持っていって売り込もうとした時に、「ADASはどうなってるのか」とか聞かれ、そこで慌てて焦って「どうすればいいのか?」といった事態に陥ることになるということです。

--すでに日本のティア1もそういった動きは進めていると思いますが?

問題はボリュームです。件数という意味でのボリュームが海外メーカーは本当に多い。共通している点はみんな我々のFPGAを使ってくれているというところです。もちろん日本の場合も、先ほど申し上げたように伸びている訳ですが、日本のお陰で別の地域の売り上げも伸びてることを考えると、これはちょっと日本の担当者としては何とかしたいな、という気持ちになりますね。ADAS系を手がけておられるメーカーのみなさんが頑張っているのはよく知っていますが、正直に申し上げると動きが遅い。やはり「ASICでやる方法はないのか」といったことを未だに検討してるのではないかなと思うのです。

Bocheが一番良い例だと思うのですが、彼らはマーケットシェアを早く取りたいというところから始まって、早い段階で彼らの基準に業界そのものが合致するように仕向けて、標準を取りにいく。その動きそのものも相当早い。

--そうした部分はあるでしょうね

ですので、そこでTime to Marketが非常に重要になってくるわけです。

--では、それにどう対応策をとっていくのでしょう?

皆、自分が正しいと思っている方向に向かってビジネスを進めている訳ですが、それで手一杯になっている。そのため、ほかを見渡すゆとりがない状況です。実際「正しいと思った方向は、実は違っていた」という事実が判るまでは気が付かない。そのため、「一見正しい方向に向いてるように見えますが、ほかの人たちはあっちに向かってますよ」という話をするようにしています。つまりそういったコミュニケーションが大切になっている。そしてその際には、細かく仕様の提案とかも持っていくことで、より現実的になっていくのかなと思っています。

そうしたことから提案販売が一番(効果が)大きいのかな、と思うようになっています。以前のXilinxは、本当はやるべきではなかったのでしょうが、ご存知の通りファブリックの容量や動作周波数などをうたってビジネスをしていた。本来は、顧客が実現したい製品を構成するうえでASICやASSP、プロセッサ、あるいは他社のFPGAなど色々な選択肢がある中で我々のFPGAの方が良い。何故かと言うと…という提案を行えることです。今はすべてのセグメントとまでは言い切れませんが、そうした提案がしっかりとできる様になりました。現在はそれを拡大している最中です。

--その話は2008年のインタビューの際にもお聞きしました。FAEをチーム分けして提案しに行くということを話されておられた。それがちゃんとできる様になった、ということですか?

波があるんです。図1の様な感じではなく、上がっていく途中で踊り場がある様な(図2)。何故かというと、最初はそういう提案を作って持って行きます。それで実際に業績は伸びたのですが、その当時の我々のFAEはどちらかというとプリセールス、つまり案件を探すような体制になっていました。ところがデザインウィンを実現した事で、今度はそれが忙しくなってしまったんです。いわゆるポストセールスに関わる必要があった訳です。そのため、その間は提案が少なくなってしまったのです。その後、我々も人員を拡充し、効率も高め、ビジネスモデルとしての慣れも出てきましたので、もう一段階上がることが可能になった。

図1 上がっては下がるという、いわゆる○○サイクルなどとして用いられる際などでイメージされる波の動き

図2 上がっては踊り場となり、その後、再び成長へと向かう波の動き

話を市場の動きに戻すと、車載向けは好調、産業機器向けも好調です。産業分野が好調な理由の1つは、車載が好調だからです。面白いのは、車載市場が好調になると、2つの業界が連動して伸びるんです。1つは産業機器で、これは自動車製造に用いるロボットなどを作る必要があるからです。もう1つが放送関係です。これは場所や時期にも寄りますが、ある時期・あるタイミングにおいて自動車業界が一番の広告主になる訳です。自動車業界が好調になると、それを持続するために広告を大きく展開したい。そうした広告を展開していくには新しい装置が必要になる、という流れです。そのため放送業界でも、スタジオ系のカメラやセミプロフェッショナル向けカメラなどの売り上げが伸びることになるのです。