--通信、車載、産業機器と市場の話題がでましたが、ほかの市場はどうでしょう? 例えば医療分野などは期待されている市場に思えますが

医療関係で言うと、内視鏡は好調です。ところがCTやMRIなどは、コスト低下の圧力が激しくなっているのが現状です。一時期はCTで撮影するスライスの枚数が16→48→64→256といったように増加の一途をたどっていて、それそのものが1つの話題になっていました。ところが実際には64スライス程度で十分だ、という話に落ち着いた。もちろんスライス数が多くなるほど綺麗な出力が得られるわけですが、コストとの兼ね合いになるわけです。そういう意味でよい塩梅のポイントが定まると、そこから値段が下がっていくことになる。今ですと中国やインド、南米などでは病院が増える度にそういった装置が望まれることになりますが、そこで導入されるのは彼らの手に入るような価格帯のものになる。新しいテクノロジーを搭載したとか、高性能なハイエンド機種は、研究所とかにしか入らないわけです。もちろん最初はみな、今でいう普及価格帯の機種がハイエンドだったころに、結構な金額を払っていたわけですが、現状のハイエンド機種は特殊な理由がない限り必要が無い、というところまで技術が進歩してしまいましたね。

--最近はIoTとか言いながらさまざまな医療機器同士をつなげていこうという動きもありますが、そうした部分でのXilinxのシェアはいかがでしょう?

シェアは高いですよ。我々の製品はIoTだけでなくIIoT(Industrial IoT)にも入っています。ただ、今は有線だと100Gbpsのネットワークがあり、400Gbpsも手がけている。一方、無線通信では4Gに加えて4.5Gや5Gが出てこようとしている。こういった中で、キャリアやシステムメーカーなどと話をするした際に、「ではどういったサービスを提供すると、そうした帯域が必要になるのか」といった部分が見えてこない。帯域幅そのものは現在でも結構ある訳です。そこでIoTやIIoTを考えると、少なくとも現時点では、それほど大きな帯域は必要が無いと思えるのです。IoTやIIoTはこれからの産業として重要で、我々もそこに向けて沢山の製品を出荷していて、そして日本でもかなり活用されている。ただ、どこまで爆発的に増えるのか、が見えていません。無線通信で言えば、3Gと4Gがすでに提供されており、これで十分なのではないか、という気もしないではないのです。

--ではIoTにもつながりますが、コンシューマ分野はどうでしょう?

コンシューマについては、我々は放送関係として含めていますが、監視カメラ(Surveillance)が動いていますね。もっともSurveillanceといっても、今までは西欧と日本ではその定義がかなり違っていたのですが、現在、収束しようとしているんです。

これまでは、海外の製品は、カメラやレンズの性能はそこそこながら、顔認識とかに強い。一方で日本の製品はカメラやレンズは素晴らしいが、人物などの認識といった面ではあまりという感じでした。ところが最近は、カメラの方にインテリジェンス性が入ってくるようになってきました。なぜかといえば、生データを全部転送しようとすると、かなりの転送レートを実現する必要があるからなんですね。ところがインテリジェンスなカメラであれば、「ここに○○がいるよ」と判断して、そこだけデータを送ることができる。こうした動きが最近の話題になっています。

もう1つの話題は、正面以外からの撮影でもきちんと認識できる仕組みがでてきたことですね。例えば空港のカメラで、正面から撮影すれば「Sam Roganが居る」といったことができるのは判るのですが、斜めなどの角度があって、しかも距離が100m位離れているもので、そうしたことを実現したいというニーズがある。あるいはマシンビジョンなどの分野に入るようになっています。

--そうした動きは日本でも同じですか?

世界的に伸びていますが、日本では伸びかけですね。そのため製品もそれほど出ていないのですが、このマーケットはコンシューマ並みに製品サイクルが早く、新たな機能が次から次へと追加されるので、ASICで作ろうとするとTATが間に合わないという課題がある。昔は日本のメーカーしかなかったので、多少更新サイクルが遅くても許されたのですが、今は中国やオーストラリア、韓国などのメーカーが随時製品を出してくるので、そうも言っていられないのが実情ですね。

--つまり製品の更新サイクルが早く、かつ本当のコンシューマでないところは割と良い、と

そうですね。ただ本当のコンシューマ、例えばテレビなどを考えると、日本のメーカーの現状は厳しいところはありますね。

--では洗濯機でも炊飯器でもいいのですが…炊飯器にFPGAは載らないですね

どうやって10万円のFPGAを2万円の洗濯機に押し込むのか。それは大きな課題ですね(笑)

まあコンシューマ以外にも、日本はそうでもないので話しませんでしたが、データセンター向けも好調ですね。データセンターの場合はネットワークとコンピュテーション、ストレージの3つの要素がありますが、そのうち少なくともネットワークとストレージに関しては好調です。

--世界的にはそこは間違いなく伸びていますが、日本に限れば、それほどクラウド基盤の事業者が居るか、という話になりますね。むしろ減ってきていると言えるかもしれない。例えばGoogleやAmazonのサービスを使っても、それが日本地域の売り上げになるのか? という部分がありますよね?

アメリカの場合は、Google、Facebook、Amazonなどさまざまなサービスベンダがありますし、こうした事業者は自社専用のストレージなどを求めるわけです。日本の多くは、そうして自分で作っているような感じはないですね。

--確かに日本で自前でプラットフォームというかインフラを作っているところはほとんどないですね

あともう1つの動向は、以前もお話したかもしれませんが、アメリカではNetflixが急激に伸びていて、ネットワークの帯域の6~7割を占めるようになってきている。これが2015年に日本にも上陸しました。こうしたサービスがどこまで日本の帯域を専有するのか? この比率が高まれば、追加投資も増えるのではないか、という気もしています。ただしNetflixはある意味無料という点も売りですので、実際のところは正直判らないです。判らないですが、そういうアプリケーションの登場で、何かが起きるのではないかな、といった感じを持っています。