第3章 Windows 8.1の改良点/インタフェース - 範囲を広げたスマート検索とヒーローアンサー
Windows 8に引き続き、Windows 8.1もモダンUIをベースにしたUIデザインを採用している。チャームバーやアプリスイッチャーなど基本的な面は引き継いでいるものの、大きく変更されたのが検索チャームである。Windows 8では、「アプリ」「設定」「ファイル」と3つの項目に対して検索を実行する手法が用いられていた。
これは検索スピードを向上させるためにインデックスを作成し、同情報を元に検索を実行する"クイック検索"から発展したものだ。Windows Vistaから導入されたクイック検索は、事前にインデックス情報を元にローカルストレージを検索し、その後はWebブラウザー経由で引き続いて検索するリンクを用意していた。また、Windows 7では、OpenSearch規格に即した検索範囲の拡大も実現したが、エンドユーザーレベルではあまり使われていない。
当初Microsoftは、ファイルや設定、Windowsストアアプリの内容など各所に散らばる情報を一元的に検索可能にするため検索チャームを導入した。しかし、Windows 8.1では、検索対象を「すべて」「設定」「ファイル」「Web画像」「Web動画」とインターネットにまで検索枠を広げることで、ローカルとインターネットと言う垣根を取り払うことに成功している。これらの検索結果はMicrosoftが運営するWeb検索サイト「Bing(ビング)」の検索結果を用いた「スマート検索」と呼ばれる(図081~083)。
図081: 画面右端からスワイプするか、[Win]+[C]キーを押すと現れるチャームバーの「検索」ボタンをクリック/タップする |
図082: これで検索チャームが現れる。リストからは「アプリ」を廃止し、「設定」「ファイル」はそのまま。新たに「Web画像」「Web動画」が加わる |
もっともこれらの取り組みは目新しいものではなく、Internet Explorer 4.0のオプションとして用意されたActive Desktop(アクティブデスクトップ)のように、既存環境とインターネット融合は以前から試されてきた。Active DesktopはデスクトップにHTMLコンテンツを追加する機能である。しかし、当時はインターネット常時接続環境が現在ほど普及しておらず、デスクトップのパフォーマンスダウンも発生するため、利用するユーザーも少ないため、そのまま廃れてしまった。デスクトップにコンテンツを追加すると言うコンセプトで言えば、後のデスクトップガジェットにつながったと述べても過言ではないだろう。
実際に使ってみるとタブレット環境において、キーワード検索や画像検索、動画検索を行うのは直感的で便利だが、デスクトップ環境で利用する場面は決して多くない。あくまでもこれらの検索機能はモダンUIを前提した拡張であり、デスクトップ環境でWindows 8.1を利用するユーザーには、さほど意味を持たないだろう。もっともエクスプローラーの検索ボックスは、検索フィルター機能が廃止されたものの、and/or検索などはそのまま残されているので、基本的な検索は可能だ(図084~086)。
その一方で気になるのが、Windowsストアアプリ各所に用意された検索ボックスの存在である。例えば「アプリ」や「ニュース」の右上に用意したテキストボックスは、そのアプリを対象にした検索を実行するためのもので、前者ならWindowsストアアプリを、後者はニュース記事を検索するための検索ボックスだ。もちろん使い勝手は悪くない。検索チャームを開く手間が省けるため、処理がワンステップ短くなるからだ。
しかし、本節の冒頭で述べたように、検索チャームは"一元的に検索を実行する"ための存在であり、Windowsストアアプリが検索ボックスを独自に設けるのは一貫性に疑問が残るのである。もちろん検索チャームがファイルやアプリケーション、インターネットコンテンツなどを対象に検索できるのは便利だが、Windowsストアアプリのみ独立した状態はいかがなものだろうか(図087~088)。
この方針転換は開発者向けカンファレンスBuild 2013で提唱された「Bing Platform」の存在が大きい。Bingを単なるWeb検索サイトから、プラットフォーム化することで、一貫した検索経験を提供するためにチャームというスタイルへの依存を軽減させたのだろう。なお、Bing PlatformではSkyDriveにアップロードした画像ファイルのOCR(文字認識)やTranslator(翻訳)など、各種機能を実現可能にし、Windows 8.1リリースと同じタイミングで利用可能になる予定だが、日本語対応や日本国内への提供は現時点で未定である。
なお、開発者向け資料であるWindows 8.1 UX/UIによれば、新たな検索はXAMLベース用とJavaScript用と2種類のAPI(Application Programming Interface:簡潔にプログラムを記述するためのインタフェース)を用意していると言う。また、Windowsストアアプリ開発用ガイドラインであるGuidelines and checklist for searchによれば、Windows 8.1用Windowsストアアプリは、検索チャームを利用せずに検索ボックスをアプリ内に設置することが推奨されている。
思い返してみれば、Windows 8リリース以降、チャームバーを有効活用するような場面はほとんどなかった。共有チャームではコンテンツの共有、デバイスチャームならば異なるデバイスでの再生や内容を印刷することができるものの、少なくとも筆者はほとんど活用していない。強いて言えば設定チャームぐらいだろうか。このような本来はUXの主軸となるチャームバーへの依存度を下げることが、MicrosoftがWindows 8リリースで得た答えなのだろう。
また、新たな検索には「ヒーローアンサー」と呼ばれる機能が組み込まれている。人物や都市などエンティティ(実体を指す概念やデータの集合体)と判断されるキーワード検索時に稼働し、特別なUI(ユーザーインタフェース)で検索結果を提供する。もちろんローカルファイルに対しても同時に検索が実行されるが、スクロールした先には、コンテンツに応じてWindowsストアアプリを呼び出す機能を搭載。例えばWikipediaの検索結果がある場合は、同Windowsストアアプリが起動可能になる(図089~090)。
このヒーローアンサーが稼働するタイミングは不明だったが、日本マイクロソフトの説明によると俳優や映画、著名人、都市が対象になるという。執筆時点では確認できないが、GA(General Availability version:一般提供版)版ではレストランやホテルも対象に加わる予定だ。なお、ヒーローアンサーの配色は用いる画像(写真やポスターなど)から自動的に判断に決定するという。図091はポスターの色味が赤や黒が用いられているため、同色が強く使われている。図089と比較するとわかりやすいだろう(図091)。