第1章 Windows 8.1登場/なぜService Packではないのか - Windows 8.1登場。その存在意義とは

2013年10月17日20時、世界各国でWindows 8.1の一般公開が始まった。Windows 8.1は既存OS(オペレーティングシステム)であるWindows 8の後継版にあたり、カーネルバージョンを6.3へ更新するなど、各所の機能改善が施されている。詳しくは後章で述べるが、あくまでも小数点第1位を繰り上げる程度の変更にとどまり、Windows VistaやWindows 7といった過去のOSと比べると、ドラスティックに変更されと言う印象を持つことは難しいだろう(図001~002)。

図001: Windows 8.1のバージョン情報。Windows 8はバージョン6.2だったが、バージョン6.3に繰り上げされている

図002: HKEY_LOCAL_MACHINE \ SOFTWARE \ Microsoft \ Windows NT \ CurrentVersionキーの文字列値「BuildLabEx」を確認するとビルド番号は「9600.16384.130821-1623」だった

加えてWindows 8には、Service Pack(サービスパック)が提供されていない。過去のWindows OSでは、バグやセキュリティホールを修正する更新プログラムを単一のパッケージとして提供するService Packを、必ずと言ってよいほど提供してきた。だが、Windows 8の一般リリースは2012年10月26日と、Windows 8.1のリリースまで約1年しか期間が空いていない。そのため、Windows 8.1は事実上のWindows 8 Service Pack 1に位置するのである。

もちろんService Packは更新プログラムを一括適用するのが主目的であり、新機能を加えるのはシステム管理面で混乱を招く恐れがあるのも事実だ。しかし過去の例をひもとけば、そうとも言い切れない。例えばWindows NT 4.0におけるService Packは数多くの新機能を追加し、Windows XP Service Pack 2に至っては「Service Pack 2セキュリティ強化機能搭載」とサブタイトルを付けてリリースしている。もっとも当時はセキュリティホールを狙った不正アクセス事件が多発し、Microsoftもセキュリティの強化を求められたと言う背景があるものの、"Service Pack=新機能を追加しない"と言うルールが存在しないことをご理解頂けるはずだ(図003)。

図003: Windows NT 4.0。最終的にはService Pack 6aまでリリースされ、Windows XPのリリースを踏まえ、Service Pack 7はキャンセルされた

あくまでも筆者の愚見だが、Windows 8.1と言う新たなナンバーを付けたのはマーケティング的意味合いが強いと思われる。改めて述べるまでもなく世界のITトレンドはスマートフォン/タブレットであり、その一方でPC(パーソナルコンピューター)市場が縮小しているのは事実だ。タブレット市場は右肩上がりで成長しているのに対してPC市場は横ばい、もしくは数パーセント減となっている現状だ。

そのため既存のPCベンダーも2-in-1デバイス(スライドや脱着などの変形動作によって、ノートPCスタイルとタブレットスタイルのどちらでも使えるハイブリッドスタイルのコンピューター)に舵を切り出し始めた。OSをリリースするMicrosoftとしても、この流れに追従しなければならなかったが、問題となるのが長年ユーザーに親しまれてきたデスクトップ環境だ。タッチ操作を前提としたタブレットにおいて、デスクトップは決して操作しやすいものではない。そのため、Microsoftは新たなUI(ユーザーインターフェース)を用意しなければならなかった。

その1つの答えが「Modern(モダン)UI」だ。モダンUIは目新しいものではなく、MicrosoftはWindows Phoneなど各種自社製品にモダンUIの原型となるものを導入している。当初は「Metro UI」と言う名称でアピールされたが、パートナー企業からのクレームにより現在のものに改称。余談だがMicrosoftのオンラインストレージである「SkyDrive」も英Skyから商標権で訴えられたが、近年中にワールドワイドレベルの改称を行うことで和解が成立している。どうも近年のMicrosoftは単語に対する扱いが曖昧で、いまだに機能の呼称が定めていないところに危うさを感じるのは筆者だけではないだろう(図004)。

図004: モダンUIを採用したWindows Phone 7。同OSは2010年2月リリースのため、Windows 8よりも早く世に登場している

話を本題に戻そう。モダンUIを採用したWindows 8は2-in-1デバイスのように、従来のデスクトップ環境とモダンUIデザインを切り替えて利用するスタイルを提供した。しかし、Windows 95時代から続くアプリケーションランチャーとして稼働してきたスタートメニューを廃したことに、多くのユーザーは戸惑いを覚えてしまった。「Classic Shell」などのオンラインソフトを追加しスタートメニュー機能を持たせる回避策も存在したが、このことでユーザーがWindows 8を敬遠する結果も見られた。

確かにスタートメニューからWindowsストアアプリを起動するのは、タッチ操作を前提としたモダンUIとしては少々おかしい。だからと言ってデスクトップアプリをスタート画面から起動するのも煩雑な印象を受けるだろう。この点に関しては、元Windows&Windows Liveエンジニアリンググループ担当シニアバイスプレジデントであるSteven Sinofsky(スティーブン・シノフスキー)氏が回顧録でも執筆しない限り、同社がモダンUIをどこに位置付け、どのようなユーザー層を想定していたのか知り得る方法はない。ただし同氏は、Windows 8リリース後にMicrosoftを退社し、2013年8月に、オンラインストレージ企業「Box」のアドバイザーに就任したばかりだ。同書を読める可能性は、しばらく先の話となるだろう(図005)。

図005: Windows OSの開発責任者を務めてきたSteven Sinofsky氏。現在はMicrosoftを離れている