刊行後、数年経過してからミステリー愛好家の口コミでベストセラーとなった志水辰夫の同名小説を映画化した『行きずりの街』のDVDが2011年5月21日にリリースされる。この作品を監督した阪本順治に話を訊いた。

阪本順治

1958年、大阪府出身。1989年、『どついたるねん』で映画監督デビュー。『顔』(2000年)では、日本アカデミー賞最優秀監督賞受賞。他の監督作品に『新・仁義なき闘い』(2000年)、『KT』(2002年)、『ぼくんち』(2003年)、『亡国のイージス』(2005年)、『闇の子供たち』(2008年)など多数

「物語のために人を動かすのは、好きではない」

――阪本監督は、これまでも多くの原作モノを手掛けています。今回はどのような経緯で監督されることになったのでしょうか。

阪本順治(以下、阪本)「志水辰夫さんの小説は大好きでデビュー作から読んでいて、『志水さんの原作って、なかなか映画化されないですよね』という話をプロデューサーとしていたんです。志水さんの小説はスケールが大き過ぎて、映画化不可能というのもあったと思うのですが、『行きずりの街』は東京の都会のある部分に特化した話なので、映画化できると思ったんです」

――志水辰夫さんの原作は、ミステリーではあるのですが、ハードボイルドまでは振り切っていないソフトボイルドという印象があるのですが、そのあたりの部分は意識されたのでしょうか。

阪本「志水辰夫さんの原作を好きな理由はそこですね。登場人物たちの心情、あるいは行動原理みたいなものがしっかりと書き込まれていて、人間を描いているという印象があります。物語のために人間を配置しているというより、登場人物のモチベーションであったり、何か人と対したときに生まれた感情であったりとか、そういうものがソフトボイルドとして描かれている。そこが好きなんですね」

『行きずりの街』

塾講師 波多野(仲村トオル)は、音信不通となっている教え子 ゆかり(南沢奈央)の行方を追い、12年ぶりに東京にやって来た。東京の名門校 敬愛女学園の教師だった波多野には、教え子 雅子(小西真奈美)と恋愛結婚し教職を追われ、その後離婚したという苦い過去があった。ゆかりが東京で事件に巻き込まれて失踪したと知った波多野は、その行方を追う過程で雅子に再会するのだが……

――阪本監督の『KT』や『亡国のイージス』では、今のお話と逆に、人物よりも物語ありきという部分があります。監督ご自身の嗜好としては、今回の作品のような人物主体の作品と、どちらが好みなのでしょうか。

阪本「個人にまつわる話を小さな生活圏の中で深く描くということも好きですし、一方で、人の背後にあるものとか、人を取り巻く環境まで視野を広げて撮るというのも好きです。どちらにしろ、物語のために人を動かすというようなことは、あまり好きではないですね」

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