日本を世界最高水準のIT国家にするための取り組みが政府によって推し進められています。その1つが、2013年6月に策定された IT戦略「世界最先端IT国家創造宣言」です。このITへの取り組みは次世代の人材輩出を担う教育現場にも向けられています。文部科学省は「2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会」を定期的に開催、各自治体は、教育の情報化に向けた施策がこれまで以上に求められているのです。こうした中、教育現場のICT化をいち早く進め、5年先の変化を見据えた教育を提供する自治体が、岐阜県岐阜市です。

同市の掲げる教育方針は市内外でも高い評価を受けています。2017年には「全国ICT教育首長サミット」において「ICT教育を実施する自治体」のモデルケースにも選出されました。先進的な教育が行われる背景には、市長による強力なコミットメントや、教員や市民の高い意識が存在しているといえるでしょう。そんな同市が教育現場のICTをより充実させるために検討を行い、市内の全学校に配備したのが、Windows10タブレットPCです。

岐阜市もノミネートされた全国ICT教育首長サミットのようす

プロファイル

岐阜県の中南部に位置し、県庁所在地でもある中部圏有数の中核都市、岐阜市 。織田信長公ゆかりの岐阜城をはじめとした長い歴史と文化をもつ同市は、子供たちの未来を確かなものとし、市民の皆様が安心して暮らせるまちづくりを目指し、「人」への投資を積極的に行っています。2017年には、「全国ICT教育首長サミット」におけるICT教育を推進する自治体のモデル ケースとしてノミネートされるなど、その取り組みは市内外からも高い評価を受けました。

導入の背景とねらい
「知識の定着」と「主体的な学び」の双方を実現すべく、タブレットPCの導入を検討

岐阜市 市長 細江 茂光氏

岐阜県岐阜市は、413,111人(2017年1月1日現在)の人口を抱える中部圏有数の中核都市です。「人」への投資を積極的に行う同市は、2006年から「教育立市」を標榜し、ICT教育にも注力。 2009年に50型デジタル テレビやノートPCを導入したことを皮切りに、デジタル テレビの電子黒板化、デジタル教科書の導入、タブレットPCの導入などにいち早く取り組んできました。

2016年には、文部科学省が定める教育用コンピューター整備の目標水準を、中核都市として初めて達成。この取り組みは、2017年に開催された「全国ICT教育首長サミット」において、「ICT教育を推進する自治体のモデルケース」としてノミネートされるなど、大きな注目を集めています。岐阜市 市長 細江 茂光氏は、首長がリーダーシップを取って教育現場のICT化を推し進めることで、高いスピード感をもった環境整備に取り組んできたと語ります。

「2002年に市長に就任してから15年の間、私は "『人』が最大の資源である" という考えのもと、人への投資を積極的に行ってきました。中でも『教育への投資』は、『未来への投資』と言い換えることができ、自治体としてたいへん重視すべき事項です。岐阜市では教育立市を旗印とし、2004年に小学校での英語教育を開始、2009年からはICT環境の整備をスタートするなど、他市に先駆けて教育施策を進めてきました。2016年には、文部科学省が定める『3.6人に1台』の教育用コンピューターの整備目標も達成しています。ICT環境の整備には、当然ながら多くのコストが発生します。岐阜市では、これを『必要な投資』とし、首長である私自らが決断することで、いち早く整備を進めてきたのです」(細江氏)。

2009年、岐阜市ではまずデジタルテレビとノートPCを導入。前述のとおりその後も、デジタルテレビの電子黒板化やデジタル教科書の導入、無線LAN環境の整備など、さまざまな施策に取り組んできました。 さらに2014年からは「タブレットPCの導入」を検討し、実証校に指定した小学校と中学校各1校のもとで、タブレットPCの有効性に関する実証研究を開始します。

岐阜市教育委員会 学習指導課 (教育研究所)所長 加藤 雅文氏

実証研究の前年、岐阜市では市内にある小学校47校、中学校22校、高校1校、特別支援学校1校、以上すべての学校に、2,012台の電子黒板を整備しています。それ以後、授業におけるデジタル教科書と電子教材の活用が一般化。 これは児童生徒の「知識の定着」に大きな効果をもたらしました。

一方で、近年ではアクティブラーニングという名称で、「主体的な学び」を育むことも教育機関における重大な使命となっています。岐阜市教育委員会 学習指導課(教育研究所) 所長 加藤 雅文氏は、この主体的な学びを育むべく、タブレットPC導入に取り組んだと語ります。

「ICT教育の目的は、『知識の定着』と『主体的な学び』の双方を融合した教育の提供にあると考えています。この2つを同時に実現するには、インタラクティブ性をもった授業の提供が不可欠です。そこで、教員だけでなく子供たちの手元にもデバイスを用意し、自らが授業の主体者にもなる環境を構築したいと考え、タブレットPCの導入を検討しました」(加藤氏)。

岐阜市教育委員会 学習指導課(教育研究所)主幹(所長補佐) 松巾 昭氏

さらに、岐阜市教育委員会 学習指導課(教育研究所)主幹(所長補佐)松巾 昭氏は、同市が進める「アゴラ」という取り組みにおいても、タブレットPCの有効性が期待できたと続けます。

「子供たちが主体的な学びを育むスペースとして、岐阜市では『アゴラ』という議論の広場を各中学校に設置しています。アゴラは、可動式の机やいす、ホワイト ボードなどを備えた空間で、子供たちは自由にこれを利用できます。活動に応じて子供たち自身がアゴラを自由にレイアウトすることで、知的創造の能力を醸成するとともに、主体的な学びを育むことが期待できます。アゴラのような『知識の調和』『協働作業』の場においても、子供たちが自らの考えをアウトプットするデバイスは有効に機能すると考え、タブレットPCの実証研究を開始したのです」(松巾氏)。

システム概要と導入の経緯
既存のシステムや電子教材との親和性、OSのもつ連続性を評価し、Windows10を採用

岐阜市教育委員会 学習指導課(教育研究所) 指導主事 土田 牧也氏

タブレットPCには、Windows 10、iOSをはじめとし、複数のOSが市場に存在します。実証研究に利用するデバイスを選定するうえで岐阜市では「既存環境との親和性」と「利便性」の2点を比較項目とし、OSの検討を進めました。 既存環境との親和性を重要視した理由について、岐阜市教育委員会 学習指導課(教育研究所)指導主事 土田 牧也氏は次のように説明します。

「岐阜市の教員はすでにデジタル教科書、電子黒板を用いた授業手法を習熟しており、『知識の定着』という教育効果も生まれていました。既存の電子黒板と容易に連動でき、これまで作成してきた資産であるデジタル教科書を従来と同じ使い勝手で活用できることが、OS選定において留意すべきポイントだと言えます。当市では電子黒板と連携するネットワークも含め、各種システムや電子教材をWindowsに準拠し構築していたため、WindowsタブレットPCはそことの高い親和性が期待できました」(土田氏)。

一方、もう1つの比較項目である利便性については、Windows 10とiOSでは甲乙つけがたい状況にあったと言います。iOSは直感的な操作性に優れています。利用対象が児童生徒であることを考えた場合、iOSも有効に機能することが推測されます。

検討を重ね、岐阜市では、実証校に指定した2つの小中学校にはWindowsタブレットPC を導入。また、特別支援学校においては、直感的な操作性を重視してiOSを選定し、それぞれの環境で実践を重ねました。この結果、Windows、iOSともに、タブレットPCの教育活用が「知識の定着」と「主体的な学び」の双方に効果的であることが分かってきました。

実証研究の結果を受けて岐阜市では、すべての小中学校へタブレットPCを導入することを決定。複数ベンダーのもとで実施した⼊札を経て、全小中学校と院内学級向けにはWindows 10タブレットPCを、特別⽀援学校向けには iPad を調達。児童生徒3.4人に1台の割合となる4,100台を調達の後、2016年9月よりタブレットPCを利用したICT教育を開始しました。

岐阜市教育委員会 学習指導課(教育研究所) 指導主事 赤地 仁志氏

岐阜市教育委員会 学習指導課(教育研究所)指導主事 赤地 仁志氏は、Windows 10タブレットPCを導入したことが、結果としては児童生徒1人ひとりの明るい未来の創造につながるだろうと、期待を寄せます。

「教育においてなぜICTを活用するのかと問われれば、それは『子供たち1人ひとりが未来に幸せに生きていってほしい』からです。ひいてはその幸せが、生まれ育った岐阜市を活性化させることにもつながります。現在、社会で使われているシステムのほとんどはWindowsです。小学校、中学校、高校と利用してきたOSと実際の社会で利用されるOSとの差異は、社会に飛び出した際に子供たちがつまずくボトルネックとなりかねません。このことから小学校から社会に至るまでのOSに連続性をもたせることは重要な意義をもつと考えています」 (赤地氏)。

導入の効果
首長のコミットメントが教員の積極活用を促し、教育効果を生み出す

岐阜市が導入した4,100台という台数は、自治体のデバイス導入としては規模の大きなものです。また、岐阜市では同時期、タブレットPCと電子黒板の連携効果を高めるべく、Office 365と学習支援ソフトの導入も実施しています。そのため、タブレットPCの利用開始までには、システム、ネットワークの設計と構築、デバイスの調達、教員のエデュケーションなど、多くの行程を経る必要がありました。

多大な時間を要することが想定されましたが、同市はこのような規模の大きなプロジェクトを、導入決定からわずか6か月で完了しています。これはきわめて短期間といえるでしょう。

松巾氏は、短期間で利用開始まで到達できた理由として、市長である細江氏の強力なコミットメントと、マイクロソフトを含むベンダーとの密な連携を挙げます。

「Windows 10タブレットPCの導入決定後、まずICT教育を推進する教員を『情報主任者』として選定しました。この情報主任者を主軸として、マイクロソフトを含むベンダーと計画立てを進めたことで、システムの構築、デバイスの調達、活用方法の確立までを迅速に行うことができました。また、細江市長が自ら、実証研究で得られた有効性を交えて『タブレットPCを導入する』ことを強くコミットメントした影響も大きいでしょう」(松巾氏)。

細江氏のコミットメントは、教員の積極性に多大な影響を及ぼしたといいます。2016年の夏季休暇に実施した教員向けの研修会では、休暇中にも関わらず岐阜市内の学校において、延べ2,000人もの教員が参加したのです。ICT環境が有効に機能するには、環境の整備だけでなく、首長によるコミットメントも大きな意味をもつといえるでしょう。事実、「Windows 10タブレットPCを積極的に活用しよう」という教員の意識が、すでに目に見える形で教育効果を生み出しているのです。

この点について土田氏は、次のように説明します。

「2016年9月の運用開始以降、教員は積極的にWindows 10タブレットPCを授業で活用しています。そこで行われるインタラクティブ性をもった授業は、主体的な学びを育むだけでなく、知識の定着レベルも⾼めています。運⽤開始後に岐⾩市が⼦供たちに対して実施したアンケートでは、『タブレット PC を使⽤して、より理解できるように感じたか』という問いに対して85%以上の児童⽣徒が『はい』と回答しているのです」(土田氏)

Windows 10タブレットPCを利用した小中学校の普通授業のようす。授業内容をグループごとで議論しそこでの成果をデバイスへ入力、各グループの議論内容を電子黒板へ表示するといった形で、児童生徒の手元にあるデバイスが利用されている。そこでは、学級の仲間とともに知識や考えを深めていくという形で教育を提供することができる

運用開始から間もなく教育効果が生まれた理由には、既存環境をそのまま利用できるというWindows OSのメリットがまず存在します。さらに、加藤氏はWindows 10が備える標準機能の数々も大いに貢献していると続けます。

「『最新の環境を提供したい』という考えから、最新バージョンであるWindows 10を今回採用しましたが、手書きの情報を即座にデータ化できるWindows Inkは、普通授業やアゴラで有効に機能しています。また、子供たちへ自由に環境を提供するというアゴラの特性から、Windows 10がセキュリティ機能を豊富に備えることもたいへん助かっています」(加藤氏)。

グループでの共同作業で生まれたドキュメントをWindows Inkでデータ化し、それをOffice 365のOneNoteで共有する。こういった新たな活用方法が普通授業やアゴラでは日々生まれており、児童生徒の主体性が育まれていることがうかがえる

今後の展望
教育施策の効果を他の自治体へも伝播させ、日本全国の教育水準を高めていく

文部科学省では毎年、全国を対象に「全国学力調査」を実施しています。岐阜市は2016年度の結果において、小学校では過半数の科目で、中学校では全科目で、全国の平均水準よりも高い知的理解をもつことが示されています。前述した「知識の定着」という効果は、こうした学力調査の結果と関係しているとも考えられます。

岐阜市が実践するICT教育は、効果検証を密に実施している点が特徴と言えます。赤地 氏は、教育施策のいっそうの発展に向けて、現在、タブレットPCの最適な活用方法に関して研究を進めていると語ります。

「いまのところタブレットPCは学校へ『配備』する形で活用しています。これを子供たちへの『配付』という形式に変更すれば、また違った効果が生まれるでしょう。それを検証すべく、現在ベネッセとの共同研究として、中学2年生を対象にタブレットPCを配付しています。反転授業での活用によって『自宅学習と学校学習の連続性』に期待しましたが、この研究では、児童生徒の自主性に任せるだけではなかなかタブレットPCが自宅利用されないことが示されています。これはつまり、教員による働きかけが自宅でのタブレットPCの活用に大きく影響することを表します。このようにICT教育は、単に環境を整備するだけでは意味を成しません。自治体だけでなくベンダーとも密に連携し、効果検証を実施していくことで、最適な活用に向けた歩みを進めていきたいと考えています」(赤地氏)。

岐阜市は2017年、「5年先をいく教育の提供」というテーマを新たに掲げました。赤地氏が語るとおり、同市は現在、このテーマの実践に向けてさまざまな活動に取り組んでいます。

細江氏は、こうしたチャレンジから得られた教育効果を他の自治体へも伝播していくことで、岐阜市だけでなく日本全国の教育水準を高めていきたいと熱く語ります。

「ノミネートいただいた『全国ICT教育首長サミット』の趣旨は、ICT教育の進んでいない他の地域にも展開できるモデル ケースを示すことにありました。当市の教育水準は非常に高いと自負していますが、一方でこれは、岐阜県内にある市町村間に『教育水準のギャップ』を生み出しているとも言えます。今後は、当市で実践した教育施策を、そこでの教育効果も含めて他の自治体へと伝えていくことで、格差の解消にも取り組んでいきたいと考えています」(細江氏)。

市長自らがリーダーシップを取り、教育のICT化を推し進めている岐阜市。首長や教育委員会の熱い志が瞬く間に教員へと浸透したことで、ICT教育の効果が目に見える形で表れています。Windows 10タブレットPCを導入し、教育水準の引き上げに成功した岐阜市の事例は、他の自治体にとっても有用なモデル ケースとなることでしょう。

「『最新の環境を提供したい』という考えから、最新バージョンであるWindows 10を今回採用しましたが、手書きの情報を即座にデータ化できるWindows Inkは、普通授業やアゴラで有効に機能しています。また、子供たちへ自由に環境を提供するというアゴラの特性から、Windows 10がセキュリティ機能を豊富に備えることもたいへん助かっています」

岐阜市教育委員会
学習指導課(教育研究所)
所長
加藤 雅文氏

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