イオングループはグループ全体で利用する大規模な共通 API ・データベース基盤を構築し、全社 DX (デジタル トランスフォーメーション)を加速させています。従来はグループ各社でシステム機能を開発していましたが、共通プラット フォームを利用することで、開発効率を高め、顧客のニーズの変化に柔軟かつスピーディーに対応できるようになりました。この共通プラット フォーム「 Aeon Smart Platform for Business (以下、ASP/B )」のシステム基盤に採用されたのが、Azure Kubernetes Service (以下、AKS )と Microsoft Azure Database for MySQL です。

イオングループの DX を支える大規模共通 API ・データベース基盤を Azure で構築

「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」を基本理念に掲げ、総合スーパー、スーパー マーケット、ディスカウント ストア、ヘルス&ウエルネス、総合金融、ディベロッパーなどの事業を展開するイオングループ。グループ会社数 300 社超、連結売上高 9 兆円以上、店舗数 2 万店舗以上、年間来店客数 14 億人という同グループは、2021 年〜 2025 年度中期経営計画のなかで成長戦略の 1 つとして「デジタル シフトの加速と進化」を掲げ、さまざまな DX 施策を実施してきました。

イオン株式会社 CTO でイオンスマートテクノロジー株式会社 取締役 CTO の山﨑賢氏は、イオングループにおける DX 戦略と DX 推進体制について、こう話します。 「直近 3 年間で 3,000 億円以上のデジタル投資を実行してきました。たとえば、店舗とデジタルをシームレス化するスーパー アプリの開発や、9 兆円の取引によって発生する大規模データ基盤の構築、AI/Robot を活用したオンライン マーケット事業、店舗の購買体験を変える次世代レジ開発などの取り組みを進めてきました。イオンには、グループを構成する各社が独自に事業を展開し、グループ全体で『緩やかに連帯する』という企業風土があります。イオンスマートテクノロジー(以下、 AST )は 2020 年に設立されましたが、2024 年にイオンの IT 機能子会社だったイオンアイビス( AIBS )の一部機能を統合したことで、IT のフロントエンドからバックエンドまでを一貫して担っており、全社 DX を推進する立場にあります」(山﨑氏)。

AST がリードする全社 DX のなかでも特に重要な取り組みとなるのが、全社で利用する共通 API ・データベース基盤の構築です。この基盤は ASP/B と呼ばれ、スマホ アプリでのクーポン発行処理から、POS レジでの決済処理まで、グループ各社で発生するさまざまな業務処理を一手に担っています。

ASP/B は、2021 年に稼働を開始してから対象サービスを段階的に広げ、現在ではイオングループの DX 推進に欠かせない最重要プラット フォームに位置づけられています。この ASP/B で採用されているのが Microsoft Azure (以下、Azure )が提供するマネージドなコンテナ サービスやデータベース サービスです。

  • 山﨑氏と齋藤氏の写真

イオンの「緩やかに連帯する」風土が「車輪の再発明」につながっていた

ASP/B が現在どのように利用されているのかについて、山﨑氏はこう話します。 「 ASP/B は、イオンのグループ各社が行っている業務のうち、共通する部分を機能として切り出して、それをプラット フォーム上にまとめて API で利用できるようにした仕組みです。巨大なデータ ベースとそれを提供するための API のかたまりと言えます。たとえば、決済という業務は、どのグループ会社のサービスでも共通で発生するものです。POS レジやスマホアプリなどさまざまなシステムから決済業務が行われるときに、ASP/B の決済機能を API で利用することで、効率良く開発を進めることができます。また、スマホ アプリのなかに新たにプッシュ通知を組み込みたいという場合も、共通機能として提供しているプッシュ通知を利用すれば素早くアプリの改善を施すことができます」(山﨑氏)。

このように、サービス開発の効率を高め、顧客ニーズに応じてスピーディーにアプリを改善できることが、ASP/B の大きなメリットです。ASP/B を開発した背景にも、イオングループの「緩やかに連帯する」風土によってデジタルの取り組みを進めにくいといった危機感があったといいます。ASP/B 開発をリードした 1 人である DevSecOps ディビジョン ディレクター 齋藤光氏はこう話します。 「グループ各社の取り組みを重視する風土もあり、従来はシステムをグループ各社で開発していました。たとえば、イオンリテールで展開していたクーポンの仕組みは、ほかのグループにはなく、必要になった場合はそれぞれ作る必要がありました。ASP/B により、そうした『車輪の再発明』をなくそうとしたのです」(齋藤氏)。

加えて、小売業として新しいリテールの取り組みを進めるために、デジタルを使って顧客へのアプローチ方法を標準的なものに変える狙いもあったといいます。 「お客様への接し方やそのノウハウもグループ各社で異なります。そのため、デジタル化への発想も各社で異なっていました。一方、米国や中国のリテール企業で活発化しているデジタル データを活用したリテールの新しい取り組みを進めるには、店舗とデジタルで同じユーザー体験を提供することが必要でした。そこで、ASP/B のようなグループビジネスの土台となる共通プラット フォームを作ることが重要だったのです」(齋藤氏)。

マイクロソフトのエンタープライズ向けサービスとしての信頼性を高く評価

ASP/B の開発は、イオンのさまざまなサービスを統合したスマホ アプリ「 iAEON 」の開発と並行して進められました。iAEON アプリは、スマホ決済の AEON Pay やクーポン、キャンペーン情報、イオンラウンジ予約、WAON POINT などの機能を備えたトータル アプリです。

イオンの会員サービスも、各社のシステムと同様に、グループ各社で分かれていました。具体的には、イオンモール会員、イオンカード会員、イオン九州会員、WAON 会員、イオンウォレット会員、イオン銀行会員、ミニストップアプリ会員、ウエルシアグループ会員などがありました。それらを、iAEON アプリを利用するための共通会員 ID である「 iAEON ID 」と連携させ、さらに iAEON ID が利用する API とデータ ベースを ASP/B として共通プラット フォーム化することで、会員 ID とサービスの共通化を図っていったのです。

「 iAEON アプリは 2021 年 9 月にリリースされ、2024 年 6 月までに 1,000 万ダウンロードを突破しました。今後、イオンカードや WAON 会員など述べ 1 億人のユーザー情報を iAEON ID と連携させることで、お客様により良いデジタル サービスを提供していく予定です」(山﨑氏)。

こうした会員 ID の統合やデジタル サービスの拡大、新しいリテールの取り組みを加速するために採用したのが Azure です。具体的には、iAEON のデータ ベース サービスには Azure SQL Database を採用するほか、ASP/B の API 基盤には、Azure のマネージドなコンテナ オーケストレーター サービスである AKS を、データ ベース基盤には、Azure のマネージドな MySQL データ ベース サービスである Azure Database for MySQL をそれぞれ採用しています。Azure を選択した理由について、山﨑氏はこう話します。 「マイクロソフトさんには、Windows や Office をはじめとして、エンタープライズに長く寄り添ってきたという歴史とカルチャーがあります。われわれのような小売業が DX を推進するうえでは、クラウド ネイティブな技術だけでなく、われわれが持つエンタープライズの技術やスキルをクラウド ネイティブな技術や環境に引き上げてもらうことが必要です。それができるのがマイクロソフトさんであり、基盤として Azure を選択することが最適解だったということです」(山﨑氏)。

Azure を活用して DX 推進を行う、国内小売業として際立った存在感を放つ AST

開発や運用面でも、Azure のマネージドサービスを活用するメリットは多いといいます。齋藤氏は、こう話します。 「自分たちで SLA を守る必要がなく、パッチ適用やメンテナンスなどのオペレーショナル コストを下げることができます。セキュリティや認証認可などについても、Microsoft Entra ID (旧 Azure AD )や各種セキュリティ サービスを使って強化できますし、トラブル発生時に必要な監視や監査などが揃っています。たとえば、データ ベースについても、スロー クエリをさっと調べるためのツールやメトリクスが標準で備わっていて、それをダッシュボードで可視化して確認できます。こうした環境をオンプレミスで整備することは大変な手間です。Azure のマネージド サービスは、非常にありがたい存在です」(齋藤氏)。

Azure のマネージド サービスを活用するために組織体制も柔軟に変更してきたといいます。AST を設立した当初から、Web 技術やオープン ソース ソフトウェア( OSS )、クラウド ネイティブ技術などに長けたエンジニアを積極的に採用し、アジャイル開発や DevOps などの方法論を取り入れ、内製開発を推進してきました。山﨑氏は CTO として技術戦略の方向性をこう説明します。 「自分たちですべてスクラッチで作るのではなく、世の中の優れたソリューションをできるだけ活用しながら、本来取り組むべきことに集中することを大切にしています。自分たちが意志を持つべきはビジネスや DX をどう良くしていくかです。そのためにオープンな技術を活用しながら、インフラについてはどんどんクラウドにのせかえていく。その 1 つとして優れたソリューションが Azure でした」(山﨑氏)。

特に、AIBS と統合後の AST は、Web アプリやスマホ アプリ開発に長けたエンジニアから、POS レジなどの基幹システムの開発・運用経験があるベテラン エンジニアまで約 300 名が所属し、Azure を活用して大規模な内製開発を中心とした DX 推進を行うという、日本の小売企業のなかでも際立った存在感を放つ企業となっています。

ユニファイドサポートを活用し、ミッション クリティカル システムの安定稼働を実現

ASP/B は、DX の基盤となる中核システムの 1 つですが、ASP/B が停止すると、ASP/B に API アクセスしているイオングループのすべてのサービスが停止するというミッション クリティカルなシステムでもあります。齋藤氏は運用にあたっての苦労をこう話します。

「 ASP/B で利用している MySQL はシャーディングなどの技術を使ってパフォーマンス向上と負荷の分散、可用性の確保を図っています。MySQL インスタンスは約 60 で、AKS 上で動作する 100 を超えるサービスからのアクセスを日々処理しています。システムを安定的に稼働させるために、マイクロソフトユニファイドサポートを活用しています。アーキテクチャーの設計から、運用までさまざまなサポートを受けていて、優れたエンジニアのアドバイスを常に受けられることはエンジニアとして非常にありがたく、日々成長を実感しているところです。稼働からこれまで安定した運用を続けることができています」(齋藤氏)。

これまでに受けたサポートとしては、Azure Database for MySQL のシングル サーバーからフレキシブル サーバーへの切り替えなどがあるとのことで、シングル サーバーのサービス提供が停止されたことに伴って発生した移行作業ですが、サポートを得て特にトラブルなく移行を完了できたといいます。

また、MySQL のバージョン 5 からバージョン 8 へのアップ グレードについてもサポートを活用して必要な知識を深めているといいます。システム全体が停止することは許されないシステムですので、個々のインスタンスの停止時間や切り替えポイントを踏まえて、切り戻しを考慮した最適な切り替え方式を採用したいとのことです。齋藤氏はマイクロソフトのサポートをこう評価します。

「マイクロソフトさんのサポートの魅力は、担当いただくエンジニアの方が非常に優秀なことです。チャットベースですばやく回答を返してくれますし、マイクロソフト製品だけでなく、OSS や商用製品などサードパーティ ツールを含めて的確なアドバイスをいただくことができます。個人的に驚いたのは、マイクロソフトさんの利益にならないようなことでも、ユーザーの視点に立って『実施すべき』『やめたほうがいい』と指摘してくれることです。その意味でも非常に信頼しています」(齋藤氏)。

「エンタープライズでもここまで変われることを示していきたい」

AST では、Azure を活用するためのノウハウや実践事例をエンジニア向けサイトの「 AEON TECH HUB 」や「 AEON テックブログ」で積極的に外部公開しています。齋藤氏は主に Azure サービスの活用についての技術記事を、山﨑氏は CTO としての考え方を中心に記事を投稿していますが、国内では、Web 企業ではない事業会社がこうした技術ブログや技術情報サイトを運営することは非常に珍しく、反響も大きいといいます。

「コミュニティ活動などで外部のイベントやセミナーに参加しときに『読みました』と声をかけられるケースが増えています。エンジニアの間で『イオンが面白いことに取り組んでいる』という認識が少しずつ広がっていると感じます。また、社内でもこの 3 年で、IT やシステム、デジタルに対する認識が着実に変わってきています」(齋藤氏)。

齋藤氏はこうした社内外の取り組みが評価され、2025 年 3 月には Azure Kubernetes と Open Source 領域でマイクロソフト MVP ( Most Valuable Professionals )に認定されています。そのうえで齋藤氏は、今後の ASP/B の取り組みについて、こう話します。

「エンジニアリング組織を洗練するために、さらに前進していきます。柔軟で変化に強いアーキテクチャーを組み上げ、ビジネスの展開に備えられるようにしていきたいです。そのために Azure のテクノロジーは不可欠です」(齋藤氏)。

また、山﨑氏は、マイクロソフトが Azure やオープンなクラウド技術を使ってユーザー企業のさまざまな活動を支援することは、イオングループ全体に新しいカルチャーを根付かせるきっかけになっていると指摘します。

「マイクロソフトさんは我々に寄り添って本当にさまざまな支援をしてくれています。ほかのクラウド ベンダーだったらしてくれないようなサポートも多いです。不思議に思って担当の方に『なぜマイクロソフトさんは、こんなに手厚く支援してくれるのですか』と聞いたことがあります。その答えは『一緒に良いカルチャーを作りたいから』でした。目先の利益や Azure を主語に置かずに相手側の企業とどう一緒に発展していくかという視座を持っている。そこはマイクロソフトさんの強みだと思います」(山﨑氏)。

そのうえで山﨑氏は今後についての次のように展望します。

「大企業、エンタープライズでもここまで変わることができるという事例を作っていきたいです。イオングループの DX をさらに進めることはもちろんですが、それだけでなく、日本の大企業の DX のあり方を変えていきたいです。そのためにも、マイクロソフトさんには、これまで以上に寄り沿っていただき、新しい取り組みをサポートしていただきたいと思っています」(山﨑氏)。

イオングループの DX、さらにその先の変革をマイクロソフトが支えていきます。

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[PR]提供:日本マイクロソフト