小売業や物流業向けに遠隔操作・人口知能ロボットを展開する Telexistence 株式会社では、Microsoft Azure を活用してコスト効率の高いソリューション開発を実現しています。ロボットの遠隔制御や管理、AI システムの実行には Azure の PaaS や IaaS を活用しています。新たに提供を開始した「店舗業務可視化ソリューション」では、大量データの処理と分析に Azure Data Explorer を活用し、高額になりがちなクラウド DWH の運用コストを大幅に削減しました。工場の外の人々の生活環境にも知能化されたロボットを普及させることを目指す同社に、Azure 活用のポイントを伺いました。

Azure を基盤に小売業や物流業向けに人工知能・遠隔操作ロボットを提供

「世界に存在する全ての物理的な物体を、我々の『手』でひとつ残らず把持する」を企業ビジョンに掲げ、「すべての惑星上のすべての人々に、ロボット革命の恩恵を授ける」というミッションのもと、小売業や物流業向けに遠隔操作・人口知能ロボットを展開するTelexistence 株式会社(以下、Telexistence )。社名となっているテレイグジスタンスは、1980年に東京大学名誉教授 舘 暲氏が最初に提唱した概念で、遠隔操作や人工知能などを活用しながら人間の存在を拡張するビジョンと技術システムを指しています。

Telexistence は、2017 年に設立されたスタートアップ企業で、世界中から高い専門性をもつ人材が集まり、ハードウェア・ソフトウェア、AI 、遠隔操作技術を一貫して自社で開発しています。2021 年11 月には、小売業界向け人工知能・遠隔操作ロボット TX SCARA の社会実装を開始しました。現在はコンビニエンス ストア約 300 店舗への導入が進められています。また、2022 年 10月 には物流会社と共同で Telexistence 製の物流施設向けロボットの実証実験を行い、2024 年 7 月からは、大型物流施設内に開設した常温・低温複合型センターにおいて実業務におけるロボットの段階的稼働を開始しています。

同社の技術開発やソリューション開発を統括しているTelexistence株式会社 CTO 佐野 元紀氏は、同社のロボットの特徴をこう話します。

「テレイグジスタンスは遠隔のロボットを自分自身のように操作する技術です。このコア技術に AI による自動制御を組み合わせ、オートメーションとテレオペレーションによるロボット ソリューションを提供しています。コンビニエンス ストアのバックヤードに導入されている TX SCARA は、飲料が陳列棚からなくなると自動的にそれを検知して必要な商品を自動補充するロボットです。我々のスタッフが遠隔からロボットを操作することもでき、想定していない環境変化が原因で AI による陳列が失敗した場合、インターネットを通じた人による遠隔操作で陳列業務を 100 %成立させることが可能です」(佐野氏)。

Telexistence のサービス提供基盤は Microsoft Azure (以下、Azure )を基盤としています。ロボット ソリューションに新機能を追加する際も、Azure を活用してコスト効率の高い開発を行っています。そんななか、Azure を使って新たに提供を開始したのが、店舗業務を可視化するソリューションです。

店舗内の情報を分析する店舗業務可視化ソリューション

店舗業務可視化ソリューションは、TX SCARA を使った飲料陳列ソリューションの追加機能として提供するサービスです。佐野氏は開発の狙いをこう説明します。

「飲料陳列ソリューションは、陳列や補充という冷蔵庫内での負担のかかる作業を人間の代わりにロボットが行うサービスです。労働力不足への対応のほか、ピーク時にはロボットと作業を分担することで、店頭での接客など人間にしかできない仕事に集中できるようになります。ただ、ロボットと人間が協業していこうとすると、ロボットによる効率化を進めるだけでなく、人間が実際にどのような作業に時間をとられているか、どのようなタイミングでロボットを活用すればよいかを知る必要があります。そうしたニーズに応えるために開発したのが店舗可業務視化ソリューションです」(佐野氏)。

店舗業務可視化ソリューションは、店舗内に店員の所在や動作を把握するセンサーを設置し、センサーから得られた情報を分析して、ダッシュボード上にさまざまな情報として表示するサービスです。店舗の責任者やエリア マネージャー、本部の分析担当者やマネジメント層がダッシュボード上の情報を見ながら、人間とロボットの協業パターンを探ったり、データをもとに業務改善をはかったりすることができます。

他社クラウドでプロトタイプをクイックに開発するも運用コストが課題に

店舗業務可視化ソリューションでは、最初に他社のクラウド サービスを使ってプロトタイプを作成しました。

「他社のクラウド サービスは使い慣れたツールだったため、クイックに開発して検証するのに向いていたのです。ただ、このプロトタイプをそのまま本番環境に移行すると、運用コストが想定以上に増えていくことがわかりました。実際、サービス インしてみると、大量のデータを処理するためのコストが膨大で、このまま運用することが難しいことがわかりました」(佐野氏)。

プロトタイプは、店舗データをセンサーからクラウドにリアル タイムに転送し、クラウドDWHに蓄積、分析して Web ダッシュボードに結果を表示するという構成でした。素早く開発するため、モバイル バックエンド サービス( MBaaS )も活用していました。課題となったのは、大量のデータを保管するコスト、分析処理にかかるコスト、データ転送のコストでした。

「複数のクラウド サービスを利用することで、今後運用の負担が増えることも課題でした。また、データ連携やシステム連携が必要になるためパフォーマンス面での懸念もありました」(佐野氏)。

  • Telexistence 株式会社 CTO 佐野 元紀氏

Azure への移行を決め、最適なサービスとして Azure Data Explorer を採用

そこで取り組んだのが店舗業務可視化ソリューションで利用していたシステム基盤の Azure への移行です。

「コストやパフォーマンス、運用などの課題に直面して悩んでいたときに、マイクロソフトの担当の方から『 Azure のサービスに移行するとコスト効率が高く、柔軟性や拡張性が高いサービス基盤が構築できます』と教えていただきました。ただ、私自身、Azure のデータサービスや分析サービスにはそれほど詳しくありませんでした。Azure IoT Hub や Azure Synapse Analytics といったサービスが使えそうだとは思っていましたが、どのように利用すれば最適なシステムが構築できるかまでは考えが及んでいませんでした」(佐野氏)。

マイクロソフトの担当者と議論を重ね、最終的に店舗業務可視化ソリューションのシステムに最適なサービスとして採用したのは Azure Data Explorer です。Azure Data Explorer は、大量のログ データやテレメトリ データに対するクエリと分析をすばやく実行するサービスです。

「店舗に設置したセンサーから、データを直接 Azure Storage に送り、Azure Data Exploreで分析するというシンプルな構成でサービスを作り直すことができました。既存の構成では、大量のデータをデータベースに保管したり、クラウド DWH へのクエリやデータ転送したりするたびにコストがかかっていました。それらの機能を Azure Data Explorer に集約することで、データを最短で分析できるようになりました。また、Azure 基盤にシステムを移行したことで、飲料陳列ソリューションとの連携性を高めることができました」(佐野氏)。

Telexistence では、マイクロソフトが提供するスタートアップ支援プログラムを活用してシステムを構築してきました。TX SCARA を用いた飲料陳列ソリューションにおいても Azure が全面採用されていて、例えば、データベース MongoDB のマネージドサービスである Azure Cosmos DB for MongoDB 、リアル タイム性の高いデータ処理のためにRedisのマネージド サービス Azure Cache for Redis などを活用しています。また、Telexistence が開発した独自 AI システムの Gordon も Azure VM 上で稼働しています。

飲料陳列ソリューションと店舗業務可視化ソリューションを1つのクラウド基盤から提供できるようになったことでシステム全体の管理コストを減らすことができたのです。(本件はマイクロソフトパートナーである株式会社 ZEAL が一部技術協力として携わりました。)

コスト最適化、データ連携、ノウハウの獲得などでメリットを実感

Azure に移行することで得られたメリットと効果は大きく3つに整理できます。

1つめは、コストの最適化です。具体的なコスト削減額は今後の本番運用で明らかになっていきますが、大量データを保管するコスト、DWH 分析コスト、データ転送コスト、複数クラウドを管理するコストなどを削減し、ビジネスとシステムの拡大にともなって、コストを最適化できる仕組みを作ることができました。

「クラウド サービスは利用が増えるにともなってコストがかかるため、継続的に見直していくことが求められます。プロトタイプをクイックに開発するだけでなく、実際の本番運用を見据えて最適なコストでシステムを作るための知識やノウハウが得られたことは大きなメリットです」(佐野氏)。

2つめは、Azure への一本化により、新しいデータ活用の選択肢が広がったことです。

「ロボットを制御するクラウド プラットフォームと、店舗を可視化する分析プラットフォームを Azure に集約したことで、それぞれのデータを簡単に連携させることができるようになりました。プロトタイプは他社クラウドを利用していたため、データを変換処理する必要があり、データ連携の際に CSV を日次バッチで処理することもありました。いまは、よりリアル タイムなデータ連携が可能で、Web ダッシュボード上でロボットと店員さんの状況をすばやく確認できるようになっています。具体的には、店員は何時にどんな作業をしていたか、その際、ロボットはどのような稼働状況だったのかがなどがわかります。データ表示のレスポンスやパフォーマンスも改善しました」(佐野氏)。

3つめは、Azure を活用していくためのノウハウが得られたことです。マイクロソフトの担当者からサポートを受けることで、Data Explorer などの新しいサービスの知識や、既存のアーキテクチャを見直すヒントが得られたといいます。

「マイクロソフトからは、アーキテクチャの見直しから、具体的な機能やサービスの選定までさまざまな知識とノウハウを提供していただきました。これまでもスタートアップ支援としてサポートしていただいていたので、引き続き、マイクロソフトのサポートを活用しながら、既存サービスの見直しや新機能の開発に取り組んでいきたいと思います。データ活用という点では、POS や発注システムなどとの連携機能なども考えられます」(佐野氏)。

工場の外の人々の生活環境にも知能化されたロボットを普及させること

POS や発注システムなどとのデータ連携は、ロボットを活用するメリットが大きく生きてくる分野です。佐野氏はこう話します。

「今までは、店頭在庫などを人手で確認する必要がありました。しかしロボットを利用して自動で補充する場合、いつ、何が、どのくらい売れたかまで正確に把握できます。受発注や在庫管理には小売業としてのお客様の戦略があります。われわれがロボットでの陳列を通じて得たデータや、店舗業務を可視化して得たデータを提供することで、より戦略的な店舗展開や商品展開ができると考えています。将来的にはサプライ チェーン全体を含めたデータ活用にもつながってくると思っています」(佐野氏)。

佐野氏は今後についてこう展望します。

「会社としては3つの柱でビジネスを育てていこうとしています。1つめは、国内のコンビニエンス ストアを中心により多くの店舗にロボットを入れていくこと。2つめは、日本以外、特に北米への展開を進めること。3つめは、小売以外の業種にロボットを入れていくことです。システム面から見ると、まず国内については、ビジネスのグロースにともなって、サーバーの処理能力をスケール アップ、スケール アウトしていくことが求められます。マイクロソフトと連携していかにコストを最適化して、サーバーを増強していくかが重要です。また、北米向けでは、店舗レイアウトの違いや商慣習の違いを考慮するため、ロボット製作から考え直したり、新しいソリューションを作っていったりする必要があります。コアとなるシステムを、いかにリージョンをまたいで展開するか、現地スタッフとどう協力するかなど、ここでもマイクロソフトとの協力がカギになります。小売業以外の展開についても、例えば、すでに物流での事例がありますが、ここでも、サーバーやクラウドのリソースをどう管理していくかを検討する必要があるため、マイクロソフトにサポートをお願いしたいと考えています」(佐野氏)。

Telexistence が目指すのは工場の外の人々の生活環境にも知能化されたロボットを普及させることです。サービスが広がるなかで、ロボットとクラウドはより広く密接につながるようになります。佐野氏はマイクロソフトへの期待を次のように話します。

「信頼性の高いサービスを最適なコストで提供していただき、パートナーとして一緒に歩んでいただきたいと思っています。また、近年は AI がレバレッジできる領域は増えてきています。自社開発のAIとともに、マイクロソフトの AI 技術を活用しながら、より踏み込んだ AI 開発を進めていきたいと考えています」(佐野氏)。

Telexistence の取り組みをマイクロソフトがこれからも支えていきます。

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