公共・行政分野と民間をつなぐGovtechサービスを展開するxID(クロスアイディ)が、自治体向けデジタルIDソリューションの機能の1つとしてIDウォレット機能を開発し、岐阜県飛騨市、下呂市と共同検証を実施しました。IDウォレット機能とは、スマートフォンアプリのなかで、身分証明書や資格証明書などをまとめ、自分の意思で管理できるようにする仕組みです。運用管理コストをおさえながら、新機能をスピーディーに開発していくために採用したのが「Microsoft Entra Verified ID」です。
市民が医療証や割引チケットなどをアプリで管理できる「IDウォレット機能」を開発
「信用コストの低いデジタル社会を実現する」をミッションに掲げ、マイナンバーカード・デジタルIDを活用した自治体や企業の課題解決・新規事業創出を総合的に支援するGovtechスタートアップ、xID株式会社。同社が展開するデジタルIDソリューション「xID」は、公共・行政分野と民間をつなぐGovtechサービスの1つであり、官民共創による自治体DXの推進を支援するものです。
xIDソリューションを採用する自治体の職員や住民は、スマートフォンアプリ「xIDアプリ」をダウンロードして、マイナンバーカードと連携するだけで、アプリをインストールしたスマートフォンを身分証やカギ、ハンコなどの代わりとして利用することができます。マイナンバーカードに紐付いたデジタルIDが生成され、公的な本人確認や本人認証、電子署名が利用できるようになるのです。これにより、住民はマイナンバーカードを持ち歩いたり、何か手続きのたびに暗証番号などを入力したりする手間がなくなります。
xIDが提供するデジタルIDソリューションは、すでに400を超える自治体で利用されています。xIDが、アプリの利便性を高めるために取り組んだのが、IDウォレット機能の開発です。xIDの桑原直希氏は、こう話します。
「IDウォレット機能は、住民票や医療証、クーポン券、割引チケットなど、従来は紙で発行されていたさまざまな証明書をxIDアプリ上にデジタル化して保管し、自分の意思で管理できるようにする機能です。この機能を利用すると、xIDアプリから、行政手続きのオンライン申請や公共施設・公共交通の利用予約、地域クーポン券や割引チケットの申請・発行などさまざまな行政サービスをまとめて受けることができるようになります。xIDでは、デジタルIDとさまざまなサービスをクロスさせることで、新しい価値を生み出すことを目指しています。IDウォレット機能はそのための重要な機能です」(桑原氏)
このIDウォレット機能の開発にあたって採用したのが「Microsoft Entra Verified ID(以下、Verified ID)」です。Verified IDは、Microsoft Entra ID(旧Azure Active Directory)が提供する分散化IDを管理するための機能です。分散化IDとは、IDを特定のプロバイダーなどが集中管理するのではなく、ブロックチェーンなどで用いられる技術を使って分散管理し、IDの主体であるユーザー本人が利用状況などを確認・検証できるようにする仕組みのことです。
桑原氏は「IDウォレット機能を開発するために、マイクロソフトが新たに提供を開始したVerified IDは最適なサービスでした」と話します。
IDウォレット機能をスムーズに開発するため「Microsoft Entra Verified ID」を活用
IDウォレット機能の開発の背景には、多くの自治体が抱える課題を解消する狙いがありました。
例えば、多くの自治体が抱えている悩みの1つに紙の証明書の管理があります。住民が育児や介護などに関する行政サービスを受けようとすると、紙の申請書に手書きしたり、紙の証明書を取得して資格があるかどうかを証明したりと多くの手間がかかります。また、自治体の職員も申請書の確認や承認などに多くの時間をとられています。
「申請や確認のやりとりをデジタル化し、IDウォレット機能を使ってまとめて管理できるようにすれば、住民はすばやく簡単に行政サービスを受けることができるようになります。また、自治体の職員の手間も大幅に削減できます。さらに、IDウォレットという1つの仕組みのなかで、公共施設や公共交通の利用予約や管理、クーポン券や割引チケットの発行などさまざまなサービスに展開していくことができます」(桑原氏)
自治体が抱えている課題としては、住民一人ひとりに対するきめ細やかなサービスをどう提供するかという点もあります。
「支援が必要な住民に行政サービスが届いていなかったり、サービスがあることを知らないままだったりといったケースが多いそうです」(桑原氏)
IDウォレット機能の開発にあたっては、分散環境でIDなどの資格情報を検証可能な状態で管理するための国際規格「Verifiable Credentials(検証可能な資格情報)」に準拠することが必要でした。ただ、国際規格に準拠した機能を素早く開発し、維持していくことは、開発にあたってのハードルになりやすかったといいます。
「Verifiable Credentials自体は、デジタル庁が提供するワクチン接種証明書でも利用されているものです。ただ、デジタルIDウォレットとしてサービスを開発する場合、技術的に実装が難しかったり、仕様変更に対応したりする工数などが課題になります。その点、マイクロソフトは、Verifiable Credentialsの規格策定でイニシアティブをとっているほか、Verifiable Credentialsなどに関するスペシャリストが在籍し、さまざまなサポートを提供しています。しかも、それをVerified IDというかたちでサービス提供してくれていましたし、当社のマネジメントや技術チームとの連携もとれていました。Verified IDを使ってIDウォレット機能を開発することは自然な流れでした」(桑原氏)
クラウドサービスの利点を生かして、迅速なサービス開発と運用コスト削減を達成
Verified IDは、IDウォレット機能を利用する際にVerifiable Credentials形式で情報をやりとりする基盤部分に採用されています。
xIDアプリは、マイナンバーカードと連携した独自IDを生成して本人確認を行うことができるアプリです。マイナンバーカードから取得された名前、生年月日、住所や性別は、ユーザーの同意がなされるとサービス事業者側に連携されるため、面倒な情報入力も不要になるといった特徴があります。
IDウォレット機能は、この独自IDによる情報のやりとりをVerifiable Credential形式で行いながら、アプリ内に市民証や職員証、医療証、クーポンなどをまとめて管理できるようにする仕組みです。具体的には、Verified IDのウォレットSDKを使うことで、IDウォレットからVerifiable Credentialsをアプリケーションに提示したり、アプリケーションとしてVerified Credentialsを受け取って正当性を確認したりしています。
桑原氏は、IDウォレット機能の開発にあたって、Verified IDを採用するメリットをこう話します。
「Verified IDのメリットは、デジタルIDの管理の仕組みをクラウドサービス側に任せられることにあります。Verified Credentialsの仕組みを当社が独自に開発するのでなく、Verified IDを利用することで、分散型ネットワークでの通信に関わる実装工数を削減できます。実際、ウォレットの開発にあたっても、Verified IDサービスへの接続部分だけに集中すればよく、開発チームは、アプリケーションのUI/UXなどのプレゼンテーション部分の開発に専念することができました。また、フルマネージド型のサービスとして提供されるため、運用管理の手間を大幅に削減することができます。実際、弊社でIDウォレット機能全体をホストして提供する場合と比べても、運用工数は大きく削減できることがわかっています」(桑原氏)
このように、xIDではサービス提供基盤の中核部分でVerified IDを採用することで、スピーディーで効率的な機能開発、アプリケーション開発へのリソースの集中、サービス管理の手間の削減、インフラ管理の削減といったメリットを得たのです。
「マイクロソフトとは、Microsoft Entraの前身であるAzure ADB2Cとの接続についても技術検証を行ってきた関係にあります。マイクロソフトの技術を活用した自治体向けの支援実績としても、静岡県島田市様の事例もあります。Verified IDの採用にあたっても、マイクロソフトの技術やサポートにおおいに助けられることになりました」(桑原氏)
岐阜県飛騨市と岐阜県下呂市が共同検証に参加、デジタルウォレットの利便性を確認
2023年11月からは岐阜県飛騨市と岐阜県下呂市と協力して、IDウォレット機能の共同検証を行ないました。
飛騨市では、デジタル職員証としての発行手続きと、入浴施設を利用する市民に対する割引の適用という2つの検証に取り組みました。デジタル職員証の検証では、xIDアプリを使って発行用QRコードを読み取り、デジタル職員証を表示するところまでを職員自身が実施。また、入浴施設の割引では、QRコードを読み取って、市民であることが確認された場合に入湯税を減免するシナリオを住民の協力のもと実施しました。
飛騨市 総務部総務課情報システム係 係長 松井洋子氏は、こう話します。
「xIDの方からIDウォレットの仕組みを聞いたとき、とても便利な機能だと驚きました。クラウドサービスを利用するので、スマートフォンには個人情報を保持しませんし、機種変更しても情報を引き継いで利用できます。将来的には、医療証や医療機関の診察券、介護を受けるために必要な証明証、避難者としての情報などさまざまな情報を登録することでデジタル市民証として活用していくことができます。また、職員証をデジタル化することで出退勤管理や資格取得、研修の履歴管理などにも活用できます。とても夢のある仕組みです」(松井氏)
下呂市では、観光施設・名所の1つである下呂温泉合掌村における市民割引の検証に取り組みました。デジタル市民証を使って、市民であることを確認して割引を適用するものです。下呂市 最高デジタル責任者(CDO) 補佐官の長尾飛鳥氏は、この実証実験について次のように振り返ります。
「下呂温泉合掌村は、市民は無料で利用することができますが、利用の際には免許証などを提示してもらって、市民であることを確認していました。また、人数はカウントしていたものの、年齢や性別、利用時間帯などの行動データを取得していませんでした。検証の結果、市民割引を適用する際にQRコードの読み取りなどに手間がかかるものの、施設の利用状況を把握したり、行動データの分析につなげたりすることは十分可能であることが確認できました。行動データを取得して行政サービスに生かす取り組みは多くの自治体の課題でもあります。自治体だけで行動データの分析を行うことは難しさもあるため、いかにITベンチャー企業などと共創していくかがカギです。優れたUI/UXを提供し、行動データを蓄積しながら、行政サービスの向上や行政DXにつなげていきたいと考えています」(長尾氏)
マイクロソフトとのパートナーシップで、自治体DXを支援していく
桑原氏は共同検証の取り組みやマイクロソフトとのパートナーシップをこう振り返ります。
「マイクロソフトは、Verifiable Credentialsなどの技術開発に多大な投資を行っています。ベンチャー企業に対するサポートが手厚く、新しい技術を普及させることに対して非常に積極的です。われわれが自治体向けに新しいサービスを展開するうえでも、マイクロソフトのそうしたサポートは大きな力になりました。経営トップから開発エンジニアまで密接にコミュニケーションを取りながらさまざなサポートをいただいています」(桑原氏)
マイクロソフトの技術やサポートは、自治体にとっても大きな助けとなっているといいます。
飛騨市の松井氏は「マイクロソフトの製品やサービスは市のさまざまな業務で利用しています。信頼感が高く、職員や市民に機能や仕組みを説明する場合もスムーズに理解していただけることが多いです」と話します。
また、下呂市の長尾氏も「将来的に自治体におけるIDウォレットの利用が当たり前の世界になっていくと考えます。その際にはPower BIなどを活用したデータ分析なども重要になります。さまざまなIT企業の力を借りながら、行政サービスの価値向上につなげていきます」と展望します。
マイクロソフトはxIDとともに自治体DXの取り組みを支援していきます。
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