11月6日に、ワシントンDCのジョージタウンに米書店チェーン「Barnes & Noble」のフラッグシップ店舗がオープンしました。2011年に閉店させた旗艦店の再オープンであり、これは大型書店チェーンとAmazonによって衰退していた「書店文化の復活」を象徴する出来事とされています。
全盛期には全米で726店舗を展開していたBarnes & Noble
Barnes & Nobleはかつて、大量仕入れ・大量販売を基盤とした「利益第一主義」の大型書店チェーンでした。1998年公開の映画「ユー・ガット・メール」に「フォックス・ブックス」という大型書店が登場します。
メグ・ライアンが演じたキャスリーン・ケリーの経営する独立系絵本専門店を経営危機に追い込む存在として描かれており、このフォックス・ブックスのモデルがBarnes & Nobleでした。1990年代から2010年代にかけて「街の書店の破壊者」とも呼ばれ、全盛期の2008年には全米で726店舗を展開していました。
しかし、Web 2.0ブームとともにAmazonが台頭し始め、大量仕入れ・大量販売の競争で大型書店チェーンは次第に劣勢に追い込まれていきます。Barnes & Nobleも例外ではなく、来店客の減少により約150店舗を閉鎖する事態となりました。
かつて書籍業界の巨人だった同社は、実店舗の客足が遠のく中でデジタル分野への拡大も進まず、2019年には投資ファンドに買収され、経営破綻が噂されるまでに至りました。2011年のジョージタウン旗艦店の閉店は、同社の凋落を象徴する出来事でした。
他の店舗ではCDや雑貨の販売など品揃えの多様化を図りましたが、かえって本好きの来店が減少する悪循環に。図書館と居間を合わせたようなかつての魅力は失われ、「盛者必衰」を感じずにはいられませんでした。
新CEOの就任で「書店」を再定義
そんな状況から復活の転機となったのが、2019年のジェームズ・ドーント氏のCEO就任です。自らを「書店員」と位置付けた彼は、Barnes & Nobleを「小売業者」ではなく「書店」として再定義し、改革を進めました。
その際、参考にしたのは大型書店やAmazonの脅威にさらされながらも生き残ってきた独立系書店の手法でした。まず、各店舗に自主的な運営を許可し、書籍購入者のコミュニティに最大限のサービスを提供できるようにしました。
それまで、全店舗が本部の指示に従い画一的な運営をしていましたが、各店舗が仕入れや陳列を自主的に決定できるように変更しました。
書店員の知識とスキルに業績が左右され、また大手出版社にスポンサー付きの展示スペースを与えることで得てきた収益を失うことになります。リスクも大きかったものの、この改革により「顧客が興味を持つ書籍を揃える」という書店の基本に立ち返ることができ、来店客数は増加しました。
「本離れ」「活字離れ」が叫ばれる一方で、米国出版協会(AAP)の年次報告書によると、米国の書籍市場は過去20年間で緩やかな増加傾向を示しています。また、独立系書店の数も2009年以降、増加傾向にあり、2023年には全米書店協会(ABA)の会員数が前年より255社増の2433社となりました。
このデータは、大手書店チェーンが姿を消している現状と矛盾するように見えますが、減少しているのは話題の新作をただ並べて販売していた書店であり、地元コミュニティや本好きのコミュニティに支えられている書店は増加しているのです。
また、「若者の本離れ」が指摘される一方で、実際にはZ世代が他の世代より印刷書籍を好み、図書館をよく利用しているという調査結果も多くあります。
これには、情報過多へのアンチテーゼ、ゆっくりした時間を過ごせるリラックス効果、オフラインでのエンターテイメント、インフルエンサーやSNSの影響、印刷書籍のコレクション性など、さまざまな要因があるようです。
さらに、Z世代は他の世代がよく読むジャンルに加えて、ライトノベルやマンガなど幅広いジャンルの本を読む傾向も報告されています。
単なる「本の販売」からのシフトが功を奏す
改革後のBarnes & Nobleでは若い世代の店長も活躍しており、TikTokの#BookTokを活用した本の紹介や、深夜の発売パーティーやコスチュームコンテストなどなどのユニークなイベントを開催しています。
こうした成功事例が共有されることで、上の世代の店長は自身の経験や知識だけでは得られなかった気づきを得られます。
地域と本好きのコミュニティとつながるさまざまな実験が店舗ごとに行われ、その知見や成果が共有されて、書店として若返り、Amazonにはない魅力を得ているのが、Barnes & Nobleの躍進の原動力になっているようです。
2015年にAmazonが米国で「Amazon Books」という書店チェーンを展開し始めました。新世代の書店として期待されましたが、Amazon.comで売れ行きの良い本を在庫する「評価優先」のアプローチでは顧客を引き付けることができず、最終的には2022年にすべての店舗を閉鎖しました。
独立系書店の手法を取り入れたBarnes & Nobleの復活は、単なる「本の販売」から「体験とコミュニティの提供」へのシフトが、今後のブリック&モルタル書店の存在価値であることを示しています。