Amazonが全米に24店ある実店舗書店「Amazon Books」を全て閉店する。

1990年代に米小売書店市場を席捲した大型書店チェーンを打ち負かしたAmazonが、2015年に満を持して展開し始めたAmazon Books。当時、街の書店のオーナーの多くがAmazonの直接的な攻撃に戦々恐々とした。しかし、その心配は杞憂に終わった。なぜ、Amazonの実書店はうまく行かなかったのか? 2015年に最初のAmazon Booksがオープンした時に、私は「Amazonの魅力が凝縮された同社にしか作れないような書店」と書いた。ところが、Amazonのヘビーユーザーで、Kidleも使っている私が、この2〜3年Amazon Booksにほとんど行っていないのだ。

  • すでに新しい商品を追加していないようで、書棚や製品展示スペースに空きが目立ち始めている。

    すでに新しい商品を追加していないようで、書棚や製品展示スペースに空きが目立ち始めている。

Amazon Booksに並ぶ本は、Amazonのオンラインストアにおけるレーティング、予約・販売実績、傘下の読書好き向けソーシャルサービスGoodreadsでの人気などをベースに決定される。本はすべて面陳列または平積みされていて、背差し陳列はない。すべて本の表紙がお客さんの方を向いている。背差しなら20冊以上は入りそうな棚に、Amazon Booksで並んでいるのは4冊のみ。通常の書店に比べて店内に置かれている本はかなり少ない、紹介したい本のみに絞り込まれた書店である。

Amazon Booksをひと回りしたら、その時の(Amazonでの)人気作品や流行を簡単にチェックできる。おすすめに強いこだわりが感じられる独特な雰囲気、最初はそれがとても新鮮で便利に思えた……のだが、数回訪れる内に「つまらない」と思うようになってきた。

普段Amazon.comを訪れている利用者にとって、Amazon Booksに並ぶ本は見慣れた本ばかりで新たな"発見"がないのだ。

Amazon Booksの大きな特長の1つがオンラインのAmazon.comとの連係だ。Amazon Primeメンバーならメンバー向けの割引き価格や、購入した本のオンラインストアからの配達などを利用できる。PrimeのメンバーでなくともAmazon Booksで買い物をできるが、店内ではPrimeを契約してもらうことも展示されている本を売ることと同じくらい重視されている。

つまり、Amazon Booksはたくさんの本を見て回る場所というより、オンラインのAmazon.comの販売を促進するためのショールームのような書店なのだ。オンライン書店であるAmazon.comが出す実書店として理に適っているとは思う。しかし、本のショールームのような存在へのニーズには疑問符が付く。絵本、アート本やデザイン関連の本は実際の本を確かめられる価値は大きい。だが、置ける本に限りがある実店舗で、さらにAmazon Booksのような陳列だと、実際に手に取ってみたい本が置いてないことの方が多い。

  • 書棚をぜいたくに使って全て面陳列、置いてある本を簡単に把握できるが、利用者からはもっと多くの本を置いてほしいという声が少なくなかった。

「Amazon.com + Amazon Books」は、ベストセラー作品を大量入荷して割引販売する大型書店チェーンとAmazonが激しい競争を展開していた頃だったら、実店舗を訪れる人達を魅了したと思う。しかし、大型書店チェーンが次々に店舗を閉じている今(2011年にBorders破綻、Barnes & Nobleは店舗が2/3に)、実書店に足を運ぶ人が減少している。

それでも実書店に通っている人達が、今訪れているのは過去30年の大型書店チェーンやAmazonの猛威にも潰されずに生き抜いてきた独立系書店である。そうした書店の顧客の目的はベストセラーや流行を知ることではなく、Amazon.comでは満たされないことを求めている。

ウチの近所にも1軒だけ独立系書店が生き残っているが、そこにはNYタイムズのベストセラーリスト上位すら揃っていない。だが、書店員の強いこだわりが書棚に反映されていて、自分のAmazon.comアカウントとAmazon Booksでは存在に気づけないような作品に出会える。

Amazon.comにはたくさんの本があり、近所の書店に置いてある本は検索したらAmazonでも見つけられる。しかし、本があっても、それに気づけなかったら存在してないも同然である。近年、書籍の売り上げがベストセラー作家や人気作家により集中する"スーパースター効果"が書籍市場でも見られるようになった。米国の書籍売上におけるAmazonのシェアは電子書籍が80%以上、印刷書籍が40%以上と圧倒しており、Amazonのアルゴリズムがスーパースター効果を増幅させている可能性が一部で指摘されている。

Amazon Booksの閉店は残念だが、これまでの自分が通っていた書店が閉まった時のような感傷的な気分にはなっていない。Amazon Booksがなくなっても、Amazon.comがそのニーズを満たしてくれる。

Amazonの始まりである書店で失敗したのは同社の実店舗事業に暗雲と見る向きもあるが、これは同社の実店舗からの撤退ではない。戦略を見直し、今後は生鮮食料品ストアと新たに発表したアパレルストアに集中するという。Amazon Booksでうまくいかなかったことから学んだのだろう。効率化や流行の提供といったアルゴリズムの力を実店舗により活かせる分野に絞り込んで展開する。