人事/総務/経理をはじめとする間接部門として従業員の活性化を実現すべく、ワークプレイスの改革が注目されている。特に、このコロナ禍においては、テクノロジーを活用したワークプレイスの整備は喫緊の課題となる。

10月22日に開催されたマイナビニューススペシャルセミナー「New Normal時代のHRの在り方」では、慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 特任教授 岩本隆氏が、ワークプレイスにおけるテクノロジー活用の状況や、ポスト・コロナ社会に向けた人材の考え方などについて解説した。

岩本隆氏

慶應義塾大学 大学院経営管理研究科 特任教授 岩本隆氏

HRTechからWorkTechへ

日本におけるワークプレイスでのテクノロジー活用は、世界と比べて遅れている。米オラクルなどが実施した2019年のグローバル調査によると、「ワークプレイスにおいてAIを活用している」と回答した従業員/マネジャー/人事部門リーダーの比率は、調査対象となった世界10カ国/地域のうち、上位3カ国のインド、中国、UAEがそれぞれ78%、77%、66%だったのに対し、日本は29%で最下位となった。

特に日本においては、事業部門でのAI活用は進んでいるものの、間接部門では遅れているのが特徴だという。岩本氏は「進んでいる国にとって間接部門でテクノロジーを活用することは当たり前になっているが、日本企業では大きな課題になっている」と指摘する。

ただし、コロナ禍を機に、リモートワーク環境の整備をはじめワークプレイスでのテクノロジー活用は加速しつつある。岩本氏は、コロナ禍による変化の1つに、HRTechより大きな枠組みとしてWorkTechが求められるようになってきていることを挙げる。日本ではまだあまり盛り上がっていないが、米国ではWorkTech関連スタートアップの資金調達額が増加しているという。人事だけでなく、総務/経理/法務なども含めた間接部門全体が連携して包括的にワークプレイスでのテクノロジー活用を進め、企業の生産性を高めていく必要性が高まっていることの表れだろう。

WorkTechスタートアップ

急成長しているWorkTechスタートアップ

経営戦略と人材戦略をマッチングさせるCHROの重要性

従来、量産型の製造業が強かった日本では、長い時間をかけて設備をつくり、他社が参入できないようにするビジネスモデルが成功していた。そうした環境では、終身雇用/年功序列型の人材制度のメリットが活きていたが、現在のようにビジネスの成長スピードが早く、プロダクトライフサイクルが短い第四次産業革命のなかでは、人材一人一人の能力がビジネスに直結するようになる。

「”金太郎飴型”ではなく、”プロスポーツ型”の人材制度が求められるようになってきています。個々の能力はもちろん重要ですが、個性のある個人が活きるようチームをマネジメントして組織力を高めていかなければなりません。『個々の特徴を生かして掛け合わせる』という、まさにプロスポーツチームの監督が行っているようなマネジメントが重要になります」(岩本氏)

こうした背景の下、経営における人材マネジメントの優先順位が高まるなか、最高人事責任者(CHO/CHRO)の重要性が注目されている。岩本氏はCHR0について「CEOとタッグを組み、経営戦略と人材戦略をマッチングさせていく役割」と説明する。

世界の先進企業ではすでに、CEOとCFO、そしてCHROの3者が連携した経営体制を取っているケースもあるという。CEO、CFO、CHROはG3(Group of 3)と呼ばれ、経営会議とは別に、HRデータを基にしながらCHROがCFOと対等かつ密に経営の議論を行う。CIO/CDOは、これをシステムの面からサポートするかたちだ。

先進企業の経営体制

世界の先進企業の経営体制

日本の企業ではCHROが人事部門長を兼任しているケースも見られるが、岩本氏は「CHROはあくまで経営チームの一員。人事部門に対する責任はないが、経営責任がある。一方で、人事部門長は人事部門に対する責任がある」とし、両者の守備範囲は異なると主張する。