先日、うちの子供と日本人の友達たちがタモリを知らないことに驚かされた。でも、考えてみたら「笑っていいとも!」終了からすでに6年、「いいとも!」がなくなってからの世代がもう小学生なのだ。とはいえ、全世代では当時の「笑っていいとも!」の影響力の記憶がまだ新しい人が多いと思う。そこで想像してみてほしい。もし「笑っていいとも!」がタモリの自宅からの放送になっていたら、テレフォンショッキングのゲストも自宅からSkypeやZoomなどで参加していたら……。

「笑っていいとも!」ですら自宅からの放送なのだから、自分たちも外出を控えるよう努めようと思うだろうし、友達と集まることができない非日常の中でもできる範囲で楽しむポジティブな考えを持てるようになるのではないだろうか。米国では今、深夜のトークショーでそれが起こっている。ジミー・ファロンの「The Tonight Show」やスティーブン・コルベアの「The Late Show」が自宅からショーをホストする自宅エディションで収録している。ゲストもリモートで参加し、ミュージシャンゲストも自宅や録音スタジオなどプライベートな場所からパフォーマンスを披露している。

  • 番組タイトルも子供の手書き、アットホームな雰囲気の「The Tonight Show」自宅エディション

    番組タイトルも子供の手書き、アットホームな雰囲気の「The Tonight Show」自宅エディション

米国の深夜のトークショーは、プライムタイムのニュースと同様に全てのネットワーク局が全力を注ぐ「土8戦争」のような激戦区であり、通常はニューヨークの劇場やハリウッドのスタジオに観客を集めて収録を行なっている。豪華なショーを保つために無観客スタジオ収録という方法もあったはずだが、自宅バージョンになったことで、きらびやかなトークショーがYouTubeのショーのようになっている。だけど、自宅収録であることが、誰もが自宅隔離を強いられるような状態の米国で大きな共感を呼んでいる。無観客収録だったら、こうはなっていなかっただろう。

  • 「One World:Together At Home」イベントはCOVID-19という共通の脅威に対抗する強力な連帯を呼びかける

    「One World:Together At Home」イベントはCOVID-19という共通の脅威に対抗する強力な連帯を呼びかける

新型コロナウイルスの感染拡大で音楽ライブが軒並み中止になる中、WHO (世界保健機関)とソーシャル・アクション組織Global Citizenが、新型コロナウイルス (COVID-19)感染拡大の最前線で戦う医療従事者をサポートするための巨大チャリティ音楽イベントの開催を発表した。イベント名は[One World: Together At Home」。

レディ・ガガがイベントのキュレーターを担当。リゾやビリー・アイリッシュなど今の人気アーティストに加えて、ポール・マッカートニー、エルトン・ジョン、スティーヴィー・ワンダーといった大御所、アラニス・モリセット、ビリー・ジョー・アームストロング (グリーンディ)、クリス・マーティン (コールドプレイ)、エディ・ヴェダー (パールジャム)、ジョン・レジェンド、アンドレア・ボチェッリ、バーナ・ボーイ、プリヤンカー・チョープラー・ジョナス、ケリー・ワシントン、デビッド・ベッカムといった豪華な出演者が揃っている。

司会もまた豪華でジミー・ファロン、スティーブン・コルベア、ジミー・キンメル、米国の人気深夜トークショーのホストが揃い踏みとなる。イベントは4月18日に米ABC、NBC、CBSの全てでTV放送され、またAmazon/Twitch、Apple、Facebook/Instagram、Tencent、TuneIn、Twitter、Yahoo、YouTubeなどでストリーム提供される予定だ。TV局やコンテンツ提供方法の違いを超えたグローバル規模のチャリティ・イベントになる。

One World発表以来、同イベントは1985年に開催されたエチオピア飢餓救済イベント「ライブエイド」とよく比較されている。クイーンの伝記映画「ボヘミアン・ラプソディ」で若い層にも知られるようになったライブエイドは、会場に約16万人を集め、その様子は世界84カ国に衛星同時中継され、録画放映を含むと140〜150カ国でおよそ19億人に視聴された。

では、One Worldがライブエイドの再現になるかというと、グローバル規模の巨大チャリティイベントという点では同じでも大きな違いが2つある。

1つは、One Worldはスタジアムやコンサート会場に観客を集めるチャリティコンサートではない。詳細は明らかになっていないが、「staying home (自宅で安全に)」がOne Worldの重要なキーワードである。ひと月ほど前から、Global Citizenの[Together At Home」キャンペーンとして、クリスマーティンやジョン・レジェンドなどがプライベートな場所からパフォーマンスを披露している。そのフォーマットがOne Worldにも使われると予想されている。

だから、ライブエイドのような巨大会場の興奮が伝わるパワフルな音楽イベントにはならないだろう。それでもインターネットがある今、ライブエイドを上回る規模で世界中の人たちが目標を共有できるイベントになり得る。人々が集まることができない状況でも、同じ音楽を共有し、世界中の人がつながりを持てる。実に今日的なイベントになりそうだ。

  • 自宅バージョンの「The Tonight Show」にレディ・ガガも在宅でゲスト出演、FaceTimeビデオ通話でAppleのTim Cook氏が参加して1000万ドルの寄付を発表 (The Tonight ShowのYouTubeチャンネルから)

もう1つは、イベント中に募金を募らないこと。エンターテインメントとメッセージの提供に専念する。それでは「チャリティにならない」と思うかもしれないが、発表時点でIBM CEOのGinni Rometty氏やCisco CEOのChuck Robbins氏といった個人や企業から3500万ドルの寄付を集めており、レディ・ガガが「The Tonight Show」に出演した際に、Apple CEOのTim Cook氏がAppleによる1000万ドルの寄付を発表した。企業やフィランソロピー意識の高い個人の寄付から、世界中の人々にメッセージを届けるイベントを開催する。そして誰もが楽しめる質の高いイベントを実現し、イベントを通じてメッセージを受け取った人がそれぞれのできることを考えて協力する。感染が広まらないように自宅で安全に過ごすだけでも、医療の現場で働く人たちを支援することになる。体験優先でプラス循環を生み出そうとしているという点でも、One Worldは今日的な試みだ。