先週、オンライン学習/オンライン授業の準備を進めるうちの子供の学校区から「Hotspotデバイスが不足しているので寄付をお願いします」というメールが送られてきた。デバイスの具体的な説明がなかったため、問い合わせてみたら不要なWi-FiルーターやモバイルWi-Fi、テザリング対応のスマートフォンを集めているということだった。

3月の上旬から中旬に米国の公立学校の多くが休校に踏み切った。今のところは多くが期間を「4月末まで」として新型コロナウイルス感染の動向を注視している。米国は9月〜12月と1月〜5月の2学期制だ。うちの子供の地区では当初、数週間の休校なら必要に応じて夏休み (6~8月)の開始を遅らせる提案があった。しかし、新型コロナウイルスの感染は拡大する一方で、ひと月以内の再開どころか、休校が5月まで延長されて春学期がこのまま終了する可能性が濃厚になってきた。休校開始から1週間後には休校期間と夏休みを入れ替える議論はなくなり、学校によるオンライン学習提供に対応が完全にシフトしていた。

クラスによっては、休校に入ってからすぐにオンラインマテリアルを用意する先生もいたが、ネットを活用する先生の能力には個人差がある。うちの子供の学年は2クラスで若い先生と60代のベテラン先生がそれぞれ担任している。どちらも良い先生なのだが、休校に入ってからの違いは大きかった。若い先生は毎日密にオンラインでコミュニケーションを取り、様々な課題やプロジェクトを用意してくれた。例えば、アートのハウツーのYouTubeビデオをシェアして、子供にそれと同じテクニックで作った作品をオンラインで共有させる。それに生徒同士でコメントさせるなど、休校中でも学校の存在を意識させてくれた。対してベテラン先生からはたまにメールが届く程度でクラスは完全休校状態。その違いが親の間で話題になった。

公立学校がオンライン学習/オンライン授業を始めるなら、全てのクラスで同じように提供し、全ての生徒が受けられるようにしなければならない。

多くの学校が4月開始を目標に、約2週間でオンライン学習/授業の準備を進めてきた。うちの子供の学校の場合、まず生徒の家庭にあるデバイスとインターネット環境の調査から始まった。ただ「接続できる」というだけでは不十分だ。出欠報告のために朝8時半、学校で朝の会が行われる時間にログインし、学習素材を受け取って質問やコメントのメッセージをやり取りし、そして午後2時半に帰りの会に参加する。そんなインターネットアクセス環境が必要になる。調査が終了したら、パソコンやタブレットがない家庭に普段クラスで使っているデバイスを貸与するプログラムを用意、オンラインカリキュラムを作成、先生をトレーニングし、デバイスの貸し出しを開始して4月1日を迎えた。ちなみにうちの子供の小学校でオンライン学習に必要なデバイスは、1〜2年生が「iPad推奨またはPC(デスクトップブラウザ)」、3年生以上が「Chromebook推奨またはPC(デスクトップブラウザ)」となっている。

  • 学校区がメール、電話、テキストメッセージで全家庭に連絡し、インターネットアクセスと子供の学習用デバイスが必要な家庭を調査

    学校区がメール、電話、テキストメッセージで全家庭に連絡し、インターネットアクセスと子供の学習用デバイスが必要な家庭を調査

その準備の過程で送られてきたのが冒頭のメールである。FCC (連邦通信委員会)によると、米国では210万人が高速なインターネットアクセスを利用できない状態にある。うちの子供の学校区にそうした家庭はなかったようだが、携帯電話でしかインターネットにアクセスできない家庭が存在することが明らかになった。また、高速インターネット回線があっても接続できるパソコンを家族で共有している家庭もあり、兄弟・姉妹のいる子供がそれぞれのデバイスでオンライン学習したり、子供と家族がネット接続を自由に共有するには無線ネットワークがあるのが望ましい。必須ではないが、希望する家庭にWi-Fiルーターなどを貸し出している。

うちの子供の学校区は、高速インターネット回線を普段からライフラインと考えている家庭が比較的多いと思うが、それでも一筋縄ではいかなった。リファービッシュドPC (修理・整備再生PC)を子供達に提供するComp-U-Doptというテキサス州の非営利組織によると、新型コロナウイルスの拡大で需要が高騰し、デバイスの抽選に2日間で24,000家庭から申し込みがあったという。そのうちの88%は世帯年収が50,000ドル以下の家庭だった。全米規模で見たら、公立学校によるオンライン学習のあるべき提供をわずか2週間で実現できる学校区の方が少ない。

オンライン学級が始まって数日。通常の学校の代わりになっているかというと、言いたいことが山ほどある。でも、始まったばかりなのだから、今は黙って改善に協力していこうと思う。

現状を肯定的に解釈すれば、「公立学校によるオンライン学習/授業」が必要になったことで、高速インターネット接続が全ての家庭に行き渡る目標にこれまでになく前進している。ネガティブに解釈したら、今は「特別な時期」の前進だということ。準備期間には「数ヶ月のためだけにオンライン学習の環境を整える必要はない」「オンラインでなくてもできることはある」という意見が少なくなかった。たしかに、今は親も自宅にいる時間が長いのだから、親が先生の代わりになれば良いのだ。でも、オンライン学級によって学校と教育の可能性が広がるなら今試してみるだけの価値がある。オンライン学習/授業が可能な環境だと、普段から子供の学校の様子 (授業の内容や発表様子など)を把握できるし、先生と保護者、学校と家庭がスムースに情報を共有できる。今のオンライン学級が非日常時の緊急対策で終わらず、日常を取り戻せた時に大きなプラスになるような価値のある体験になって欲しいと思う。