トランプ政権がメキシコとの国境の壁の建設を進めるための「非常事態」を宣言したが、その際にサラ・サンダース報道官が政府声明の内容を下のようにTwitterでも公表した。iPhoneの「メモ (Notes)」からのスクリーンショットを使っている。

  • トランプ政権のサラ・サンダース報道官の2月14日のツイート「Statement on Government Funding Bill」

    サラ・サンダース報道官の2月14日のツイート「Statement on Government Funding Bill」

メモ・アプリの画面をキャプチャした画像をツィートに貼り付けたメッセージは「テキストは280文字以内 (2017年11月までは140文字)」という制限を超えた長文をツィートするためである。Twitter使いの人たちにはおなじみのテクニックだが、2015年にアリアナ・グランデが「ドーナッツ騒動」を謝罪するメッセージに用いてから米国では使われ方が変わってきた。国境の壁建設のような厳しい状況にある場合に、人々に直接、真摯なメッセージを届ける手法になっている。

例えば、今年1月にR.ケリーの未成年を含む複数の女性への性的暴行の疑惑が報じられた際に、R.ケリーと度々コラボレーションしてきたレディ・ガガが性的暴行被害者を「1,000%サポートする」と明言、怒りと後悔のコメントをTwitterで公表した。

  • レディ・ガガの1月9日のツイート「I stand by anyone who has ever been the victim of sexual assault」

日本に関連したところだと、昨年1月、青木ヶ原の樹海で遺体動画を撮影して大批判を浴びたユーチューバー、ローガン・ポールがTwitterに「メモ」アプリからのスクリーンショットの謝罪文を掲載した。

  • 2018年元日のローガン・ポールのツイート「Dear Internet,」

他にも、テイラー・スイフト、Drake、アーミー・ハマー、ケンダル・ジェンナー等々、メモ・アプリの画面キャプチャを使って声明文を公表した例は枚挙に暇がない。ツイートの文字数制限対策なら、長文を細切れにして連続してツイートする方法もある。連続ツイートならテキストなので検索の対象にもなる。それでもメモのスクリーンショットが好まれているのは、よりパーソナルで直接的なメッセージを演出できるから。日本人が手書きに感じるものに近いと言える。

だから、より親密な感じになる話し言葉のような文章にするのは大丈夫でも、見た目が整っていないと真摯な気持ちが伝わらないのでNGだ。中にはPCかタブレットのワープロ画面のキャプチャと思われるメッセージもあるが、レターサイズの手紙の縮小版のようで読みにくい。スマートフォンからのスクリーンショットはパーソナル感を演出できる上にモバイル端末で読みやすい。ただし、本文のフルスクリーンのキャプチャでなければならない。ツールバーとかをキャプチャ画像に含めると「書きかけ」感が出てきて嫌われる。

その点、iOS標準の「メモ」アプリはオフホワイトのバックグラウンドで文字がキレイで読みやすく、フォントもふざけすぎず、かた過ぎず、バランスが良い。謝罪文、謝罪の受け入れ、説明責任、フリーエージェントの移籍先発表など、あらゆるメッセージに対応してくれる。その使い勝手の良さからか「iPhoneのメモ」の使用率が圧倒的である。

もちろん、Twitterで読みやすく、メッセージの内容にふさわしいデザインであるという条件を満たすなら「メモ」アプリでなくても構わない。1月9日にAmazonのジェフ・ベゾスCEOが離婚を明らかにした際に、Twitterで下のようなメッセージを公表した。ひと月後にベゾスCEOは女性問題を巡って米タブロイド紙から"政治的な意図"を含む脅迫を受けていたことを公表、タブロイド紙を強く批判した。今ふり返ると"私的な問題"を超えた決意を含む離婚の公表だった。それもあってか、ベゾスCEOはタイプライターで打ったようなドキュメントを用いている。

  • ジェフ・ベゾスCEOの1月9日のツイート、画像メッセージのみ

逆に「メモ」アプリだったら大丈夫というわけでもなく、2016年にテイラー・スイフトがキム・カーダシアンとカニエ・ウェストとの騒動について語ったメッセージは公開してすぐに内容が評価されたものの、左上のボタンが「検索」となっているのを指摘された。つまり、"語った"のではなく、入念に用意したいくつかの原稿の中から状況を見て採用したと疑われて評価が一変した。サンダース報道官の政府声明ツイートにしても、文章の中にマークアップの黒点が入り、そのまま残ってしまっている。iOS 12でスクリーンショットを撮る際にちょっとした誤タップで入ってしまう黒点であり、個人のメッセージならうっかりミスで受け入れられそうだが、内容が政府声明だと「ケアレス!」と手厳しい反応が返ってくる。程よくやわらかいメッセージが好まれるとはいえ、油断は禁物。「慎重にやわらかく」が肝要だ。

サンダース報道官が「メモ」アプリ+Twitterを使ったのは今回が初めてではない。ただ、今回はニュース速報が出るような発表だっただけに瞬く間に拡散され、重大発表にTwitterも利用したことも話題になり、スクリーンショットの長文ツイートが世代を超えて認識されるきっかけになった。

この手法は多くの人達に直接、そしてリアルタイムでメッセージを届けられる。でも、それはプレスやアナリストといった報道の門番を迂回することを意味する。また、これまでセレブのゴシップやトラブルの話題の火消しに使われてきたような歴史から「真摯さを演出している」というイメージもあり、政府声明に用いるのは不適切と見る向きもある。ただ、根拠なくパフォーマティブと断じるのは、それも色メガネな見方だ。個人的には、政府からのメッセージに直接触れる良い機会になっていると思う。その上で様々なメディアの反応を吸収できる、健全な議論の起点になっているという印象だ。