スーパーボウル前の金曜日、学校に子どもを迎えに行ったら、子ども達の間であるライブが話題になっていた。スーパーボウルのハーフタイム・ショーのことかと思ったら、そうではない。土曜日に行われるマシュメロ (Marshmello)のライブに「絶対に行かなきゃ!」と興奮気味に話していた。

「行かなきゃ」といってもリアルな世界のライブではない。社会現象化しているバトルロイヤルTPSゲーム「Fortnite」の中で2日に行われたイベントだ。マシュメロは、白いゴミ箱みたいな仮面をかぶったEDMアーティスト。作曲できるDJだ。

  • Marshmelloライブの告知、一般的には「プレザントパークってどこ?」だが、Fortniteプレイヤーにはその情報だけで十分

    Marshmelloライブの告知、一般的には「プレザントパークってどこ?」だが、Fortniteプレイヤーにはその情報だけで十分

子どもの間で話題といっても、所詮ゲーム内での10分程度のイベント (スーパーボウルのハーフタイムショーは15分弱)、大したインパクトはないと思うかもしれない。バーチャルな世界でのコンサートは古くはSecond Lifeが注目され始めた頃からあったが、私が知る限り、ライブと言うにはおそまつなものばかりである。

だが、Fortnite x マシュメロは違った。その時間に私もFortniteにもぐってみたら最高のイベントを体験できた。

イベントには1,000万人のプレイヤーが接続したそうだ。さらにTwitchやYouTube Liveなどで視聴した人がたくさんいる。ちなみにリアルなライブでの単独アーティストによる観客動員数の記録は、ロッド・スチュワートが1994年大晦日にリオデジャネイロで行った無料ライブの約350万人だ。

マシュメロのライブの参加者は観客ではなく視聴者という人もいるだろう。たしかに、そこは判断が難しい。ただ、マシュメロがYouTubeで公開しているビデオも後で見たが、Fortniteのプレイヤーとして参加した時のような高揚感は得られなかった。見るのと参加するのでは体験が全く異なるから、個人的には参加者を観客と呼びたい。

イベントは録音ではなく、文字通りライブだった。通常のコンサートと同じようにマシュメロがコントロールし、観客がレスポンスする。プレイヤーの1人として参加すると、リアルなライブと同じように飛んだり踊ったりできる。観客の上に大きな風船を落とすような演出もリアルタイムで行われたそうだ。何が起こるか分からないライブとして組み立てられていたから、参加した人は観客感覚で感覚で楽しめた。

  • Marshmelloのライブでは白いボールが観客席に落とされるが、Fortniteライブでは黄色いボールが飛び跳ねた

Fortniteライブ後にストリーミング回数が24,000%増

Billboardによると、マシュメロがイベントで演奏した「Check This Out」は、イベント後に1日のオンデマンド・ストリーミング数が24,000%も増加した。「Chasing Colors」は22,547%増で、曲のセールが1,543%増だった。マシュメロのTwitterのフォロワーは前週から2,000%以上増加、メンションも1,000%以上の増加だった。ライブを体験した1人として、イベントに参加した人や、参加している人のYouTube Liveなどを見た人が、その勢いでマシュメロの曲を再生したり、買ってしまった気持ちはよくわかる。

マシュメロの10分程度のライブ・イベントが、スーパーボウルを意識したものであるのは明らかだ。スーパーボウルCMは広告費が世界最高額。それだけ注目され、高視聴率をたたき出すコンテンツである。ハーフタイム・ショーにもそれにふわさしいエンターテイナーが選ばれ、毎年大きな話題になる。今年のハーフタイム・ショーはマルーン5が務めた。

40代以上の多くは、マシュメロのFortniteイベントのことを知らない。放課後の小学校で、大人達はスーパーボウルのハーフタイム・ショーの話をしていた。でも、テレビ世代の国民的娯楽であるスーパーボウルは、昔のように子どもから大人まで等しく話題にするようなイベントではなくなっている。子ども達のスーパーボウルに対する関心は昔より薄く、Fortniteでライブがあるなら10歳の子ども達はそっちに興味を惹かれるのだ。

視聴者数を比べたら、スーパーボウルの方がマシュメロのイベントより圧倒的に多い。しかし、マスである。音楽ライブに行く人がeスポーツに興味を持つ可能性は、行かない人より69%も高いそうだ。eスポーツのファンがもっとも関心を持っている娯楽がゲームであり、ゲーム内でライブを提供することで、アーティストは音楽ライブに興味を持つ人をターゲティングできる。EDMのような若い層に人気のあるジャンルは、特に効果を期待できる。一般的には知られていなくても、今回のイベントを通じてマシュメロはネットでの存在感を大きく高めた。

今日のネット社会では、若い層が使う新しいプラットフォームを攻略しないと、若い世代の音楽ファンにはリーチできない。Fortnite x マシュメロはスーパーボウルにイベントをぶつけることで、それを証明した。

Fortniteは誰でも無料で遊べる。コスチュームやエモート、グライダーなどをショップで販売しているが、それらはゲームの強さには影響しない。見た目をカスタマイズする単なるスキンであり、勝つために購入する必要はない。そしてPC、据え置き型ゲーム機、タブレット/スマートフォンなど、あらゆるデバイスで遊べるクロスプラットフォームであり、カジュアルゲーマーからハードコアゲーマーまで、子どもから大人まで楽しめるようにデザインされている。それによって世界中でたくさんのプレイヤーの参加を得ているのがFortniteの強みになっている。

ユーザーが増えるほどサービスの価値が上がり、ユーザーがより長い時間をFortniteで過ごすようになる。Fortniteはゲームだけど、今や単なるゲームではない。例えば、友人とボイスチャットで話す交流機能は、ゲームのためのコミュニケーションを超えて、ソーシャルメディアにとって脅威になろうとしており、GoogleやFacebookから広告主を奪っていく可能性も指摘されている。2月初めにNetflixが2018年10~12月期決算を発表した際に、CEOのReed Hastings氏が脅威になる娯楽のライバルとして異業種のFortniteを挙げた。それは的外れな指摘ではない。実際、今年Fortniteは米国で長年、紅白のような国民的娯楽であり続けたスーパーボウルのハーフタイム・ショーから人々の関心を奪ってみせたのだ。