空を駆ける世界大会「レッドブル・エアレース」の2018年シーズン第1戦、アブダビ大会。昨年、初の年間チャンピオンに輝いた室屋義秀選手は2位に入賞し、2年連続チャンピオンの夢へまずまずのスタートを切った。そんな大会の模様を、室屋選手のコメントを追いながら2回に分けて予選の様子から各ラウンドごとの様子まで、詳しくお伝えしよう。

昨年のアブダビ戦では、本戦初戦のラウンド・オブ14で敗退。0ポイントでスタートしたことが最終戦まで響いてしまった室屋選手。「アブダビは(例年)初戦なので、シーズンオフの間の改造が試される場所。飛んでみるまでは成功か失敗かわからない。大きく変えなければ失敗もないが、我々はチャレンジングなチームだ」と、攻めの姿勢ゆえの初戦の難しさを強調した。

上か横か? 宙返りがカギを握る高速コース

レッドブル・エアレース第1戦アブダビ大会のコースは東西に広がる長方形の海面上で、西端では宙返りのループ、東端では180度の左旋回をする形で2往復する。

  • アブダビ大会のコース

    アブダビ大会のコース。左側の宙返りと右側のターンがポイントとなる。なお筆者撮影の写真はコース向こう側から撮っているため、左右が逆になっている (C)Red Bull Content Pool

「コースはシンプルだけどライン取りの選択肢が多い面白いコース。宙返りはまっすぐ回ってもいいし、右にフラットに回ってもいい。面白い選択肢があってパイロットのテクニックや好みによっていろんな展開がある」

  • 1回の練習飛行の中の2回の宙返りで、別のコースを試した室屋選手
  • 1回の練習飛行の中の2回の宙返りで、別のコースを試した室屋選手
  • 1回の練習飛行の中の2回の宙返りで、別のコースを試した室屋選手。後ろのビルと比較すると、宙返りの頂点の高さが全く異なることがわかる (C)大貫剛

室屋選手がそう語るように、公式練習では各選手の試行錯誤がみられた。機首をまっすぐに引き起こせば、空高く上昇して次のゲートへ急降下する。引き起こしと同時に右へひねり、横倒しの斜め宙返りで低く回って次のゲートへ進入することもできる。室屋選手もまっすぐな宙返りから大きく横にひねった宙返りまで、いくつかのパターンを試していた。

  • 新シーズン開幕を迎えて、万全な準備状況を強調する室屋選手

    新シーズン開幕を迎えて、万全な準備状況を強調する室屋選手。そのレース予測はことごとく的中し、作戦通りの展開だったことをうかがわせた (C)大貫剛

そして迎えた予選のフライトで、室屋選手をはじめとする多くの選手は、まっすぐ高く上昇する宙返りを選んだ。この結果、室屋選手のタイムは53.404秒。14選手中3位となった。一方、ひときわ大きく横にひねった宙返りを選んだマティアス・ドルダラー選手(ドイツ)は52.795秒で1位。横にひねった方が速いのではないか? という気がするが、「うまくやると、マティアスがやったように速いです。でも宙返りの最中に左右にターンを入れるなど操作が忙しくなるので、失敗してペナルティを受けるリスクも高くなる。(自分の機体は)充分スピードがあるので、そこまでしなくてもいい。とはいえリスクを避けて飛んで勝てるほど甘くはありませんから、どこまでコントロールするかが勝負」(室屋選手)と、チームを信頼して確実なコースを選びつつ、その限界を極めることを明言した。

  • 宙返りの引き起こしより早く右へひねるドルダラー選手

    宙返りの引き起こしより早く右へひねるドルダラー選手 (C)大貫剛

  • 室屋選手も3位の好タイムで予選をスタート

    室屋選手も3位の好タイムで予選をスタート (C)大貫剛

  • 記者会見で笑顔を見せる室屋選手
  • 記者会見で笑顔を見せるドルダラー選手
  • 記者会見で笑顔を見せる室屋選手とドルダラー選手 (C)大貫剛

室屋選手が3位になったため、本戦のラウンド・オブ14の対戦相手は12位(最後から3番目)ピート・マクロード選手(カナダ)になった。マクロード選手は昨年3位の強豪選手だが、予選ではペナルティで順位を落としていたのだ。予選の最後に飛ぶ室屋選手は、4位になればいきなりマクロード選手と当たらずに済んだのだが、室屋選手とマクロード選手のどちらかが初戦敗退という厳しい組み合わせになってしまった。しかし室屋選手は「年間チャンピオンシップを考えればラウンド・オブ14で当たるのも悪くない。どっちにしろタイムを出して勝ち抜きます」と、マクロード選手に差をつけるチャンスという見方を示した。

  • ベン・マーフィー選手(イギリス)は初出場ながら14選手中9位

    ベン・マーフィー選手(イギリス)は初出場ながら14選手中9位 (C)大貫剛

予選1位のドルダラー選手は2016年の年間チャンピオンだったが、2017年はペナルティが多く、7位に終わった。「去年はプレッシャーがすごかった。ペナルティを受けたのは、プレッシャーが原因だ」と年間チャンピオンの重さを語るドルダラー選手は、室屋選手とはエアレース参戦同期の親友。今年そのチャンピオンのプレッシャーを受けるのは室屋選手だが、「ヨシ(室屋選手)は大丈夫だ。彼は良いチームにも恵まれているしね」と、親友に太鼓判を押した。

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  • 日本メディアの質問に答える室屋選手の背後から乱入する「親友」ドルダラー選手 (C)大貫剛

(次回は2月10日に掲載します)