大法人(資本金が1億円超の株式会社等)の電子申告の義務化は、すでに法制度として決定され、2020年4月1日以降開始事業年度より、法人税、法人住民税・事業税、消費税について、電子申告による提出が義務付けられることになっています。災害などのやむを得ない理由もなく、大法人が申告書類を電子データで送信しなかった場合は、無申告扱いとなり、無申告加算税が課されることになります。

この電子申告の義務化は、大法人での電子申告100%を目指すものです。中小企業に対しては、当面、国税85%、地方税70%を目指すとしつつ、将来的には義務化も構想されています。

こうした方向性のもと、税務行政の電子化に関しては、義務化を達成するため、かつ、全体として電子申告の利用率を向上させるために、様々な利便性向上策が講じられようとしています。

今回は、これらの利便性向上策について見ていきましょう。

電子申告の現状を整理する

税務における電子申告は、国税のe-Tax(国税電子申告・納税システム)と、地方税のeLTAX(地方税ポータルシステム)によって、運用されています。

(図1)は、e-Tax利用率の推移をグラフにしたものです。

(図1)は利用率で表現されていますが、実数ベースで見ていくと、法人税の申告数は28年度2,085,431件、29年度2,128,054件(e-Taxの利用件数)となっており、利用数は29年度も伸びています。

一方のeLTAXの利用数を見ていくと、法人地方税の都道府県提出分が28年度2,565,732件、29年度2,794,606件、市町村提出分が28年度2,679,969件、29年度2,898,096件(eLTAXの利用件数)となっており、こちらも利用が伸びているのがわかります。

地方税の方が実数ベースで多いのは、一法人でも事業所が複数の都道府県や市町村にある場合、本店所在地だけでなく、それぞれの事業所所在地にも申告書を提出するためです。 e-Taxだけで見れば、29年度で法人税の利用率は80%を超えてきており、中小企業で目標とする利用率85%も、そう遠からず実現できるのではないかと考えられますが、伸び率が鈍化していることも事実です。

そのため、国税および地方税については、大法人の電子申告義務化だけでなく、全体として電子申告の利用率を向上させるため、様々な利便性の向上策を打ち出してきています。

今後実施予定の利便性向上策

今年3月に公表された財務省および総務省の『「行政手続コスト」削減のための基本計画』から、e-TaxおよびeLTAXの、今後計画されている主な利便性向上策をまとめたのが(表1)です。

(表1)e-Tax・eLTAXの主な利便性向上策

e-Tax eLTAX
電子申告改善策 送信容量の拡大(2019年1月実施予定) 送信容量の拡大(2019年9月実施に向けて検討)
受付時間の拡大(2019年1月実施予定) 受付時間の拡大(2019年9月実施予定)
法人番号入力による名称等自動反映(2019年4月実施予定) 法人番号入力による名称等自動反映(2019年9月実施予定)
メッセージボックス閲覧方法改善(法人) (2019年3月実施予定) メッセージボックス閲覧方法改善(2019年9月実施予定)
勘定科目内訳書記載内容の簡素化(2019年4月実施予定) 複数団体への法人設立届出書等の提出一元化(2019年9月実施予定)
勘定科目内訳書等データ形式柔軟化(2019年4月実施予定) 団体間の地方法人二税の入力事務の重複排除(2019年9月実施予定)
財務諸表データ形式柔軟化(2020年4月実施予定) 異動届出書提出時利用者情報への自動反映(2019年9月実施予定)
個人の認証手続の簡便化(2019年1月実施予定) 利用可能文字の拡大(2019年9月実施予定)
納税 予納制度へのダイレクト納付の適用(2019年1月実施予定) 共通電子納税システムの導入(2019年10月実施予定)
コンビニ納付の利用手段の拡充(2019年1月実施予定)
共通 法人の開廃業、異動等申請・届出の提出一元化(2020年3月実施予定)
法人税及び法人地方税の入力事務の重複排除(2020年3月実施予定)
財務諸表の提出先一元化(2020年4月実施予定)
e-TaxソフトとeLTAXソフト(PCdesk)との連携推進(2020年3月実施予定)

利便性向上策から見えてくるもの

(表1)にあげた利便性向上策のすべてが、大法人の電子申告義務化を意識したものではありません。ただし、送信容量の拡大や、法人税の添付書類となる勘定科目内訳書や財務諸表に関する改善策は、大法人の電子申告義務化を意識したものといえるでしょう。

この勘定科目内訳書や財務諸表で、「データ形式柔軟化」としているのは、CSV形式での提出を可能とするということです。

これまで、勘定科目内訳書や財務諸表は、国税庁が仕様公開したXML形式やXBRL形式で提出しなければなりませんでした。そのため、勘定科目内訳書を表計算ソフトで作成している場合や、電子申告に対応していない会計ソフトで財務諸表を作成している場合は、法人税申告書は電子申告しても、勘定科目内訳書や財務諸表は別途書面で提出するケースが多々あります。

電子申告の義務化は、こうした添付書類も含めて100%電子化を目指すものでもあります。もともと「行政手続コスト」削減のための施策として、電子申告の義務化が実施されるわけですから、添付書類も含めた100%電子化が実現しなければ、コスト削減も覚束ないことになります。

添付書類も含めた100%電子化を達成するために、これまでの電子申告で、書面で提出されることが多い勘定科目内訳書や財務諸表について、CSV形式での提出を認め、それを作成するための雛形も、国税庁が提供するとしています。

今のところ、電子申告の義務化以降でも、法人税申告書のみを電子申告し、勘定科目内訳書や財務諸表を書面で提出したとしても、法的には、無申告扱いにはなりません。ただし、こうしたケースでは何らかの行政指導が行われると予想されます。

そして、こうした行政側の考え方は、やがて大法人だけでなく、中小企業にも及んでくると考えられます。中小企業の場合は、ほとんどが税理士に法人税の申告を委嘱しています。そして、電子申告する場合は、税理士が代理送信することで、ここまで電子申告の利用率を伸ばしてきました。

税理士の立場で、この大法人の電子申告義務化を考えると、顧問先企業で資本金1億円超の企業の法人税申告を請け負っている場合は、その企業の申告については、必ず電子申告しなければならないことになります。そして、添付書類も含めた100%電子化した状態で電子申告しなければ、行政指導を受けることになります。

税理士がメインに担う中小企業の法人税申告においても、今後は同じような指導が行われていくことが予想されます。

国税庁の立場からすると、そのために、勘定科目内訳書や財務諸表の「データ形式柔軟化」を実施し、雛形まで提供するとしていますので、「会計ソフトが電子申告に対応していないから財務諸表は書面で提出する」といった言い訳は通用しなくなると考えておいたほうが良いでしょう。

法人が自ら電子申告する場合、税理士が代理送信で電子申告する場合、いずれのケースにおいても、現状で財務諸表などの電子申告に対応していない会計ソフトを使用している場合は、国税庁が提供するCSV形式の雛形を利用するのか、財務諸表などの電子申告に対応している会計ソフトに切り替えるのか、電子申告義務化を見据えて、考えておく必要があります。

個人事業者の電子化施策について

個人の場合は、(表1)にある「個人の認証手続の簡便化」などが、主な利便性向上策になります。これについては、来年の1月から実施するということから、e-Taxのホームページでも、「e-Tax利用の簡便化の概要」(http://www.e-tax.nta.go.jp/kanbenka/index.htm )として、Q&Aも含めて、その内容が公開されています。

大きく変わる点としては、(図2)に示されているように、今までは電子申告に際して、e-TaxのID・パスワードに加えて、マイナンバーカードも必要でしたが、どちらか一方のみ準備すれば良いようになります。

この(図2)の通り、マイナンバーカードを取得していれば、e-TaxのID・パスワードなしで所得税の電子申告ができます。一方、マイナンバーカードを取得していない場合は、税務署に出向き、その場でe-TaxのID・パスワードを取得すれば、マイナンバーカードなしでも所得税の電子申告ができます。

個人の所得税の申告は、個人事業者よりも給与所得者や年金受給者が医療費控除などを受けるために申告するケースが数としても多いのが実態です。(図2)のe-Tax利用の簡便化は、これらの個人で、まだ電子申告していない個人を電子申告させるための施策と言えます。ITスキルがある程度ある人は、「マイナンバーカード方式」へ、そうではない人は「ID・パスワード方式」へと向かうのではないかと考えられます。

「e-Tax利用の簡便化の概要」ページでは、そのほかに、「スマホ等で申告」できることが紹介されています。給与所得者(年末調整済み)で、医療費控除又はふるさと納税などの寄附金控除を適用して申告する人に限定されますが、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」で、スマホまたはタブレットで申告書が作成でき、ID・パスワード方式でマイナンバーカードなしで、電子申告までできます。

ただし、ID・パスワード方式でマイナンバーカードなしで電子申告する場合は注意が必要です。「e-Tax利用の簡便化の概要」ページに掲載されている「メッセージボックスのセキュリティ強化」という施策も、同時に実施されるからです。

「メッセージボックスのセキュリティ強化」では、これまでID・パスワードでログインして閲覧できていたメッセージボックスが、マイナンバーカードの電子証明書がないと閲覧できない仕組みに変更になります。

「メッセージボックスのセキュリティ強化」は、医療費控除などで還付を受ける個人の場合は、あまり問題にならないかもしれません。ただし、個人事業者で税理士に所得税の申告を委嘱し、税理士が代理送信で電子申告している場合、これまでは、個人のメッセージボックスに送られてくる「申告のお知らせ」をID・パスワードで取得し、税理士に渡しているようなケースでは、個人事業者がマイナンバーカードを取得していなければ、税理士に「申告のお知らせ」を渡すことができず、これまでのようにスムーズに代理送信することができなくなってしまいます。

そこで、「申告のお知らせ」の転送設定という機能が用意されることになっています。来年1月以降、e-Taxの新たな機能として、納税者が本人のメッセージボックスに格納される「申告のお知らせ」を、納税者が指定する税理士のメッセージボックスに転送することを設定できる機能を実装するとしています。これまでのように、個人事業者の「申告のお知らせ」を入手して、スムーズに所得税の代理送信をするためには、税理士は、来年1月にこの転送設定作業をする必要があります。

なお、まだ先のことではありますが、個人事業者については、2020年分の所得税の申告から、青色申告特別控除額が変更になります。これは、基礎控除額が変更となることに伴う措置ですが、(図3)の通り、基礎控除額が10万円アップすることに伴い、青色申告控特別除額が現状の65万円から55万円にダウンし、控除額総額では103万円と変わらないことになります。ただし、(図3)に示されている通り、電子申告または電子帳簿保存を行うことにより、従来通り65万円の青色申告控特別除を受けることができます。

2020年分の所得税確定申告では、電子申告した方が、10万円控除額が多くなるというわけです。

大法人の電子申告義務化に伴う利便性向上策、個人のe-Tax利用の簡便化、さらには個人事業者向けの青色申告控特別除の特典など、税務行政の電子化を進めるための施策が、次から次へと打ち出されています。

今回見てきた、様々な施策が、実際にどれくらいの効果を上げていくのかは、まだわかりませんが、デジタル・ファーストを実現するための歩みとして、税務分野では電子申告の利用率を上げるための施策が、着々と進められていくことは、間違いありません。

利用する側にとって、本当に便利な仕組みになるよう、今後実施予定の施策に注目していきたいと思います。

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 最高顧問
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。現在は、同社最高顧問として、マイナンバー制度やデジタル行政の動きにかかわりつつ、これらの中小企業に与える影響を解説する。