今年もまた、「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が、6月15日閣議決定され、公表されました。去年は、「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」として公表されていましたが、今年は「IT国家」が「デジタル国家」に置きかわり、内容も変更されています。

今回は、この「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」を、見ていきましょう。

「世界最先端デジタル国家創造宣言」の基本的な考え方と内容

「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」は、その名称通り、「第1部 世界最先端デジタル国家創造宣言」、「第2部 官民データ活用推進基本計画」と大きく2部構成となっています。

「第1部 世界最先端デジタル国家創造宣言」は、以下のような構成になっています。

I. 基本的考え方
II. ITを活用した社会システムの抜本改革
III. 抜本改革を支える新たな基盤技術
IV. 抜本改革推進のための体制拡充と機能強化

「抜本改革」をキーワードに、「世界最先端デジタル国家創造」に向けた取り組みの考え方を示す内容になっています。

これに対して、「第2部 官民データ活用推進基本計画」は、

I. 官民データ活用推進基本計画に基づく施策の推進
II. 施策集

という構成になっており、第1部で掲げられた「ITを活用した社会システムの抜本改革」の実現に向けた具体的な計画を示す内容になっています。

まず、このなかから、「世界最先端デジタル国家創造宣言」の「基本的考え方」を見てみましょう。

最初に、これまでの国としてのIT戦略の歩みを振り返り、「国際的にIT国家としての日本の位置付けを見ると、モバイルブロードバンド普及率やインターネット速度等で上位となるなどインフラ整備面では力強いデータがある。他方、電子政府やオープンデータについては、徐々に改善しているものの、更に上位を目指す余地が残されており、行政手続のオンライン利用を含め、IT・データ利活用の面で官・民が共同で取り組むベき課題は多い。 」と、現状認識を示しています。実際に電子政府の世界のランキングでは、日本は11位(UN E-Government Survey 2016)と、世界最先端とは言えないランクにいます。

では、そういう現状認識のもと、何をしてきたかということで、「基本的考え方」で示されているのは、「官民データ活用推進基本法」(平成28年法律第103号)の施行や、 「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」(平成29年5月30日閣議決定)の策定、 「IT新戦略の策定に向けた基本方針」(平成29年12月22日IT総合戦略本部・官民データ活用推進戦略会議決定) の策定、「デジタル・ガバメント実行計画」(平成30年1月16日eガバメント閣僚会議決定)の策定など、言葉をいろいろ変えながら出されてきた方針や計画ばかりです。要は、この2年間あまりで、世界最先端のデジタル国家への歩みは、方針や計画づくりに留まり、大きなトピックになるような進展を作り出せなかったことを、自ら物語っています。

本来ならば、導入から3年目を迎えるマイナンバー制度が、国民一人一人にユニークな番号を振ることで、その後の行政手続きの電子化や、それに伴う国民の利便性の向上にも大きく寄与するはずでしたが、現状では、眼に見える成果を出しているとは言えず、そのためか、この「基本的考え方」では、取り上げられてもいません。

「基本的考え方」では、「世界最先端デジタル国家創造宣言」の目指すところを、以下のように示しています。

「今般のIT新戦略は、「世界最先端デジタル国家」の創造に向け、政府自らが徹底的にデジタル化に取り組む行政サービスのデジタル改革を起点として、地方公共団体や民間部門を通じた「ITを活用した社会システムの抜本改革」を断行し、サイバーセキュリティの確保を図りつつ、ITを最大限活用した簡素で効率的な社会システムを構築し、国民が安全で安心して暮らせ、豊かさを実感できる社会を実現することを目指す。」

これだけを見ると、これまで様々に形を変えて出されてきた、方針や計画で言われてきたことと、何ら変わりはありません。今回の「世界最先端デジタル国家創造宣言」が、これまでと違った面を見せているとすると、これに続く以下文書で述べられているところです。

「具体的には、デジタル技術を徹底的に活用した行政サービス改革の断行に向けて「デジタルファースト法案(仮称)」を速やかに国会に提出する。また、これまでの成果を「地方デジタル化総合パッケージ」として地方へ横展開する地方のデジタル改革、「データの安心提供と安心利用を両立させるルールづくり」をはじめとした民間部門のデジタル改革を推進する。さらには、政府・地方・民間全てを通じたデータ連携、サービスの融合により世界を先導する分野連携型「デジタル改革プロジェクト」に重点的に取り組む。」

デジタルファーストを実現する「デジタルファースト法案(仮称)」とは

新たに示されているものの一つは、デジタル技術を活用したデジタル行政サービスを実現するために、「デジタルファースト法案(仮称)」として法制度化するということです。すでに、「官民データ活用推進基本法」で、行政分野でのデジタルファースト、コネクテッド・ワンストップ、ワンスオンリーの3原則が掲げられていますが、これらに対する取り組みを法制度として強化するために「デジタルファースト法案(仮称)」が制定されることになるようです。

「デジタルファースト法案(仮称)」については、「ITを活用した社会システムの抜本改革」の「行政サービスの100%デジタル化」の項でも、以下のように取り上げられています。 「利用者中心の行政サービスを提供するため、デジタル化の3原則(デジタルファースト、ワンスオンリー及びコネクテッド・ワンストップ)に沿った行政サービスの実現に向けた基盤の整備が必要である。行政手続等における オンライン化の徹底及び添付書類の撤廃等を実現するため、「デジタルファースト法案(仮称)」を速やかに国会に提出する。」 デジタルファーストを実現するための「デジタルファースト法案(仮称)」が、どれだけの強制力を持って、政府の各府省庁の取り組みを促進することができるかは、法案の内容や各府省庁の今後の計画を見てみないとわかりませんが、政府の指導力が試されることになります。

地方のデジタル改革の課題

次に、政府が実現してきた成果を地方に横展開するために、「地方デジタル化総合パッケージ」という考え方が示されています。これまで出されてきた方針や計画でも、地方公共団体における取り組みのばらつきが課題になってきましたが、その課題を克服するものとして「地方デジタル化総合パッケージ」という考え方が、示されているのかと思いきや、ちょっと違っているようです。

「ITを活用した社会システムの抜本改革」の「地方のデジタル改革」という項では、以下のような項目が並んでいます。

1.IT戦略の成果の地方展開
2.地方公共団体におけるクラウド導入の促進
3.オープンデータの推進
4.シェアリングエコノミーの推進
5.地域生活の利便性向上のための「地方デジタル化総合パッケージ」

「IT戦略の成果の地方展開」では以下のような、びっくりするような事実が示されています。

「官民データ活用推進基本法」では「都道府県は官民データ活用の推進に関する施策の基本的な計画(「都道府県官民データ活用推進計画」)の策定が義務付けられ、市町村(特別区を含む。以下同じ。)は官民データ活用推進に関する 施策の基本的な計画(「市町村官民データ活用推進計画」)の策定に努めること (努力義務)と定められている。」が、全国の市町村の8割で、計画策定の検討すら行なっていないということです。事業者にしても個人にしても、行政手続きの多くは市町村に対するものになります。

では、全国の市町村の8割で、計画策定の検討すら行なっていないという事態に対して、「IT戦略の成果の地方展開」が、何を意味しているかというと、「地方公共団体が計画を策定する際に、国のIT戦略推進の成果を取り込 みやすい環境を整備するため、政府CIOの訪問等により、これまでの取組の普及展開を行う。あわせて、自治体CIOの育成を図る既存の研修プログラム等に政府CIO補佐官等を派遣すること等により、地方公共団体における人材育成の支援を行うなど、国の取組の浸透を図る。」としています。全国の市町村の8割で、計画策定の検討すら行なっていないという事態の根底にある課題は、地方公共団体においてIT化に取り組む人材不足だと思われますので、上記の施策はある程度意味があるとは思いますが、「IT戦略の成果の地方展開」というほどの意味があるとは思えず、またその効果が現れるまでの時間を考えると、いかにもスピード感に欠ける考え方と言わざるをえません。

この項で、その後に続く、「地方公共団体におけるクラウド導入の促進」、「オープンデータの推進」、「シェアリングエコノミーの推進」は、それぞれが独立した項目として、政府の考え方を展開するのみで、実際に地方公共団体がそれぞれの課題に取り組みやすい環境などが整えられているかというと、そこまでの言及はないままとなっています。

最後に登場する「地方デジタル化総合パッケージ」ですが、その内容については、以下のように説明されています。

「今後、地域ごとのデジタル化について、その実態が一覧でき、かつ、IT戦略推進の成果が地域生活の利便性向上につながるよう、可能な限りパッケージ化した施策展開を行っていく。そのため、以下の内容を加えた「地方デジタル化総合パッケージ」を策定し、地方のデジタル改革の加速化を後押ししていくこととする。」

これまで、国は、クラウド化やオープンデータ化、子育てワンストップ化、マイナンバーカード普及などを地方公共団体の課題として展開してきたとし、それらの課題に加えて、以下のような内容を加えて「地方デジタル化総合パッケージ」を策定するとしています。

①自動運転移動サービス等による移動手段の確保
②マイナンバーカードを活用したキャッシュレスによる地域経済活性化
③RPA(Robotic Process Automationの略。AI等の技術を用いて、業務効率化・自動処理を行うこと)等を活用したデジタル自治体行政の推進
④スマートインクルージョンの推進
⑤データ利活用型の街づくりの推進

つまり、クラウド化やオープンデータ化、子育てワンストップ化、マイナンバーカード普及などに加えて、以上のような課題を地方公共団体の課題として積みますことが「地方デジタル化総合パッケージ」ということです。努力義務とは言え、「市町村官民データ活用推進計画」について、全国の市町村の8割で、計画策定の検討すら行なっていないという事態の解決に有効な手立ても示せないまま、課題を増やすことは、逆効果としか思えません。クラウド化やオープンデータ化、子育てワンストップ化、マイナンバーカード普及なども、まだまだ成果が上がっているとは言えず、そのことを地方公共団体ではなく、国の課題として考え、課題の解決に向けて国が何をするのかという明確な方針が求められていると思いますが、ここで述べられている説明からは、そうした考え方は見えてきません。

事業者や個人からすると、国も地方公共団体も行政手続きにおける窓口という意味では、特に区別してみることはありません。例えば電子申告で、国税でできることが、地方税ではできないと知ると、国と地方公共団体で管轄や窓口が違うことを、改めて意識することになります。コネクテッド・ワンストップの視点からすると、こうしたことを意識せずに行政手続きが、デジタルで簡潔に行えることが望まれます。おそらく、国にしても地方公共団体にしても、IT化を先導する人材の不足が課題ではないかと考えられますが、だからこそ、国と地方公共団体で包括的に運用できる計画が必要ではないか、と考えます。

次回は、この視点に立って、「第2部 官民データ活用推進基本計画」を見ていきます。

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 最高顧問
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。現在は、同社最高顧問として、マイナンバー制度やデジタル行政の動きにかかわりつつ、これらの中小企業に与える影響を解説する。