シムトップス i-Reporter事業部 企画・マーケティンググループ チームリーダー 前川泰宏氏

シムトップス i-Reporter事業部 企画・マーケティンググループ チームリーダー 前川泰宏氏

「数字管理は退屈になりがちなんです。でも、“畑が育った”になると自然と楽しくなるんですよね」

こう話すのは、シムトップス i-Reporter事業部 企画・マーケティンググループ チームリーダー 前川泰宏氏だ。

同社では、kintoneを基盤にAIと連携した独自システムを開発。インサイドセールス担当者が20分かけて行っていた事前調査を1分未満へと短縮した。

さらに営業活動を“ゲーム化”し、成果に応じて畑が育つダッシュボードも構築。行動量や商談創出数の向上にもつなげている。

AI時代の業務改善は、単なる効率化だけではない。シムトップスの取り組みは、“人が楽しく働ける仕組み”にも踏み込んでいた。

「調査に時間がかかる」 インサイドセールス現場の課題

シムトップスでは、インサイドセールス担当者が顧客へ架電する前に、膨大な情報収集を行っていた。過去のメール履歴や顧客管理システム、Webサイトの閲覧履歴、導入状況など、確認すべき情報が複数のシステムに分散していたためだ。

「1件の調査に20分程度かかっていました。1人につき1日10件ほど架電するので、かなりの時間を使っていたんです」(前川氏)

また、情報収集の質にも個人差があったという。

経験豊富な担当者であれば、顧客の状況を深く読み取り、適切な切り口を考えられる。一方で、経験が浅い担当者は、どこまで調べればよいか分からず、十分な準備ができないケースもあった。

「経験やキャリアで差が出る部分でした。調査に時間をかけきれず、途中で止めてしまうケースもあったと思います」と前川氏はいう。

こうした課題を解決するため、同社はAIを活用した営業支援システムの開発に乗り出した。

kintoneとAIを連携、営業向けレポートを自動生成

同社が開発した営業支援システムは、サイボウズの業務アプリ構築プラットフォーム「kintone」を情報基盤として活用している。

kintone上には、顧客情報やライセンス情報、トライアル利用状況などが蓄積されており、AIはそれらの情報を参照しながら営業向けレポートを自動生成する。

システム上で顧客のメールアドレスを入力すると、APIを通じてkintone内の情報に加え、企業ニュースや業績情報、Webサイト閲覧履歴などを各種チャネルから収集する。その後、AIが集まった情報をもとに営業向けレポートを作成し、一画面に整理して表示する。

  • AIが企業ニュースや業績情報、Webサイト閲覧履歴など、必要な情報を表示

    AIが企業ニュースや業績情報、Webサイト閲覧履歴など、必要な情報を表示

「さまざまなチャネルから情報を収集してくると同時に、AIが商談を円滑に進めるためのレポートを自動的に生成してくれます」(前川氏)

例えば、グループ企業内で既に製品を導入している企業があれば、「横展開の可能性がある」といった示唆もAIが提示する。

従来は複数システムを行き来して確認していた情報を、AIがまとめて提示することで、営業担当者はより短時間で顧客理解を深められるようになった。

AIが“顧客役”になる営業ロールプレイ機能も実装

同システムは、AIによる営業ロールプレイ機能も搭載している。これは、AIが顧客役となり、営業担当者が実際の商談を想定した練習を行える仕組みだ。

AIには、レポート作成時に収集したさまざまな顧客情報を基本情報として渡されているため、実際の顧客に近い形で応答できるという。

  • AIが、kintoneに蓄積された顧客情報、グループ企業での利用情報やトライアルの実施履歴などを踏まえた形で、営業のロールプレイの相手をしてくれる

    AIが、kintoneに蓄積された顧客情報、グループ企業での利用情報やトライアルの実施履歴などを踏まえた形で、営業のロールプレイの相手をしてくれる

「グループ企業のちどの企業が利用しているかといった情報も、AIが知っている状態で会話してくれるので、以上にリアルなロールプレイになります」(前川氏)

これにより、経験豊富な営業担当者が持っている視点やトークの組み立て方を、チーム全体で共有しやすくなった。

「経験者の目線からどういう話をしたらよいのかをだれもが学べるようになったのは大きかったです」と前川氏は話す。

教育面での効果も大きく、経験年数による差を埋めることにもつながっているという。

営業活動を“ゲーム化” 畑が育つダッシュボードを構築

加えて、同社は営業活動を“ゲーム化”する取り組みにも挑戦している。

ダッシュボードでは、メール送信や架電、商談化などの活動に応じてポイントが加算され、成果が出るほど画面上の“畑”が育っていく。レベルアップの仕組みも実装されており、活動量が一定値を超えると職業レベルが上がる。

  • 活動量に応じて畑が育ち、レベルアップする。まるでゲーム感覚だ

    活動量に応じて畑が育ち、レベルアップする。まるでゲーム感覚だ

「数字を追うだけでは、退屈になりがちです。しかし、数字を追った結果が“レベルアップした”“畑が育った”という状態になると、自然と楽しくなるんですよね」と前川氏は話す。

システムはAIコードエディタ「Cursor」を活用しながら構築した。前川氏自身はエンジニアではないが、自然言語ベースで開発を進めたという。

「以前は、面白いアイデアがあっても、コードが書けないので実現できませんでした。でも今は、アイデアさえあれば形にできる時代になってきたと感じています」と前川氏。

こうしたゲーム化によって、営業チーム内のコミュニケーションも活性化したという。

「“ポイントを埋めたくなる”という感覚が自然に生まれて、楽しみながら取り組んでいます」(前川氏)

「20分の調査」が1分未満に 営業活動の“前準備”が大幅減

こうした取り組みの成果は、数字にも表れている。

情報収集にかかる時間は、1件当たり20分から1分未満へと短縮された。1人当たりでは、1日190分ほどの削減効果になるという。

「実際の架電や商談づくりなどの生産性の高い業務に浮いた時間を回せるようになりました」と前川氏はいう。

営業活動のゲーム化も効果を発揮している。

前年同月比では、従来3人で行っていたレベルの行動量を、2人でこなせるようになった。さらに、インサイドセールスチームの商談創出数は216%まで増加したという。

「単純な効率化だけではなく、“楽しく仕事ができるようになった”という声も出ています。モチベーション面の変化はかなり大きかったと思います」

AI時代にkintoneが生きる理由

同社では、AIと社内データを連携する上で、kintoneの設計が大きな強みになったとみている。特に評価しているのが、アプリ単位でAPIトークンを発行できる点だ。

「AIと連携する際、“どこまで情報を見せるか”がすごく重要です」と話す前川氏だが、kintoneでは、アプリ単位で細かく権限を設定できるため、必要な情報だけをAIに渡しやすいという。

「システム全体の情報を見せるのではなく、必要なアプリだけを連携できるので、管理側としても安心感があります」(前川氏)

前川氏は、AI活用においては“環境設計”が重要になってきていると話す。

「以前は“プロンプトエンジニアリング”が重要と言われていました。しかし、今は“AIがどこまで見に行けるか”を設計するほうが重要になってきています」

その意味で、kintoneのシンプルな権限設計は、AI時代との相性が良いと感じているという。

「業務課題を持つ人が最強」 現場主導DXの可能性

このシステムは、情報システム部門主導ではなく、現場主導で開発された。前川氏は、「業務課題を持っている人が、自分で改善できる時代になってきた」と話す。

「今、業務課題を持っている人が最強だと思います。困っている本人が、一番“こうなったら便利”をわかっているからです」

インサイドセールスチームから寄せられた要望にも、AIを使いながら迅速に対応しているという。「“こう変えてほしい”と言われたら、すぐ修正できるようになりました」(前川氏)

現在は、他部署からも「自分たちもこういう仕組みを作りたい」という声が出始めている。

今後は、AIやゲームフィケーションを組み合わせた仕組みを、さらに横展開していく考えだ。

「“こういうことができたら面白い”を、どんどん形にできる時代になってきました。もっと楽しく働ける仕組みを作っていきたいですね」