電子帳簿保存法の2021年度改正については、税制改正大綱のレベルで第115回の連載でも取り上げました。前回の記事では、「電子帳簿保存」や「スキャナ保存」の要件の緩和を中心に取り上げ、「電子取引」については電子データとして保存する場合の要件のみを取り上げ、中小事業者にも影響のある重要なポイントへの言及が抜けてしまいました。 その重要なポイントとは、今回の改正で「電子取引」については、電子データでの保存が義務化される点です。

今回は、電子帳簿保存法改正により、「電子取引」で電子データでの保存が義務化されることによる事業者への影響と対策について考えてみます。

「電子取引」と電子データ保存の義務化

電子帳簿保存法第2条で、「電子取引」については以下のように定義されています。

「取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。」

「電子取引」とは具体的にどのようなものかについては、国税庁の電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問2「電子取引とは、どのようなものをいいますか」で、具体的に「EDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含みます。)、インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引等をいいます。」と回答されています。

つまり、システムで作成した請求書等をPDFにしてメール添付で授受する場合や、インターネットで購入した商品についてネットで発行された領収書をPDFでダウンロードする場合などが「電子取引」に該当します。多くの事業者で、このような取引が少なからず存在するのではないでしょうか。

この「電子取引」で授受される取引情報の保存について、旧法では以下のように決められていました。

(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)
第十条
 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。ただし、財務省令で定めるところにより、当該電磁的記録を出力することにより作成した書面又は電子計算機出力マイクロフィルムを保存する場合は、この限りでない。

これが、今回の改正後には以下のように変更されていました。

(電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存)
第七条
 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。

旧法ではPDFなどの電子データを出力した書面での保存が認められていましたが、改正後はこれができなくなり、「電子取引」で授受した取引情報については、必ず電子データで保存しなければならないことになりました。

この「電子取引」における電子データ保存の義務化は、2022年1月1日施行となります。2021年12月31日までに行われた取引で「電子取引」に該当しても、電子データを出力した書面で保存することができますが、2022年1月1日以降は必ず電子データで保存しなければならなくなります。また、電子データで保存する場合は定められた保存要件を守らなければなりません。

電子帳簿保存法の趣旨と「電子取引」の電子データ保存義務化

電子帳簿保存法の正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」です。国税関係帳簿書類については原則書面の保存が求められるなか、以下の電子帳簿保存法第一条の「趣旨」の考え方、「納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のために」、電子データによる保存を「特例」として認める法律と位置付けることができます。

(趣旨)
第一条
 この法律は、情報化社会に対応し、国税の納税義務の適正な履行を確保しつつ納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のため、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等について、所得税法(昭和四十年法律第三十三号)、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)その他の国税に関する法律の特例を定めるものとする。

この電子帳簿保存法の2021年度改正では、「電子帳簿保存」と「スキャナ保存」については電子保存の要件が大幅に緩和されました。これらについては、承認申請が不要になる、電子データ保存のための要件が緩和される、などの措置が講じられました。

第115回の連載でも書きましたが、「電子帳簿保存」の2020年3月までの累計承認件数は約27万件、「スキャナ保存」の2020年3月までの累計承認件数は約4千件でした。「電子帳簿保存」の承認件数も全事業者数を考えると決して多いとは言えませんが、「スキャナ保存」の承認件数はあまりにも少ないため、民間の経済団体などから要件緩和の要望が寄せられ、今回の改正に至ったものと考えられます。この流れは、電子帳簿保存法の「趣旨」にある「納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のため」という考え方に即したものといえます。

ところが、「電子取引」における電子データ保存の義務化は、事業者に新たな負担を強いるものであり、「納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のため」という電子帳簿保存法の趣旨に反するものとなるのではないでしょうか。

国税庁の電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】の問42では

「電子取引の取引情報に係る電磁的記録について保存要件を満たして保存できないため、全て書面等に出力して保存していますが、これでは保存義務を果たしていることにはならないため青色申告の承認が取り消されてしまうのでしょうか。また、その電磁的記録や書面等は税務調査においてどのように取り扱われるのでしょうか。」

という問いに対して、以下のような回答がされています。

「令和4年1月1日以後に行う電子取引の取引情報に係る電磁的記録については、その電磁的記録を出力した書面等による保存をもって、当該電磁的記録の保存に代えることはできません。したがって、災害等による事情がなく、その電磁的記録が保存要件に従って保存されていない場合は、青色申告の承認の取消対象となり得ます。なお、青色申告の承認の取消しについては、違反の程度等を総合勘案の上、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるかどうか等を検討した上、その適用を判断しています。また、その電磁的記録を要件に従って保存していない場合やその電磁的記録を出力した書面等を保存している場合については、その電磁的記録や書面等は、国税関係書類以外の書類とみなされません。ただし、その申告内容の適正性については、税務調査において、納税者からの追加的な説明や資料提出、取引先の情報等を総合勘案して確認することとなります。」

大事なポイントなので、質問・回答とも全文を掲載しました。「総合勘案」というあいまいな表現のため、実際の判断基準は明確ではないですが、「電子取引」では電子データを「出力した書面」で保存していても、それは法律に則った保存とは認められないため、青色申告の承認の取消しもありうるとしています。

これは、あまりにも厳しすぎる対応ではないでしょうか。

(図1)は、国税庁の電子帳簿保存法一問一答などで示されている「帳簿書類等の保存方法」を示した図です。

この図の青い点線より上に置かれている帳簿・書類では、コンピュータで作成したものでも、「出力した紙」の保存が認められています。「電子取引」のみ「出力した紙」の部分がすっぽり抜けていることに違和感を感じるのは私だけでしょうか。

うがった見方をすると、この改正については、「社会のデジタル化」を掲げる政府が、電子データでやり取りしている「電子取引」において「出力する紙」での保存をなくすことで、「電子取引」を促進してデジタル原則に進んでいきたい意向が働いたのではないかと考えてしまいます。

ただし、電子帳簿保存法はあくまで電子保存を特例とする法律です。また、その趣旨には「納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する等のため」ということが、明確に記載されています。

長い目で見れば、様々な分野で紙ではなく電子データによるやり取りや保存が原則になる日がくるでしょう。ただし、そのために必要なのは、小手先での法律改正ではなく、行政、事業者も含めた業務フローが改善される形での実現です。「デジタル社会形成基本法」では、「利用の機会等の格差の是正」が基本理念として規定されています。政府は、現在「電子取引」を行なっているすべての事業者が施行日以降、この改正に対応できると考えているのでしょうか。

事業者に新たな負担を強いることになる「電子取引」における電子データ保存の義務化については、施行期日を延期するなり、電子データ保存の要件や罰則をもっと緩和するなどの、追加の施策を政府に対しては要望したいと思います。

「電子取引」をしている事業者がとるべき対策

ここからは、2022年1月1日より「電子取引」における電子データ保存の義務化が施行されることを前提に事業者が準備しておく対策を考えてみましょう。

売り手・買い手として「電子取引」の有無をチェックする

BtoBの取引においては、商品やサービスの販売に際して、納品書や請求書を取引先に発行します。納品書や請求書を紙に出力して郵送している場合は「電子取引」に該当しませんが、PDFに出力してメール添付で送っている場合や、メール本文に納品書や請求書の情報を記載して送っている場合は「電子取引」に該当します。

コロナ禍で、紙で郵送されてくる請求書の処理のために出社しなければならないことが、テレワーク推進の妨げになっていることが話題になり、この1~2年で納品書や請求書について、上記のようなメールでのやり取りに移行した事業者はかなり多いのではないでしょうか。

まず、売り手として取引先への請求書等の発行をどのような方法で行なっているか、また買い手として請求書等をどのような方法で受け取っているか確認しましょう。

さらに買い手の立場では、従業員から経費精算で提出される領収書などに、ネット通販などを利用して品物などを購入し、ネットからダウンロードした領収書があるかどうかもチェックしましょう。

「電子取引」がある場合、今後も「電子取引」で行うかどうか検討する

売り手として請求書等を「電子取引」で送付している場合、その請求書控えを電子データで保存する必要があります。また、受け手側の取引先が「電子取引」における電子データの保存が可能かどうかを確認する必要があります。それによっては受け手側の取引先から「出力した紙」の郵送が求められるケースも考えられます。

また、買い手としても、取引先との間で同様の確認が必要になります。

自社も取引先も「電子取引」における電子データ保存に対応したシステムを利用することで電子データ保存に対応することもできます。ただし、双方の事情によっては、「出力した紙」を郵送することに戻すケースも出てくる可能性は考えておく必要があります。

一方、ネット通販で発行される領収書については、買い手側からコントロールすることは難しい課題です。ネット通販を利用せずリアル店舗で購入して「紙」の領収書をもらうように切り替えることも考えられます。ただし、コストがかかったり利便性を損なうようになったりするのであれば、「電子取引」の領収書等を電子データ保存するようにするしかありません。

「電子取引」の電子データ保存に対応する方法を検討する

現状「電子取引」がない場合は、何もしなくて良いことになります。 また、請求書等を「電子取引」で送付しているケースが少ない場合、自社でコントロールして「紙」に戻すことができれば、それで済ますこともできます。

ただし、「電子取引」で請求書等を受け取っていて取引先が「電子取引」を継続する場合や、自社で行なっている「電子取引」の利便性をこのまま継続していきたい場合は、「電子取引」の領収書等も含めて、電子データ保存への対応方法を検討することになります。

(図2)は、国税庁の「電子帳簿保存法が改正されました」という改正の概要をまとめたチラシの「電子取引の保存要件」の部分です。

まず、「真実性の要件」ですが[図2]の①~④のいずれかを満たせば良いことになります。①~③については、電子データを管理するシステムがこの要件を満たしていることが必要となります。新たにシステムを導入して、電子データを保存・管理する場合は、これらのどの要件を満たしているのか、を確認する必要があります。

①~③に対応したシステムによらずに対応する場合は、④の要件で対応することになります。この④の事務処理規定については、電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】の問24で、雛形が提示されていますので、これをベースに自社に合わせて作成すれば良いことになります。ただし、④の要件で対応する場合に大事なのは、事務処理規定を作成することではなく、それに沿った運用を行うことになりますので、規定として必要な要素を満たすとともに、きちんと運用できるかどうかを確認しておくことが大事です。

次に可視性の要件ですが、「電子取引」を行う以上、事業者側で電子データをディスプレイ等により確認できるようにすることは問題ないでしょう。そうすると、ここで課題になるのは検索機能ということになります。

(図3)は帳簿の検索要件①~③の内容です。

(図2)にある通り、何らかのドライブ等に保存した「電子取引」の電子データをダウンロードできるのであれば、検索要件の②・③は不要になりますので、最低限検索要件の①を満たせば良いことになります。

電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】では、これについて問33でふれています。

電子データを登録する際のファイル名に取引年月日、取引金額、取引先を記載する方法、または、登録した電子データにあらかじめ番号を振っておき、別途表計算ソフトなどにインデックスとしてその番号と取引年月日、取引金額、取引先を記載する方法などが示されています。

「電子取引」における電子データ保存に対応する場合、「真実性の要件」で④を選択した場合は、上記の通り「可視性の要件」で検索要件の①にどのように対応するかも決めて運用する必要がありますので、この点ご留意ください。

「電子取引」の電子データ保存に対応したシステムは、既に対応済みのものから、新たに対応してくるものなども出てくると思われます。中小事業者が「電子取引」の電子データ保存に対応する場合は、新たにシステムを導入するか、上記のように「真実性の要件」に④で対応し、既存の機能をうまく使って「可視性の要件」もクリアするか、いずれかになると思われます。

前項では、この「電子取引」における電子データ保存の義務化について、施行期日の延期など政府への要望も記載しましたが、実際にはこのまま施行される可能性が高いことから、「電子取引」を行なっている事業者の方には、早めに自社の現状把握から始めて、対策を練っていくことをお勧めします。

中尾 健一(なかおけんいち)
Mikatus(ミカタス)株式会社 最高顧問

1982年、日本デジタル研究所 (JDL)入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。現在は、2019年10月25日に社名変更したMikatus株式会社の最高顧問として、マイナンバー制度やデジタル行政の動きにかかわりつつ、これらの中小企業に与える影響を解説する。