オーストラリア国防軍は2026年6月、演習「Taipan Strike 2026」の一環として、サウスオーストラリア州のウーメラ試験場でSM-2艦対空ミサイルを陸上から発射し、標的機を撃墜した。本来はイージス艦などで使用するSM-2を、なぜ陸上から撃ったのか。
実は今回の試験では、仮想化したイージス・システムや豪州製レーダー、車載発射機を組み合わせ、いわば「陸上版イージス」ともいえる防空システムを構成していた。その仕組みを見ていこう。→連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照
艦対空ミサイル「SM-2」をなぜ陸上から撃ったのか
今回の試験のポイントは、SM-2ミサイルやイージス・システムといった既存の製品を組み合わせて、陸上配備の広域防空システムを構築した点にある。
7月29日にロッキード・マーティンが出したプレスリリースによると、これはMRGBAD(Medium Range Ground Based Air Defence)、つまり「中射程陸上配備防空システム」のプロトタイプを用いた試験。SM-2を用いてBQM-74E標的機を撃墜したとしている。
試験の目的は、巡航ミサイルの迎撃。無人機の迎撃に使うには、SM-2はいささか高価すぎる貴重な資産であるから、やはりSM-2に見合った高価値目標を迎え撃つことに有用性がある。
本来、SM-2は艦対空ミサイルで、陸上配備の防空システムとして正式な調達プログラムになった事例はない。ただ、その射程の長さと実績は魅力的なものといえる。比較的、低いリスクで、広い範囲をカバーできる優秀な防空システムを構成できるからだ。
そのSM-2を撃つには捜索、目標の捕捉追尾、そして射撃指揮のための道具立てが要る。それをどのように実現したか。
この試験では、レーダーとしてオーストラリアのCEAテクノロジーズが手掛けているレーダーを用いた。機種は不明だが、この試験のためにわざわざ新しいレーダーを起こしたとは考えにくい。
同社が手掛けている艦載アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダーにはCEAFARとCEAFAR2があり、周波数帯はLバンドのモデルとSバンドのモデルがある。また、射撃指揮レーダーとしてCEAMOUNTがある。
CEAFARのSバンド版CEAFAR-1SとLバンド版CEAFAR-2L、それとCEAMOUNTの組み合わせは、オーストラリア海軍のANZAC級フリゲートを対象とするASMD(Anti-Ship Missile Defence)改修で実績がある。
-

豪海軍のANZAC級フリゲートが搭載するCEA製レーダーの一群。塔型構造物の上段にある大きな菱形アレイがCEAFAR-2L、下段にある小さな菱形アレイがCEAFAR-1S(単にCEAFARとも)、その横にある小さな縦長のアレイがCEAMOUNT 撮影:井上孝司
産業基盤維持の観点、そして海軍の既存装備との共通性を考えれば、レーダーにCEAFARの一族を使うのは筋が通る。ただし、ANZAC級のASMD改修では指揮管制システムとしてサーブの9LVを使用していたが、今回のMRGBADは違う。
防空システムの“頭脳”は仮想化イージス「VAWS」
MRGBADの“頭脳”として使用したのは、ロッキード・マーティンの仮想化イージス・システム、VAWS(Virtualised Aegis Weapons System)。その名の通り、可搬式のコンピュータで仮想化技術を用いて、既存のイージス・システムと同じソフトウェアを走らせる。
以前に第498回や第513回で触れたことがあるVAWSだが、キモは「実績あるイージス・システムの機能を持ち出せる」点にある。その際に、イージス艦が搭載する大がかりなコンピュータ機器を用意しなくてもいい。
無論、初期のイージス・システムと比べれば、ベースライン9で使用しているコンピュータ・ハードウェア、AN/UYQ-107 CPS(Common Processing System)は、だいぶコンパクトになっている。たまたまムーアズタウンで現物を見たことがあるが、キャビネットの高さは筆者の身長と大差ないぐらいであった。
そして、イージス・システムとCEAテクノロジーズ製のレーダーの組み合わせは、オーストラリア海軍が建造計画を進めているハンター級フリゲートと基本的に共通する。だから開発リスクの低減だけでなく、調達・運用・維持管理のいずれをとっても共通化のメリットがある。
また、既存のイージス・システム用のプログラム・コードがそのまま走るのであれば、CSL(Common Source Library)によるプログラム・コード一括管理の恩恵に浴することもできる。CSLに改良版やバグフィックス版のコードが入れば、それを取り込んでアップデートできる。独自のシステムを組んでしまうと、それがみんな自前の負担になる。
SM-2発射機をトレーラーに、機動性と引き換えになったもの
発射機はデリンジャー(Derringer)と称し、Expeditionary Launch Systemを車載化したもの。ただし、同じ車載式発射機でも、米陸軍のタイフォン・システムことMRC(Mid-Range Capability)が4連装なのに対して、こちらは連装という違いがある。
写真で、横に立っている人との対比から発射筒の全長を推算すると、Mk.41垂直発射システム(VLS : Vertical Launch System)のストライク・レングスと同程度の長さはありそうだ。それならブースター付きのSM-2でも撃てそうだが、イージス艦のSM-2はブースターがないMRタイプが基本だ。
ともあれ、トレーラー1両で2発しか撃てない。その分だけ機動性は向上するが、弾数を多く確保するのは難しくなる。それに、SM-2を初めとする道具立ては決して安価ではないので、貴重な資産を防護するための高性能な防空システム、という位置付けにならざるを得ないだろう。
すると、貴重なSM-2を確実に有効活用して脅威を排除するには、捕捉追尾した目標の優先順位付けと射撃指揮が課題になる。そこで、すでに実績があるイージス・システムの頭脳をVAWSという形で“拝借” することは、低リスクで確実性が高いソリューションとなろう。

