ミサイル防衛の話もだいぶ長く続いてきたので、この辺でいったん締めることにしたい。そこで最後に取り上げる話題が「C-RAM」である。RAMといっても、前回に少し言及したRolling Airframe Missileや、Random Access Memoryの話ではない。

C-RAMとは

C-RAMとはCounter Artillery, Rocket and Mortar、つまり「ロケット、⽕砲、迫撃砲への対処」という意味である。この場合の火砲とは野砲のことだ。迫撃砲の弾は高い角度で打ち上げる曲射弾道を、カノン砲の弾は低い角度の低伸弾道を、野砲の弾はその中間の弾道をとる。と考えれば、それほど外してはいない。

それはともかく、要は「飛んでくる砲弾やロケットを迎え撃て」という話である。砲弾はサイズが小さく、せいぜい155mm径ぐらいだろうか。ロケットも、いわゆる弾道ミサイルと比べると小型で射程距離が短い。一見したところでは、弾道ミサイルと比べるとローテクで「ちょろい」目標に見えるのだが、そんなことはない。

まず、対象が小さければそれだけ探知が困難になる。次に、射程距離が短いということは、発射してから着弾するまでの時間が短い上に、発射地点は迎撃地点から遠くないということだ。

すると必然的に、着弾が予想される地点、あるいは護りを固めなければならない地点で待ち受ける必要がある。そして、全周監視が可能なレーダーを常に作動させておき、飛来したら直ちに迎撃する。当然ながら、迎撃のための時間的余裕は極めて乏しい。

実は、以前に取り上げたアイアン・ドームは、弾道ミサイル防衛網の最下層を受け持つ資産であると同時に、C-RAM資産としても機能している。

イスラエルは、ガザ地区やレバノンから日常的に砲弾やロケットが飛来する状況に置かれており、アイアン・ドームは、それを迎え撃つための実戦を積み重ねてきている。Youtubeなどの動画投稿サイトで、キーワードに「Iron Dome」と指定して検索すれば、アイアン・ドームが実際に交戦している模様を撮影した動画がたくさん出てくる。

以下に示したのは、メーカーのラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズがリリースしている動画。よくよく見ると、無人標的機も迎撃の対象になっているのがわかる。

WATCH: Additional Leap Forward in the Development of the IRON DOME

C-RAMの手段を艦から陸揚げ

「近距離防空の手段」「時間的余裕が乏しい」「相手の飛翔速度はそれなりに速い」というと、C-RAM以外にも似たような分野がある。対艦ミサイル迎撃の最終段階である。もっとも艦艇の場合、砲弾が飛んでくることはあまりなさそうではあるが。

その対艦ミサイル迎撃の「最後の盾」として、最も広く知られているのは、レイセオン・テクノロジーズ製のMk.15ファランクスCIWS(Close-In Weapon System)。ゼネラル・エレクトリック製の20mmガトリング機関砲M61を旋回・俯仰が可能な架台に載せて、捜索レーダーと射撃管制レーダーを組み合わせている。

  • 護衛艦「あたご」のファランクスCIWS

ファランクスCIWSのミソは、これら構成要素が一体になっていて、電源さえ供給すれば単独で機能できるところ。そこに目をつけて「ファランクスCIWSを陸揚げすればC-RAMの役に立つのでは?」と考えた人が現れた。

それが、MLPWS(Mobile Land-Based Phalanx Weapon System)こと「センチュリオン」。陸揚げしたファランクスCIWSを、米陸軍制式の大型トラックHEMTT(Heavy Expanded Mobility Tactical Truck)の荷台に載せてしまったものだ。ファランクスのメリット「構成要素が一体になっていて、電源さえ供給すれば単独で機能できる」が意外な形で活きている。

  • ファランクスCIWSを陸揚げしたセンチュリオン 写真 : US Army

この話が出てきたのは、もう10年以上前の話。2010年にアリゾナ州のユマ実験場で試射に供してみたら、迫撃砲弾を28発撃ち落としたというから本物だ。米軍が実際に使用しているほか、昨年には「台湾が飛行場防空用に3基を発注する」との話も報じられた。

C-RAMの厄介な課題

スカッドやノドンみたいな短射程弾道ミサイルが相手だと、弾道ミサイル防衛には「安いミサイルを高価な迎撃手段で迎え撃つ」という非対称性がついて回る。これがC-RAM分野になると、非対称性はさらに顕著なものになる。

(比較の問題だが)もともと砲弾や迫撃砲弾の値段なんてタカが知れているし、何かを精確に破壊するのでなく「嫌がらせ」「妨害」が主目的なら命中精度が悪くても問題にならない。つまり、値の張る射撃統制システムも要らず、適当に狙いをつけて撃てば用が足りる。

ロケットにしても事情は似たり寄ったりで、多少、つくりが雑で命中精度が悪くても困りはしない。撃ったらちゃんと飛んで行って、着弾・起爆してくれれば、それでよい。すると、これもやはり、比較的安いもので済んでしまう。

しかし、それを迎え撃つ側は話が違う。小さなターゲットを短時間の間に探知・捕捉・追尾して迎え撃つために、多額の費用をかけて迎撃手段を開発・調達しなければならない。おまけに飛来するターゲットの数は多いから、迎撃側も数を揃えないと対抗できない。

だからこそ、C-RAMの分野では、「安い」ということも重要な性能になる。どんなに技術的に優れた製品でも、高価で数を揃えられないのでは役に立たない。その点、既製品の陸揚げで済ませて相応に結果を出しているセンチュリオンはアイデア賞ものだ。また、アイアン・ドームにしても、迎撃ミサイルを安価に作ることには相応に配慮している。

安くつくり、しかもできるだけ迎撃の可能性を高くする。そこで情報通信技術をいかに活用するか、という話になるのではないだろうか。

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。